日本に来て間もなくの頃、ゼノ修道士は聖母の騎士誌の印刷と製本が終わると、長崎の町ばかりでなく、郊外の農村まで片端から歩き回りました。毎日、何百冊も聖母の騎士誌を配りきって帰る頃には、空っぽのはずのカバンの中には大量の名刺が入っていました。
ゼノ修道士は相手かまわず聖母の騎士誌を渡しながら言いました。
「あなた、メイシン、ありマスか?」
「・・・・・・迷信?」
初対面の人は誰でもこの一言で度肝を抜かれました。そして、それが名刺の間違いとわかった時には、たいていの人が笑いこけながら、自分の名刺を渡すか、ゼノ修道士の手帳に自分の住所氏名を書くことになってしまうのでした。
聖母の騎士 2023年11月号より掲載