クラリネット奏者 コハーン・イシュトヴァ―ン。2013年に23歳で母国ハンガリーから日本に移り住み、いくつもの日本のコンクールで第1位を受賞。その後もクラリネットのオーケストラとの共演などでの演奏家であるとともに、作曲家、編曲家、教育者、プロデューサー、さらには音楽フォトグラファー・ビデオグラファーと活動の幅は広い。
そんな彼の日本デビュー10周年を記念するパワフル&エモーショナルなステージ「かぶきもの」。プログラムは、ドビュッシー「ラプソディ第1番」、ブラームス「クラリネットソナタ第2番」、バルトーク「コントラスツ」、そして、コハーン自作の世界初演「ヘブライの風景」「かぶきもの」の2作品。共演に萩原麻未(ピアノ), 滝千春(ヴァイオリン)。東京文化会館(上野)で12月11日夜。
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ブラームス:「メロディーのように」Op.105-1
コハーン・イシュトヴァ―ン日本デビュー10周年記念公演「かぶきもの」に寄せてクラシックにはあまり興味のない音楽ファンの人にこそぜひ聴いてもらいたい。
八木宏之(音楽評論家)
今から10年前、故郷ブダペストで出会った愛する人と人生を分かち合うために、
クラリネット奏者、コハーン・イシュトヴァーンは東京へとやってきた。
23歳のコハーンにとって、遠い異国での暮らしはカルチャーショックの連続だった。
生活も音楽も、全てがハンガリーとは違っていた。
この10年、コハーンは日本の文化や慣習に影響を受けながらも、
ヨーロッパのアイデンティティを大切に守り続けてきた。
ステージに立つ以上、表現には限界を設けない。
そうしたスピリットは、祖国ハンガリーでの少年時代に培われたものだ。
コハーンの演奏は日本でも高く評価され、
日本音楽コンクールをはじめとする数々のコンクールでの優勝も成し遂げた。
しかしコハーンの表現に対する飽くなき探究心は、
調和を重んじる日本社会のなかで、ときに違和感をもたらした。
控えめな美を尊ぶ日本人から見たら、自分は常軌を逸しているのではないか。
どんなに日本人になろうとしても、自分のなかのハンガリーの魂を消し去ることはできない。
コハーンが自身の日本デビュー10周年記念リサイタルに『かぶきもの』というタイトルを与えたのは、そんな想いからだった。
リサイタルの冒頭を飾るコハーンの新曲《かぶきもの》は、
日本という舞台でがむしゃらに舞う自分を描いた自画像である。
クラリネット1本でどれだけの音楽表現が可能なのか、コハーンはその限界を超えていく。
《ラプソディ》第1番は、ドビュッシーがパリ音楽院の試験課題曲として書いた作品。
コンクールの課題曲の定番であり、クラリネット奏者なら誰もが学ぶレパートリーだ。
奏者のテクニックを問うパッセージの奥に隠された、
ドビュッシーの色彩の魔法をコハーンは紐解いていく。
最晩年のブラームスによるクラリネット・ソナタ第2番は、
コハーンが「クラリネットのために書かれたもっとも美しい音楽」と語る傑作。
コハーンの深い呼吸によって紡がれる哀愁に満ちたフレーズを、
萩原麻未のひろがりのあるピアノが優しく包み込む。
バルトークの《コントラスツ》では、ハンガリー音楽の真髄に触れることができるだろう。
コハーンが共演者に選んだのは、もうひとりのかぶきもの、滝千春。
コハーンはヴァイオリンの固定観念を打ち破る滝の演奏に共鳴し、
多くのコラボレーションを重ねてきた。
ふたりのかぶきものによるエキサイティングな対話に、思わず身体が揺さぶられるはずだ。
リサイタルを締めくくるのもコハーンの新作《ヘブライの風景》。
この作品は、尊敬するバルトークの名曲《ハンガリーの風景》へのオマージュである。
クレズマー音楽の調べに導かれて、コハーンのノスタルジアが過去から未来へと運ばれていく。
コハーンが来日以来考え続けてきた問いの答えには、
現代の日本で生きる私たち一人ひとりの内面も映し出されているのではないだろうか。
リサイタル『かぶきもの』は、コハーンの音楽を通して、
自分自身の10年を見つめる時間となるかもしれない。
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イシュトヴァ―ン・コハーン 2つの世界初演について
公演では世界初演の2つの新しい作品を演奏します。
私の作曲ポリシーは、聴く人も演奏する人も楽しめるようにすることです。
20世紀に入ると、クラシック音楽は徐々に娯楽から離れ、知的に満足できるものへと向かっていきました。
それも大事ですが、作曲家が舞台演奏家でもあったあの黄金時代を取り戻したいと思っています。
【ヘブライの風景】は、クレズマーとクラシックだけでなく、ジャズの要素も使用します。
すべての動きには何らかのトピックがあります。
ピアノ、ヴァイオリン、クラリネットのための曲になります。
【かぶきもの】は私自身と日本での私の歴史を音楽的に反映したものです。
音響的にもクラリネットにとっても、観客にとっても挑戦的なものにしたいと思っています。
クラリネットのソロ曲になります。
聴きに来てくださった方々には、本当に忘れられない経験をしていただけることをお約束します。
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イシュトヴァーン・コハーン コメント
僕は日本に住んで10年になります。
2013年、23歳の時に移り住みました。
日本は母国になったけど、僕はやっぱり外国人。
僕はハンガリーから来た「かぶきもの」。
この10周年を祝うために東京文化会館
(僕の日本のキャリアが始まった場所)で
特別なリサイタルをします。
パワフルなプログラムにパワフルな2人、
ピアノ萩原麻未とヴァイオリン滝千春が
一緒に演奏してくれます。
新しく書き下ろす作品を含めて、
クラリネット奏者として僕が表現する世界、
みんなに会えることを楽しみにしています。
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プロフィール István Kohán イシュトヴァーン・コハーン
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1990年生まれ。ハンガリー出身のクラリネット・ソリスト。 6歳でハンガリー国立音楽学校に入学、8歳から父の手ほどきでクラリネットを始める。 12歳でバルトーク音楽院英才教育コースに入学、 J.リヒテルクラリネットコンクール第1位、カルリーノ国際音楽コンクール第1位、 アントンエベルスト国際クラリネットコンクール第1位、 ICA国際クラリネットコンクール第1位など、 数多くの国際コンクールで優勝・入賞を重ねた。 ハンガリー国立リスト音楽院卒業後、2013年7月より活動拠点を日本に移す。 同年第11回東京音楽コンクール第1位 及び聴衆賞受賞、 2015年には第84回日本音楽コンクールにて第1位 及び岩谷賞(聴衆賞)、E.ナカミチ賞を受賞。 国内外の数々のオーケストラやアーティストとも共演を重ねる。 2014年からは作曲・編曲も手がけるほか、 2016年からは東京音楽大学講師として自ら確立した「コハーン・メソッド」により 若手音楽家のサポートに情熱を注いでいる。
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萩原 麻未 ピアノ
2010年第65回ジュネーヴ国際コンクール〈ピアノ部門〉において、日本人として初めて優勝。年によって1位を出さないこの伝統あるコンクールでの8年ぶりの優勝となった。 広島県出身。第27回パルマドーロ国際コンクールにて史上最年少の13歳で第1位。広島音楽高等学校を卒業後、文化庁海外新進芸術家派遣員としてフランスに留学。パリ国立高等音楽院及び同音楽院修士課程、パリ地方音楽院室内楽科、モーツァルテウム音楽院を卒業。現在、日本、フランスを中心に、スイス、ドイツ、イタリア、ベネズエラ、ベトナムなどでソリスト、室内楽奏者として演奏活動を行っている。これまでに、国内主要オーケストラのほか、パスカル・ロフェ指揮/スイス・ロマンド管、フランス国立ロワール管、フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮/南西ドイツ放送響などとも共演を重ねている。また、スイスのグシュタード・ニューイヤー・フェスティバル、ジュラ・フェスティバル、フランスのペリグー・ノワール・フェスティバル、ラ・ロック・ダンテロン、ラ・フォル・ジュルネ(ナント/日本)等の様々な音楽祭に招かれる。近年では広島市民賞のほか、第13回ホテルオークラ音楽賞、第22回新日鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、第22回出光音楽賞、文化庁長官表彰(国際芸術部門)、第46回東燃ゼネラル音楽賞(奨励賞)など多数受賞。メディアでは「題名のない音楽会」「らららクラシック」「クラシック倶楽部」「名曲アルバム」等のテレビ、ラジオ番組にも多数出演している。
滝千春 ヴァイオリン
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ノヴォシビルス ク国際ヴァイオリン・コンクール第1位。ユーディ・メニューイン国際コンクール第1位、ダヴィッ ド・オイストラフ国際コンクール3位など数々の国際コンクールに入賞。高校在学中より本格的に音楽活動を開始し、国内外ソロ・リサイタルをはじめ、CDデビューや、各地主要オーケストラ において、ユベール・スダーン、ゲルト・アルブレヒト、小澤征爾など数多くの指揮者と共演。2012年にはスイスのアニマート・オーケストラにコンサートミストレスとしてヨーロッパ各地の著名なホールで好演後、2015、
2016 年には、スイスのダボス国際音楽祭に招かれ、同年にはベルリン・フィルハーモニー にて新ベルリン交響楽団と共演。2015年~2017年ピクテ投信投資顧問株式会社のピクテ・パトロ ネージュ・プロジェクトのアーティストとして活動。 2018年デビュー10周年記念で開催した「オール・プロコフィエフプログラム」は好評を博し、翌年フランスのル・テュケのムジカ・ニゲラ音楽祭に招かれ、同プログラムが現地で大きな話題となった。2019年1月にはミュンヘン放 送管弦楽団のコンサートミストレスに短期就任。
2021年4月にはオペラシティの「B→C」に出演、過去最多の共演者と楽器、またジャンルで話題を集る。2022年9月にはブダペストのFar Eastern Classic Music Festival に招待され好評を得た。2023年5月には『PROKOFIEV STORY』をリリースし、レコード芸術最終号にて特選盤に選出される等、多数の雑誌、メディアを沸かせた。 柿沼唯、挾間美帆、梅本佑利、山根明季子らに作品の献上されたり、また委託するなど、現代を生きる日本人作曲家達の作品にも積極的に取り組み、自分独自の音楽スタイルを追求している。
概要
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イシュトヴァ―ン・コハーン 日本デビュー10周年記念公演「かぶきもの」
日時会場:2023年12月11日 19:00 東京文化会館 小ホール
出演
イシュトヴァ―ン・コハーン(クラリネット)
萩原麻未(ピアノ)
滝 千春(ヴァイオリン)
プログラム
コハーン:かぶきもの (世界初演)
ドビュッシー:ラプソディ第1番
ブラームス:クラリネットソナタ第2番
バルトーク:コントラスツ
コハーン:ヘブライの風景 (世界初演)
料金:一般 4,500円/学生 3,000円
Teket: https://teket.jp/7714/26615
e+(イープラス): https://eplus.jp/sf/detail/3948820001
主催:B.A.M.E.
問合:03-3970-1776