1987年のチェッカーズがデジタルレストア版で蘇る
“1980年代にタイムスリップ” なんて言葉では括れない、令和の今の時代にも響きまくるエモーショナルなステージ、時代の熱量を見事に切り取った圧巻の2時間。
そう、当時チケットが入手困難、幻のライブ映像と言われた『チェッカーズ 1987 GO TOUR at 中野サンプラザ』デジタルレストア版が全国劇場絶賛公開中だ。この映像は『GO TOUR』の果敢なスケジュールを総括する、中野サンプラザ連続5日公演の4日目を収めたもの。冒頭にツアースケジュールのテロップが入り、カメラは楽屋で自然体の7人を捉える――
変わらず多忙を極め、芸能人、アイドルとしてのポジションを怠らずに、ミュージシャンとしての進化を作品に凝縮した1987年のチェッカーズ。
ミュージシャンであるなら、リハーサル、レコーディングを重ねアルバム作りに専念。そして作品が出来上がったら、新たなる楽曲を引っ提げツアーに出る。いうまでもなく、ツアーは過酷なロードだ。目の前のオーディエンスと向き合いながら夜毎に魂を剥き出して完全燃焼する。これが本懐であろう。
チェッカーズの7人も例外ではなかった。しかし、当時の国民のほとんどは彼らを “ブラウン管の向こう側の人” と捉えていた。そう、芸能人、アイドルとしても一切手を抜かず職責を全うしながら、常にミュージシャンとしての矜持を胸に秘めていた。多忙を極め、時間と戦いながら、常に感度の良いアンテナを張り巡らせる。そうやってインスピレーションを高めながらオリジナリティを確立させ、楽曲制作と向き合ってきた。その結晶が『GO』という5枚目のオリジナルアルバムだ。
―― 楽屋でリラックスしている彼らの姿を見ると、ひとつの目標にたどり着いた自信と安堵を感じずにいられない。しかし、このリラックスした雰囲気は、スタッフたちと円陣を組み、ステージへと向かう姿で一変する。一瞬に全てを賭ける刹那なエナジーがスクリーンからも存分に伝わってくる。
スネアが響き渡った瞬間、チェッカーズの “センター” はクロベエだった
メンバーがステージに揃い、ドラムス、徳永善也のスネアが会場に響き渡った瞬間、観客の嬌声はヒートアップする。この瞬間、チェッカーズの “センター” は紛れもなくクロベエ(徳永)だった。徳永だけではない、クールなリーゼントでロッカーズファッション、低く構えたベースが板についた大土井裕二はクラッシュのポール・シムノンを彷彿させる。同じくリーゼントで決め、50’sスタイルのスーツでバディ・ホリーと同じくストラトキャスターを奏でるリーダーの武内享。クラシカルなズートスーツで佇むサックスの藤井尚之、バッキングのメンバーひとりひとりの個性が見事に調和してチェッカーズの世界観が浮かび上がってくる。
オープニングは『GO』の1曲目に収録された「REVOLUTION 2007」だった。作詞・藤井郁弥、作曲・鶴久政治、ダンサブルなグルーヴに身を委ねるボーカル郁弥、鶴久の見事なフォーメーション、日活映画のスターのような不良性を感じさせる高杢禎彦の存在がバンドの安定感として不可欠なものだというのも明白だ。そう、7人の個性がひとつになり、観せて、聴かせて、熱狂させる唯一無二のチェッカーズがそこにいた。
ⓒTHREE STAR PRO/COM ⓒPONY CANYON INC.
2曲目は、モータウンを代表するテンプテーションズを彷彿とさせる「クレイジーパラダイスへようこそ」、そして、ロックンロールのエナジーが炸裂する初期の代表曲のひとつ「恋のGO GO DANCE」へと続く。初っ端の掴みからチェッカーズはつくづくアルバムアーティストだなと思わずにいられない。50年代、60年代のエッジの効いた音をフォーマットにしたオリジナリティは極めて独自性が高い。ヒット曲を演奏すればそれでOKという安易なステージではないのだ。テレビでは見ることができない彼らの本質がオリジナルの楽曲には詰まっている。
新たな航海に挑むチェッカーズの決意が感じられた「Song for U.S.A.」
アルバムに収録されたオリジナル曲中心のセットリストでステージが進行していく中、風向きが変わったのが中盤演奏された「Song for U.S.A.」だった。前年、これまでヒット曲を連発してきた売野雅勇、芹澤廣明コンビによる最後の楽曲としてリリースされた曲である。藤井郁弥の抑揚を効かせた情感溢れる歌い方がそう思わせたのかもしれないが、この曲こそが、これまでデビューから闇雲に走り続けた時期との決別だと。
This is the Song for U.S.A
最後のアメリカの夢を
俺たちが同じ時代(とき)を
駆けた証しに Sing For All
このフレーズはつまり、アマチュアの久留米時代に映画『アメリカン・グラフィティ』の世界さながらの青春を送り、恋焦がれたオールディーズのカバーからバンドのキャリアをスタートさせた彼らが、オリジナリティを築き上げ、新たなフェーズへと移行した意識の表れだと思えてならなかった。
いうまでもなく、売野・芹澤コンビは、そんな彼らの青春群像を楽曲に表現してきた。だからリアリティがあった。“チェッカーズの青春の世界” の共同制作者だ。だが、リスクを覚悟でここから離れ、新たな世界へ飛び込もうとする決意が郁弥の歌から感じられ目頭が熱くなる。そしてここには7人の結束が不可欠だろう。この7人で新たな航海に挑むチェッカーズの決意がこの日のライブにも垣間見ることができるのだ。
未来に向かう力強さが溢れていたステージのクライマックス
ライブ後半は、「NANA」「YOU'RE A REPLICANT」(『GO』収録)という当時真新しかったナンバーでクライマックスへとなだれ込む。どちらも硬派なブリティッシュビートを下敷きとしながらセクシーさとチャーミングさを兼ね備えたチェッカーズらしい楽曲だ。
それは、「Song for U.S.A.」で感じさせた、センチメンタリズムとは相反した未来に向かう力強さが溢れていた。そして高杢がリードボーカルをとる「GO INTO THE WHOLE」、鶴久の「HE ME TWO(禁じられた二人)」と、7人だからこそのグルーブが観客との一体感を織り成す。特にジャングルビートを主体にアレンジされた「HE ME TWO」の躍動感はライブならではのものだ。
ⓒTHREE STAR PRO/COM ⓒPONY CANYON INC.
そして、シニカルな歌詞とリリックとフックを効かせた武内享のメロディで心が弾けまくる「おまえが嫌いだ」、ブルージーなユニゾンナンバー「BLUES OF IF」で本編の幕は閉じる。そして、アンコールは彼らの久留米時代を短編映画のように描いた「NEXT GENERATION」に始まり、「ジュリアに傷心」「ギザギザハートの子守唄」「I Love you, SAYONARA」という誰もが知るナンバーで締めくくられた。
決して懐かしいだけの思い出にはならない1987年のチェッカーズ
今回の映像化は4K画質相当の映像アップグレーディング、Dolby ATMOSの音声という最先端の技術で蘇った。メンバーひとりひとりの表情の変化がリアルに感じられるし、バンドのアンサンブルもクリアだ。観客の熱狂も、自分がそこにいるかのように伝わってくる。チェッカーズの素晴らしさはやはりライブに凝縮されていた。
しかし、これは “タイムスリップ” という言葉では括れない。なぜなら1987年のチェッカーズの熱狂は今もファンひとりひとりの心の中に生き続けているからだ。そこから地続きで人生は繋がっている。決して懐かしいだけの思い出ではないだろう。
その37年後の2024年現在、藤井フミヤはデビュー40周年のツアー真っ只中で、全国47都道府県、61の会場を全てソールドアウトにしている。
▶︎映画「チェッカーズ 1987 GO TOUR at 中野サンプラザ」上映劇場情報 https://checkerslive.jp/
カタリベ: 本田隆