生き生きと快活に年を重ねるためには、心身ともに健康であることが大切です。健康維持のために、心理学者の内藤誼人氏が推奨するのが「運動」です。内藤氏の著書『老いを楽しむ心理学』(ワニブックス)より、年配者が運動を楽しむためのコツについて詳しく見ていきましょう。
「逆境に耐える力」を鍛える3つの方法
困難な状況や逆境にあっても、「耐え抜く力」のことを、心理学では「レジリエンス」と呼んでいます。「耐性」や「再起力」、「回復力」など、いろいろな訳語があります。
カナダにあるコンコルディア大学のリディア・マニングは、51〜98歳までの1万753名について、2年間での身体機能(入浴、着替え、食事の困難さなど)の衰えを調べてみました。すると、調査開始時点で「レジリエンス」が高い人のほうが、衰えがあまりなく、身体的にも長く健康でいられることを明らかにしています。
では、レジリエンスはどうやって鍛えればよいのでしょうか。
1つめは、「人生に目的や意味を感じる」こと。
生きていくにあたって、何かしら自分なりの目的があると、レジリエンスは高くなります。目的や目標は何でもかまいませんので、「資格をとりたい」、「海外に旅行してみたい」、「英語をマスターしたい」、「結婚したい」など、何かの目的を持つようにしましょう。
ただ漫然と生きているだけでは、レジリエンスは鍛えられません。
2つ目は「ユーモア・センス」。
ユーモア・センスのある人は、レジリエンスも高くなる傾向があります。どんな逆境にあっても、「いやぁ、まいった、アハハ、でも面白いな」と逆境すら面白がるようにするとよいでしょう。
辛い状況にあっても、まるでゲームをしているときのように面白いと思えれば、辛いと感じずにやり過ごすことができます。自分の会社が倒産しても、交通事故に遭っても、これは貴重な経験だと明るく受け止め、不幸な自分を笑い飛ばせるくらいになりたいものです。
3つ目は、「自信を持つ」こと。
どんなにひどい状況でも、「自分なら何とかできる」と信じてください。困難にぶち当たったときでも、「自分なら大丈夫」と自分に言い聞かせるようにするのです。
どんな状況でも、「大丈夫、大丈夫」と声に出していると、本当に大丈夫なような気がしてきます。
レジリエンスというのは、複数の要因から成り立つ概念なのですが、以上の3点を心がけるようにすれば、だれでもレジリエンスを鍛えることができます。
有酸素運動を取り入れる
毎日、数分間でもかまいませんので運動する習慣を身につけましょう。
米国ピッツバーグ大学のカーク・エリクソンは、120名の年配者に週に3回ほど、エアロビ運動をしてもらいました。
エアロビ運動というのは、エアロビクスのダンスが有名ですが、別にダンスでなくとも大丈夫です。筋肉への負担が比較的軽い、有酸素運動のことをエアロビクスと呼びます。具体的には、軽めのウォーキングなどでもよいと思います。
さて、運動をするようになった年配者の脳を調べてみると、海馬の体積が2%増えることがわかりました。海馬は、主に記憶などを司る領域のことですので、記憶力がアップしたと考えてよいでしょう。運動をしていれば、脳も活性化して、ボケにくくなります。
外出が苦手と感じる人は、ヨガはいかがでしょうか。自宅でも簡単にできます。
オーストラリアの健康コンサルタントのジョナサン・ハルパーンは、60歳以上で、不眠症に悩む人を募集し、参加してくれた57名には、12週間のヨガコースを受けてもらいました。26名はコントロール条件に割り振り、特に何かをしてもらうこともしませんでした。
その結果、ヨガを習った人たちは、コントロール条件に比べて、睡眠の質が向上し(ぐっすり快眠できるようになった)、しかも睡眠の長さも改善されました。さらに、うつも減り、疲労も感じにくくなることも明らかにされました。
ヨガは、身体を健康にするだけでなく、ストレスや不安も減少させてくれるのです。
歳をとってくると、激しい運動はリスクを伴います。病気を予防しようとして、つい激しい運動をすると、「年寄りの冷や水」になって、かえってよくありません。
毎日、ストレッチやヨガをしてみてください。10分でも20分でも、少し身体を動かすと気持ちよく睡眠をとることもできますし、メンタルも上向きになります。
内藤 誼人
心理学者