「人生100年時代」を乗り切るためには、用意すべき老後資金も多くなります。年金等である程度は補えますが、残りの不足分を埋めるための対策が必要です。そこで本記事では『一生、月5万円以上の配当を手に入れる! シニアが無理なく儲ける株投資の本』(日本実業出版社)から、著者の川島睦保氏が老後の「資産運用」の必要性や貯蓄とのバランスについて解説していきます。
定年退職後の資産運用は「必須科目」
住友生命のサイト記事「老後の生活費は平均いくら? 資金計画のポイント3つを解説」によれば、平均的な老齢年金額は夫婦で月額約22万円。そこから老後の世帯生活費の平均月額約28万円を差し引くと、毎月約6万円が不足する計算になる。
もし定年後も働き続けることができれば、老後の資金不足を補うメドが立つ。「月当たり不足額(0万円)=生活費(28万円)-公的年金(22万円)-仕事の稼ぎ(6万円)」となる。
しかし、これはあくまで平均的な老後生活費をまかなうためのものだ。ゆとりある老後生活を送りたい場合の生活費は、同サイト記事によれば28万円から36万円へ8万円も跳ねあがる。
その結果、「月当たり不足額(約8万円)=生活費(約36万円)-公的年金(22万円)-仕事の稼ぎ(6万円)」となる。そこで、ゆとりある老後を送るために必要になるのが、資産運用だ。
そのための対策が、定年の10年程度前から老後資金の原資を蓄え、それを運用して退職後は月8万円稼げるようにするというものだ。
それによって方程式は、「月当たり不足額(0円)=生活費(36万円)-公的年金(22万円)-仕事の稼ぎ(6万円)-資産運用(8万円)」に変わる。
ただし資産運用、とくに短期間に株式の配当金だけで月8万円を稼げるようになるのはかなりハードルが高い。最初のうちは資産運用の不足分を、仕事の稼ぎで補うようにすれば良いだろう。
そして将来、夢のような話かもしれないが、資産運用だけで月8万円ではなく月14万円を稼ぐことができるようになれば、その後は働かなくて済む。老後のすべての時間を自分の好きな趣味や旅行、読書に費やすことができるのだ。
保守的すぎる日本のシニア世代
資産運用する場合、現預金を含むすべての資産から何割を運用(投資)に振り向けるのが安全といえるのだろうか。
日本銀行が定期的に公表している「資金循環の日米欧比較」(2023年8月25日)のなかに参考になるデータが掲載されている[図表1]。
[図表1]日米欧の家計の金融資産構成 金融資産合計に占める割合(%) 出所:日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」(2023 年8月)
それは日米欧の各国の家計が資産をどのように配分しているかを示したものだ。日本は米国やユーロ地域に比べると、安全な現金・預金の比率が極めて高い。運用という点では、きわめて保守的だ。一方、米国は現金・預金の比率が日欧に比べ極端に低い。
株式や投資信託へ積極的な投資を行なっている。国民気質や社会制度の違いなどを反映したものだが、米国の事例は一つの参考指標になる。
「人生100年時代」に求められる資産形成への取り組み方
日本の今後の資産運用の環境を見ると、ロシア・ウクライナ戦争、中東情勢の緊張継続など地政学的な要因や円安の長期化などでインフレがますます高進する可能性が高い。
その一方で、少子高齢化に伴う低成長から相対的な低金利状態がしばらく続くと予想される。とくに消費財関連の物価上昇のスピードに、預貯金の金利の引き上げが追いつかない事態が十分考えられる。
このような状況では、預貯金のみで資産を増やすことは不可能だ。むしろ急激なインフレで現金や預金の実質的な価値が大幅に目減りすることを心配する必要がある。
「人生100年時代」で、退職後の生活費用がますます増えていく。日本でも米国並みにリスクを取って資産の拡大に挑戦していくことが求められる。
日本の2人以上世帯の資産構成を年齢別[図表2]に見ると、預貯金は30、40、50歳代と年齢を重ねるごとに比率が減少し、個人年金、債券、株式などのリスク資産の比率が徐々に高まっている。これは所得の増加や子供の自立によって教育負担が軽減する一方で、退職後への準備で資産運用に取りかかる人が増えるからだ。
[図表2]日本の2人以上世帯の資産構成の割合 出所:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯調査)」(令和4年)
しかし60歳代になると、再び現預金の比率が高まる。株式などリスク資産の比率は頭打ちとなる。退職後は、突然の病気やケガなどに備えた現預金の必要性が高まり、収入も先細りで投資リスクへの許容度が再び低下するためだ。
しかし、この程度の〝腰が引けた〟資産運用では、「人生100年時代」を本格的に生き延びることはできない。寿命の延長で生活費自体が大きく増えるうえ、インフレによって預貯金は目減りし、さらに公的年金も頭打ち(あるいは引き下げ)になることが予想されるからだ。
60、70、80歳代になっても50歳代と同じような、あるいはそれ以上の積極的な資産運用に取り組む必要がある。米国は金融資産に占める株式と投資信託の比率が50%を超えているが、日本は15%にすぎない。日本の家計は米国並みとはいわないが、現状の2倍程度までリスク資産の比率を拡大する余地はある。
60、70歳代以上の高齢になっても、50歳代以上に現預金の割合を減らし、リスク資産の比率を高めないと快適なシニアライフには手が届かないかもしれない。
50歳代になったら総産の棚卸しを!
株式や投資信託などリスク資産の割合を高めるため、日本の家計は現預金の割合をどこまで減らすことができるだろうか。50歳代以上のシニア世代は万一の備えとしてどのくらいの現預金をキープしておけばよいのだろうか。
おカネは次の3種類に色分けできる。
①日々の生活に必要な当面のおカネ
②将来使う予定のあるおカネ
③将来使う予定のないおカネ
①が食費や光熱・水道料、交際費、住宅ローンの支払いなどの生活費や、ケガや病気になったときの治療費などである。現預金でいつでも使えるようにしておかなければならない。
②は子供の進学の際の入学資金や授業料、家の改築、家電製品や車の買い替え費用などだ。③が株式や投資信託などへの運用に投じることのできる資金だ。
マネーの専門家によると、①は、月々の生活費の3カ月~1年分が一応の目安となる。毎月の生活費が30万円であれば90万~360万円を現預金で持っておくのが望ましい。これに、突然の冠婚葬祭や医療費、介護費などの備えとして100万円くらいをプラスしておけば安心だ。
②は、各個人の生活様式や家族構成によって異なるから一般的な数字で示すことはできないが、いずれも支出の時期やおおよその金額がわかっている。預貯金など流動性の高い資産で保持しておく必要がある。
ここで重要なのは、50歳代になって退職後の生活が視野に入ってきたときに、手持ちのおカネをこうした3分類法で〝棚卸し〟して、③の退職後の生活を豊かにするための資産運用に回せる金額をはっきりさせておくことだ。それが資産運用の第一歩となる。
川島 睦保
フリージャーナリスト、翻訳家
※本記事は『一生、月5万円以上の配当を手に入れる! シニアが無理なく儲ける株投資の本』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。