なにがあるかわからないから……親が高齢になるにつれ、免許返納を勧めたり、海外旅行をやめるよう助言したりと、子どもは親に対しあれこれと心配し始めます。しかし、東大卒で精神科医の和田秀樹氏は「子の心配は恐れず、行動せよ」といいます。なぜなら、子が親を心配するのには“本当の理由”が隠れているからだそう……。和田氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、詳しくみていきましょう。
たとえ“老害”と言われても…子どもにお金は残さず「自由恋愛」すべし
残された人生、好きなことをするにはそれなりにお金も必要ですが、大事なことが1つあります。それは、子どもにお金を残してはいけないということです。
子どもに金を残さないというと、それこそ子どもたちから老害と言われそうですが、気にしてはいけません。それに、子どもにお金を残すと、ろくなことがありません。
こんな話をよく聞きます。そこそこ財産のある高齢男性が、妻と死別したとします。そして、なじみの料理屋の女将さんと仲よくなったとします。2人が愛し合って、結婚しようと思ったら、子どもたちに大反対されるといった話です。
逆に、夫を先に亡くした高齢女性にもありそうな話です。女性はけっこう財産があり、若い男性と恋に落ちて、結婚することになったとします。そして、その男性がほとんどお金を持っていなかったりすると、やっぱり子どもたちから反対されるのです。
反対の理由は「再婚なんてダメ。そんなの騙されているに決まっている」です。しかし、改めて言うまでもありませんが、結婚は両性の自由意思でするもの。ところが高齢になると、そんな自由意思すらも認めてもらえません。免許返納もそうですが、この国では高齢者の自由意思はどんどん奪われていくのです。
いったい何のためにお金を稼いできたのでしょうか。こういうケースでは、お金をいっぱい持っている人ほど不幸です。それでも、子どもの反対を押しきって、再婚したらきっと子どもから老害と呼ばれるでしょう。
でも子どもにお金を残す義務はありませんし、子どもといっても成人しているのですから、お金を残せば子どもを甘やかせるだけではないのでしょうか。
“最後かもしれない旅行”も恐れずに実行
70代、80代ともなると、「これが最後の旅行になるかもしれない」と思って旅に出る人が少なくありません。特に海外旅行の場合、そう思って行かれる人が多いのではないでしょうか。
コロナのパンデミック(世界的大流行)で、2020年、2021年は行きたくても行けなかったわけですし、今後も何があるかわからないので、「最後の海外旅行」という意味合いはますます強まっていくと思います。
しかし、これも子どもにはなかなか受け入れてもらえません。「俺は老い先短いんだから、海外に行かせてくれ」と懇願しても、「旅先で何があるかわからない」などと反対されるでしょう。
海外での事故や病気の心配をしているのはウソではないかもしれませんが、海外旅行は金額が大きいですから、それが惜しくて子どもたちは反対しているのかもしれません。それでも「行く」と言えば、やっぱり老害と言われるのでしょう。
でも子どもに老害と言われることをいちいち気にしていたら、行きたい場所に自由に行くこともできません。
何度もいいますが、子どもたちから、老害と言われることを恐れてはいけません。生きている間に、どうしてもこの目で見てみたい場所があったら、行ってみましょう。
万が一、旅先で亡くなったとしても、海外旅行保険に入っていくのですから、子どもたちに金銭的な迷惑をかけることもありません。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表