進撃の巨人、52ヘルツのクジラたち…「聖地巡礼」で大分県内に経済効果【大分県】

台湾からミュージアムを訪れた「進撃の巨人」ファン=4月、日田市大山町

 アニメや映画のゆかりの地を巡る「聖地巡礼」。人気作品の力は絶大で、海外からファンが押しかけることも珍しくない。目当ての記念館やロケ地だけではなく飲食店や宿泊施設にも足を運ぶため、地域全体の盛り上げも期待される。県内の人気スポットの経済効果を探った。

 「こんなに心をつかまれた作品はない。幸せすぎる空間」。日田市大山町の「進撃の巨人in HITAミュージアム」を4月に訪れた東京都墨田区のアルバイト、千代(ちよ)愛莉さん(22)は目を輝かせた。

 進撃の巨人は、全世界で累計1億4千万部が発行された大ヒット漫画で、アニメも人気を集める。作者の諫山創(はじめ)さんの出身地・日田は国内外のファンの「聖地」とされる。

 2021年3月27日の開館から今年3月末までに延べ30万5千人が訪れた。日田市観光協会が実施したアンケートとミュージアム来館者数を基に試算した「進撃の巨人」の3年間の経済効果は、グッズ購入や飲食、宿泊などで約55億円に上ると推計される。

 千代さんも聖地を目当てに初めて大分県を訪れた。家族3人で日田市内を巡り、2日間の飲食や買い物で2万~3万円を消費した。滞在中は市内の唐揚げ専門店で地元の味を楽しみ、お土産の日本酒を買い求めるなどしたという。

 ミュージアムが設置されている道の駅「水辺の郷おおやま」の森繁基さん(47)は「市中心部から離れた立地や交通アクセスといった課題はあるが、作品が完結した今も熱量は変わらない」と話す。

 映画のロケ地もファンの注目を集める。大分市佐賀関の「媛乃屋(ひめのや)食堂」は、今年3月に公開された映画「52ヘルツのクジラたち」に登場した。原作は21年の本屋大賞を受賞した作家町田そのこさんの同名小説で、大分県が舞台になった。

 公開から1カ月間は問い合わせの電話が多く、客数は前月の1.5倍だった。店長の姫野正博さん(46)は「大分の魚を味わってもらう良い機会になった」と手応えを口にする。

 「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(17年公開)と「坂道のアポロン」(18年公開)は、豊後高田市の「昭和の町」で撮影された。市によると、経済効果の算出はしていないが、人気タレントが来訪したロケ時には飲食店や宿泊施設など町全体が大盛況だったという。当時の担当者は「あんなに人がいる光景は見たことがない」と語る。

 7年たった今もロケ地マップを増刷している。「あれ以来客層が変わり、若い女性が来てくれるようになった」と効果は継続する。

 大分大経済学部の高島拓哉准教授(60)は「聖地巡礼を研究対象にするコンテンツ・ツーリズム学会も生まれるなど、今後も広がりが想定される。一定の経済効果は期待できるが、自治体が介入する場合は公共事業として適切かどうかなど、地域住民の理解を得ていくことが鍵となる」と述べた。 

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