圧倒的なトルクを、意のままに支配する醍醐味。大排気量MTスポーツの面白さ【トヨタ GRスープラ×BMW M2】

スポーツカーにとって、速さを備えていることは確かに魅力のひとつだ。だが本質はそこではない。身体とクルマがひとつになったように走ることの喜び。あえて3ペダルMTの2台でその嬉しさを感じる。(MotorMagazine2024年6月号より再構成)

試乗車概論①トヨタGR スープラRZ「3年目のターニングポイント」

国産ハイパフォーマンススポーツカーの代表とも言えるトヨタ「GRスープラ」に一部改良が実施されたのは、2019年5月に発売を開始してほぼ3年となる2022年4月だった。

ロングノーズ&ショートデッキのシルエットはいかにもスポーツカー。スタイリングは複雑な曲線で構成される。
操作系の各部にBMW車で見慣れた品を配置。ペダル系も同デザインだ。

一番の注目点は8速AT(オートマチックトランスミッション)のみだった「GRスープラ」に、「RZグレード」限定で6速MT(マニュアルトランスミッション)が新設定されたことだろう。搭載される3L 直列6気筒DOHCターボ(387ps/500Nm)エンジンを自在に操る楽しさを追求した、待望のマニュアル仕様だ。

パフォーマンスも格別だ。コンピュータがドライバーのクラッチ、シフト操作に合わせて、最適なエンジン回転数になるよう制御する「iMT」機能が与えられ、格別なスポーツドライブへの期待を高めてくれる。しかも、MT専用の室内サウンドチューニングが施され、加速時の盛り上がりをさらにエキサイティングに演出してくれるという念の入れようだ。

同時に「RZグレード」には、専用の新意匠の鍛造19インチアルミホイールが装着される。「GRヤリス」や「GR86」と統一性を持たせつつ、スポーク形状や断面形状を見直すことより軽量化/高剛性化を両立し、性能向上と機能美を追求したものという。

この一部改良の際、全グレード共通の進化として、ステアリングと足まわりの改良によるハンドリング性能および乗り心地性の向上が図られた。

具体的には、AVS(アダプティブバリアブルサスペンション)の制御とアブソーバーの減衰特性チューニングによる、ロールバランスと乗り心地の改善、スタビライザーブッシュの特性変更による操舵初期の応答性向上、シャシー制御系(AVS、EPS<エレクトリックパワーステアリング>、VSC<ビークルスタビリティコントロール)の見直しによる操舵フィーリングと限界域でのコントロール性の向上といったメニューが並ぶ。(Webモーターマガジンより)

【トヨタGRスープラRZ主要諸元】

●全長×全幅×全高:4380×1865×1295mm●ホイールベース:2470mm●車両重量:1520kg●エンジン:直6DOHCターボ●総排気量:2997cc●ボア×ストローク:82.0×94.6mm●最高出力:285kW(387ps)/5800rpm●最大トルク:500Nm/1800-5000rpm●トランスミッション:6速MT●駆動方式:FR●燃料・タンク容量:プレミアム・52L●WLTCモード燃費:11.0km/L●サスペンション形式:前ストラット/後マルチリンク●ブレーキ 前:Vディスク/Vディスク●タイヤサイズ:前255/35R19、後275/35R19●車両価格(税込):731万3000円

試乗車概論②BMW M2クーペ「理屈ではなくエモ、あるいはエゴ」

2022年3月の新型BMW 2シリーズクーペが登場から、この時の来ることが待たれていた新型「M2」。「BMW M」50周年を記念するM社のハイパフォーマンスモデル第1号として、ついにその姿を現した。

全長は4580mmとコンパクトで、筋肉質なボディデザインも魅力的。
「Mレーストラックパッケージ」オプションの装着で、よりレーシーな印象を強調。3つ並ぶペダルの左には巨大なフットレストを配置。

2世代目へと進化した「M2」の心臓部には3L直6 DOHCツインターボ(最高出力460hp/最大トルク550Nm)が納まる。コンパクトなボディながら、「M3」や「M4」と同じものが搭載されているのだ。走りへの期待は高まるばかりではないだろうか。

トランスミッションは8速AT(MTモード付)を標準として、6速MTがオプションで用意される。駆動方式は近年Mモデルでも採用されることの多い4WDでなく、FR。まさにBMWのDNAが色濃く反映されているモデルといえよう。

そこで気になるのが走行性能だが、静止状態から100km/hまでがわずか4.1秒。この数値は8速ATのもので、オプションの6速MTでは4.3秒となる。

エクステリアは、大型なフレームレスのキドニーグリルとそこに組み合わされた水平のバー、そして横に配列された3分割のロアインテークを特長とする。フロントフェンダー後端の造形や、大きく張り出したリアフェンダーとともに、コンパクトモデルながらかなりの押出し感を感じられる。

インテリアには、12.3インチと14.9インチの大型ディスプレイが配されている。前者が、数々のドライブ操作に関する情報を提供するメーターパネルで、後者が車両やタイヤのセットアップなどのために使われるセンターディスプレイとなる。そして、ドライバーオリエンテッドなコックピット形状を有していることは言うまでもない。(Webモーターマガジンより)

【BMW M2クーペ主要諸元】

●全長×全幅×全高:4580×1885×1410mm●ホイールベース:2745mm●車両重量:1710kg●エンジン:直6DOHCターボ●総排気量:2992cc●ボア×ストローク:84.0×90.0mm●最高出力:338kW(460ps)/6250rpm●最大トルク:550NM2650-5870rpm●トランスミッション:6速MT●駆動方式:FR●燃料・タンク容量:プレミアム・52L●WLTCモード燃費:9.3km/L●サスペンション形式:前ストラット/後マルチリンク●ブレーキ 前:Vディスク/Vディスク●タイヤサイズ:前275/35R19、後285/30R20●車両価格(税込):988万円

【インプレッション】マジンガーZほどではないにせよ「強い」

なぜ、私たちはかくもクルマに執着するのだろうか。元を正せば「移動のツール」である。人と荷物を積み、遠くへ早く移動できる手段として、馬や牛の代わりに発明された。同時に人は、クルマにも馬と同じ魅力を見出したのだ。

各ギアのキャラクターとエンジン回転との組み合わせをじっくり味わいたい。

移動ではなく「操る悦び」である。つまり「ドライビング」だ。

乗馬を経験された方ならば、なぜそれが楽しくて、趣味としてスポーツとして成立するのか、よくご存知だろう。全身を使って生物を操るというそれは、リアルに高性能な「身体の拡張」であった。

クルマは、生きものではないし、馬と違って意志も感情も持たない(クルマ運転好きはそれに近いことを見出そうとするが、ない)けれど、その代わり馬よりも大きく、重く、硬い。そしてかなり速い。

要するに、マジンガーZほどではないにせよ「強い」のだ。

個人的な身体の高性能な拡張性を持つ、という意味においてクルマほど強力な存在は他にない。しかも所有できる=いつ何時でも自由に使っていいのだ。カッコ良いから欲しいという欲望の根拠もまた、そういった強力な拡張性のひとつの結果でしかないだろう。

楽しさを引き出す操作につきまとう現代のジレンマ

スポーツとは、身体を動かす遊び=楽しいことだ。そう考えると、人類史上最高の個人的身体拡張ツールであるクルマを使った楽しいこともまた、できるだけ自分の身体を駆使した方が楽しいと人は思えるのではないか。

身体を座席に滑り込ませれば、クルマとの一体感にあふれる。マニュアルシフトの操作感は、手首の返しで決まるもの。

手足を駆使し、脳をフルに回転させて大きな金属+αの物体を操りながら、一体となって走る。速さのみを求めるのではなく、楽しさを最大限に引き出したいのであれば、そのクルマは両手両足を使う3ペダルのマニュアルトランスミッション(MT)車でなければならないことは明白であろう。

そんな楽しい「3ペダルMT車」を、なぜかくも安易に我々は手放そうとしているのだろうか。ひとつには、クルマが再び本来の用途=移動のツールであることを「思い出して」、工業製品として真面目に実用の進化を遂げたため、だ。

移動のプロセスには、さまざまな弊害=事故や環境破壊などがあって、楽しむこととどうしても対立してしまう。楽しむことよりも優先されるべきことがあった、というわけだ。

もうひとつには、趣味の領域にあった当のスポーツモデルがその付加価値=高性能をあまりに高めすぎた結果、人の物理的な操作では追いつかず、新たな頭脳=コンピュータを使った制御に頼らざるを得なくなったから、である。

もっとも、コンピュータ制御もまた身体の拡張機能として有効であるとも考えられるので、その判断は難しいところではあるが・・・。

ともあれ、楽しさは3ペダルマニュアルに尽きる、と私は思っている。幸い、世の中にはまだ、選び放題というほどではないにせよ、手足を駆使しなければ走らないMT車を新車で買うことができる。中古車なら山のようにあるとはいえ、新車がなくなれば、それもそのうち限られた人の手にしか渡らなくなってしまうので、メーカーが今も作ってくれているという事実はとても重要だ。

気持ち良さを決めるのは、繋がって楽しめるかどうか

一時は消えてなくなりそうな気配だったが、小型スポーツカーの復権があったことで日本市場でも一定のニーズが育まれ、それなりの選択肢を並べることはできる。

かつては多様なストレート6エンジンのラインナップを誇ったトヨタ車。現在ではスープラRZが搭載するBMW製B58B30Bエンジンが日本仕様で唯一の存在。
Mモデルの搭載エンジンは型式が「S」から始まる専用設計のもの。S58B30A型はツインターボ仕様。6速MTとの組み合わせはM2の他、M4クーペにも設定。

今回は、BMW製のストレート6エンジンを積んだ、けれども個性のまるで異なる2台のスポーツモデルに焦点を当てて、MTを駆る喜びについて再発見してみよう。

3ペダルはもちろん、2ペダルにしても変速のタイミングを自ら決めるマニュアル変速をした場合、気持ち良いかそうでないかを決める要素は、結局のところ操られるエンジンの特性に左右される。

自分自身で変速、たとえばシフトアップの瞬間を決めるということは、エンジンと繋がって楽しむ時間の長さを決められる、ということだからだ。

そうなると当然、高回転域まで引っ張って楽しいエンジンであればあるほど、マニュアル変速は楽しいという理屈になる。

今や過給器付きとなり、往年の、具体的にはE46以前のような、シルキーと称された官能性こそ薄れたとはいうものの、BMW製ストレート6エンジンは今の時代にあって、十分に「回して楽しいエンジン」だと言える。

実は、エンジンが普通であってもMT操作の楽しいクルマは存在する。たとえば、マツダロードスターのようなライトウエイトスポーツカーで、3ペダルに限って言えば、手足の駆使が車体の動きとダイレクトに連動する感覚=車体との一体感を楽しめるからだ。

それはさておき今回の2台、BMW M2クーペとトヨタGRスープラRZには、S型とB型の違いはあれども3LターボのBMW製エンジンを積んでいるという点は共通する。

これはよく知られているように、スープラがBMWとトヨタのコラボレーションによってZ4と同時に開発されたという経緯によるもの。それが証拠に、スープラのコクピットに座れば、そこかしこにBMWの存在を感じることができる。

スープラには当初、2ペダルAT仕様の用意しかなかった。一方でZ4の本国仕様には当然の如く3ペダル仕様が存在していたので、早くからスープラ版の3ペダル導入を望む声は多くあった。

デビューからおよそ3年経って投入されたマニュアルのRZは、果たして、期待を超えて楽しいスポーツカーであった。

MTを操る楽しさが備わり、別物のように気持ちが良い

現行モデルのスープラは歴史的に持っていたGT性をやや薄め、80スープラの強靭な部分のみを抽出して発展させたようなモデルだと思う。

ボディ剛性も徹底的に強化されており、トヨタ86に対してねじり剛性で約2.5倍、レクサスLFAをも上回ると公言されていた。
「iMT(インテリジェントマニュアルトランスミッション)」機能で、変速時にはエンジン回転数が自動的に調整される。

筋骨隆々に見えるスタイルはボディの強さの表れだろうし、そもそも2シーター化されて車体サイズだってかなり小さくなった。個人的にはスープラという名前との歴史的な整合性に欠けると思うが、86よりも良くできたピュアスポーツカーである。

それゆえ、マニュアルトランスミッションとの相性はすこぶるつきに良い。どうして最初から出さなかったの?と思ったくらいで、もちろんそこには速さ重視の高性能を御するため、というもっともらしい理由もあったのだろう。

けれども高回転域まで心地良く回るエンジンと、ドライバーとの一体感のあるボディ骨格とパッケージを持つスープラには、前述したマニュアルで操る両方の楽しみが備わっている。

自分の試乗は、あいにく雨の中となった。とはいえ、以前にもMT仕様のスープラには乗っているし、長距離ドライブも経験済み。MTの本格的なスポーツカーというとスパルタンな乗り味を想像する人も多いというが、実用域におけるスープラは従順だ。

クラッチ操作にシビアな点はなく、柔軟なエンジン性能のおかげで多少ズボラな操作をしても街中では問題なく走る。クラッチを踏んで止まることさえ忘れなければ!

トルコンATを介して味わうB58型エンジンとは、もはやまるで別物のように気持ちが良かった。

このストレート6、実用域ではあたかも大排気量エンジンのようなフィールで、マニュアルトランスミッションとの相性が抜群にいい。せっかく「手漕ぎ」で乗るのだ。各ギアのキャラクターとエンジン回転との組み合わせをじっくり味わいたい。

たとえば3速で徐々に加速する感覚や、5速でエンジンとダイレクトに繋がるフィールはというと、実をいえばS58型エンジンを積むM2以上に心地良かったりする。マニュアル運転好きには至福の時間を過ごすことができよう。

そのうえスープラの動きは少しヤンチャだ。滑りやすくデコボコした路面では実にスリリングで、常にドライバーの両手に仕事を要求する。もちろん尻のセンサーもずっと敏感モードにセットしなければならず、そういう意味では心地よく汗をかきたい向きにはちょうど良いスポーツカーである。

太いタイヤと両腕が一体化し、エンジンが回り密度が高まる

一方のM2はどうか。

アクティブMディファレンシャルは当然、標準装備となる。サスペンションには待望のアダプティブダンピングシステムが搭載された。
シフトノブは適正サイズ、軽い力で操作できる。シフトダウン時のエンジン回転数合わせ機能は便利。

日本向けのBMWでいま、3ペダル付きはMモデルに限られている。つまりM専用「S」型エンジンのみに組み合わされているわけで、性能も官能性もそりゃ良いに決まっているわけだけれど、それが操りやすいかと問われるとちょっと過剰だとも思う。

その点、B型エンジンなら、先代M2の前期モデルがそうであったようにストレート6の官能性も余裕をもって味わえた。

とはいえ、その戦闘力の高さを考えると、街中での多少の扱いづらさも我慢するほかない。兄貴分のM4からわずか30ps落ちのS58エンジンを積んだ、言ってみればM4SWB(ショートホイールベース)版というのが、この最新M2の正体なのだから。

実際に駆ってみれば、動き出した瞬間からそういう雰囲気に満ちている。街乗りではソリッドな乗り心地と前脚の存在感の大きさがいかにもM4的だし、比べてさらにスパルタンさを感じることさえあったのはSWB版ゆえだろう。

それでも速度が増すにつれて乗り心地からはカドが取れ、しまいにはビーズの波をくぐっているかのようなライドフィールに包まれる。高速クルーズも、なかなかのものだ。

あれだけでかいタイヤ(とくにフロント)を履いているというのに、存在感こそあれど、まるで違和感なく動く。そんなに太いタイヤと両腕がつながっているようにはまるで思えない。濡れて荒れた路面でも前輪の動きはドライバーに忠実で実に運転しやすい。

車体全体の素晴らしさを増幅するのがS58エンジンの役目である。さすがの力強さと官能フィールで、ドライバーを鼓舞し続けるのだ。

回せば回すほどに足元から腰へと一体感の密度が高まっていく感覚こそ、よくできたエンジンというもので、内燃機関を操る喜びを十分に味わうことができる。

何より、このマニュアルギアボックスの仕上がりが良い。シャシ制御とともに、先代のM2から大幅に良くなったと思えた点だ。

先代のMT仕様は、エンジンの官能性と手足を駆使する楽しみだけで買わせていた。肝心のMTそのものフィールには節度感が欠けており、シフトレバーの操作性そのものが気持ち良いとは決して思えなかった。それが現行モデルではかなり改善されている。

なるほど、すでにこのクラスでも2ペダルの方が圧倒的に速い。何度も言うけれど、MTの役目は速く走らせることではなく、楽しく走らせることにある。Mはそれを知っていたというわけだった。(
文:西川淳/写真:永元秀和、村西一海)

愉しさは3ペダルマニュアルに尽きる、と思っている・・・と、西川氏。「同志」はおそらく少なくない。

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