古田新太「誰一人オイラを見ていなかった」強烈な共演経験をもたらした名女優・大竹しのぶと白石加代子

古田新太 撮影/三浦龍司 ヘアメイク/田中菜月、スタイリスト/渡邉圭祐

近年の主演作で言うと、映画『空白』やドラマ『俺のスカート、どこ行った?』など、重厚感のある難役からコメディまで、幅広い作品で独特な存在感を放つ古田新太(58)。今年で役者歴40年を迎え、先日は『第45回 松尾芸能賞』の優秀賞を受賞するなど一見、順風満帆にみえるが、ここまでの道のりに不安や迷いはなかったのだろうか。役者を志したきっかけやこれまでの道のり、「脇役でいい」と思った出会いなど、自身にとっての変化「THE CHANGE」を聞いた。【第2回/全5回】

小学生の頃に観たミュージカルで役者を目指し、その志が途切れることなく今日まで役者道を駆け抜けてきた古田新太さん。40年来の付き合いになる「劇団☆新感線」への思いや、役者としてのポジションを考えるきっかけになった出来事や気持ちの変化を聞いた。

――古田さんにとって役者歴=新感線歴でもありますが、やはり新感線との出会いは大きな変化の一つだったのでしょうか。

「オイラは大学を卒業したら東京の劇団に入ろうと思っていたんです。なので、まさか大阪の劇団に入るなんて思っていなかったし、出会ったタイミングもよかったと思うんですよ。

新感線は元々つかこうへいさんのコピーをやっていたんですが、渡辺いっけい先輩や筧利夫先輩が新感線を辞めて、いのうえひでのりさんが“音楽劇寄りなことをしたい”って言っているときにオイラが入ったんです。それでいのうえさんに“歌いましょうよ、バンドを入れるっていう手もありますぜ!”とか吹きこんでいたら、けっこう自分の願いが叶っていきました」

40年苦楽を共にした新感線への思い

――今回の『バサラオ』は、福岡県の博多座をはじめ、東京の明治座、大阪のフェスティバスホールと大きな劇場で上演されますが、劇場のサイズ感も舞台作りに影響はありますか?

「昔、『スターライト・エクスプレス』っていうローラースケートを使ったミュージカルがあったんですけど、それと似たようなものを(作家の)中島かずきさんといのうえさんが青山円形劇場でやろうと言い出して。だけど、青山円形は狭くて曲がりきれないから、みんな板の外に落ちていくんです。演じる方は必死にやっていたんだけど、2人からすれば“この間はできたんだから、今回もやれるよ”みたいな感じで。あの2人の頭の中は今も昔とあんまり変わってないです。

最近は使わせてもらう小屋が大きくなってきて、その分実現可能なキャパにはなっているけど、今度は予算が足りないみたいなことになる。サイズが変わったら変わったなりのことを考えなきゃいけないんだろうけど、そこを無茶するのもうちの劇団の味というか、強みなのかな。もうあの2人の悪口しか言っていませんけど(笑)」

――それでも、40年苦楽を共にしてきた劇団への思いは人一倍なのでは?

「40年以上この劇団でやってきて辞められないっていうことは、まだできてないことがいっぱいあるんだろうね。きっと、いのうえさんも中島さんも“いや、まだできるはずだ”みたいな夢みたいなことを思っているんじゃないですか?。だからキャスト、スタッフも含めて、なんとかそれにお応えしたいなと思うから、なかなか解散できないんですよ」

「誰一人オイラのことを見ていなかった」舞台の経験

――これまでの役者人生の中で、ご自身にとっての「変化」はありましたか?

「東京に来た頃は、劇団“第三舞台”や木野花さんとか“小劇場”と言われる人たちと一緒に芝居をやっていました。売れている人たちの芝居を観ては“こいつら歌もできてないし、踊れもしないのに舞台役者って言っているよ”とか“オイラは宇宙で一番上手い”と思っていたんです。でも、真ん中で芯を取って、長セリフを言うような主役は他の人にやってもらって、その人が脱いだ羽織を畳む“番頭”みたいな役どころが性に合っているなと、だんだん思うようになりました」

――「自分は番頭に向いている」と思うようになったきっかけがあったのでしょうか。

「野田秀樹さんに呼ばれて、舞台『虎 ~野田秀樹の国性爺合戦~』で大竹しのぶさんと白石加代子さんと共演したことがあるのですが、舞台上で2人の間に立ったときに“オイラは芯の人じゃないんだ”と思わされました。観客の全員がしのぶさんと加代子さんしか見ていない、誰一人オイラを見ていなかった。そのときから、自分はサブの方がいいな、しかも落ち着くなと思うようになったんです。

同じ時期に、新感線の公演に劇団員以外のゲストをメインに呼ぶようになったんだけど、当時は相手役が多かったんです。そういうことを経験しているうちに、主役よりもう1ランク下の役回りでちょこちょこしている方が楽しいぞって思うようになって、そこからは今のスタンスでやっています」

インタビューが終わったタイミングで「最近、タバコをかぎタイプや噛みタイプにしたんだよね」と言い出した古田さん。近ごろは、新幹線の車内でも喫煙所が撤去されたこともあり、かぎタバコや噛みタバコにチェンジする人が増えてきたという。「これだとインタビュー中でも分からないでしょ?」と言ってニヤリと笑い、口に入れていたかぎタバコを見せてくれた。最後まで場を和ませ、楽しい土産話を置いていく古田さんなのだった。

古田新太 撮影/三浦龍司

取材・文/根津香菜子

ふるた・あらた
1965年12月3日、兵庫県生まれ。大阪芸術大学在学中にデビュー。近年の主な出演作に、映画『空白』や、テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、『俺のスカート、どこ行った?』、『不適切にもほどがある!』、NHK大河ドラマ『どうする家康』など多数。また、「劇団☆新感線」の各作品のほか、『贋作・罪と罰』、『リチャード三世』、『パラサイト』などの舞台にも精力的に出演している。
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