現行、65歳から受給開始となる日本の年金。なかには何もしなくても年金をもらえるようになると勘違しているケースも。年金を受け取る権利が発生したら、その権利を行使しないと年金はもらえません。しかも勧められるがままに手続きを進めたら、結果、損をしている、なんてことも。みていきましょう。
受給権発生3ヵ月前に日本年金機構から届く「緑色の封筒」
――年金、いつになったらもらえるんですか?(65歳男性)
意外に多い、この手のギモン。「年金って65歳からもらえるって聞いていたけど……」と待てど暮らせど年金がもらえないと嘆いている人です。
老齢年金のうち、国民年金に由来する「老齢基礎年金」は10年以上の受給資格期間がある人であれば、65歳から受給できます。厚生年金に由来する「老齢厚生年金」は、老齢基礎年金の受給資格期間があり、厚生年金保険の被保険者期間があれば65歳から受給できます。さらに厚生年金保険の被保険者期間生年月日に応じて受給開始年齢が異なりますが、1年以上ある場合は、65歳になるまで「特別支給の老齢厚生年金」が受給できます。
年金開始年齢に達したら、老齢年金を受け取ることのできる「受給権」が発生します。
――65歳から年金がもらえるんでしょ。なのに、もらえていないのはなぜ?
と焦る人もいるでしょうが、年金の受給権が発生したからといって、年金が手にできるわけではありません。きちんと手続き=行使しなければ、年金を手にできるはずがないのです。
受給開始年齢に達し、老齢年金の受給権が発生する人には、受給開始年齢に到達する3ヵ月前に、年金を受け取るために必要な「年金請求書」が届きます。宛先は日本年金機構。通常であれば緑色の封筒に入っているはずです。
令和6年に発送される人は、年金の加入期間が10年以上あり、厚生年金と共済組合の加入期間があわせて1年以上ある「64歳になる男性(昭和35年4月2日から昭和36年4月1日生まれ)」。また、年金の加入期間が10年以上あり、厚生年金と共済組合の加入期間が1年未満の「老齢基礎年金を受け取る権利が発生する人」は、受給開始年齢である65歳に到達する3ヵ月前に、「年金請求書(事前送付用)」が届きます。
――緑色の封筒? そんなの見てないね
受給権が発生するはずなのに、本当に日本年金機構から通知が届いていないなら、事故ということも考えられます。一度、問い合わせるのがいいでしょう。
年金の請求…本当にベストタイミングか?
年金請求書の提出から1~2ヵ月程度で「年金証書・年金決定通知書」が届き、さらに1~2カ月後に、年金のお支払いのご案内(年金振込通知書・年金支払通知書または年金送金通知書)が届き、年金の受け取りがスタートします。
このように、老齢年金は受給権が発生したら、自身で請求することで給付が始まります。請求しなければ給付はナシ。年金の請求をせず、受給発生から5年が経過すると、5年経過分の年金は時効を迎え、受け取れなくなる場合があります。そのため早めの請求を、と呼びかけられています。
――時効!? それは大変だ、請求せねば
素直に従う64歳の誕生日3ヵ月前のサラリーマン。ただ、素直に従うのが良いとは限らないのが年金制度の難しいところ。厚生労働省の調査によると、60代前半正社員の平均月収は44.1万円、残業代なども含めると、平均46.0万円になります。
――特別支給の老齢厚生年金がもらえる!
このサラリーマンが日本年金機構から届いた「緑の封筒」に促されるまま手続きを行ったとしたら……もしかしたら、後悔するケースもあるかもしれません。
ここで知っておきたいのが「在職老齢年金」。厚生年金保険料を払いながら年金を受け取る場合、つまりサラリーマンをしながら年金をもらう場合、給与+年金=50万円の基準額を超えると、年金支給停止となる可能性があるというもの。その調整額は「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2」。またここでいう年金は、老齢厚生年金に相当する部分で、老齢基礎年金は支給停止の対象にはなりません。
もしこのサラリーマンが64歳時点で平均的なサラリーマン(正社員)の給与を手にしていたら、年金支給停止の対象になるはずです。また給与収入に年金所得が加わることで、所得税の税率が高くなったり、社会保険料の負担が拡大する場合も。
そんな事実を後で知ってしまうと……
――えっ、素直に従っただけなのに、何かの間違いではないんですか?
と後悔してしまうかも。年金の受給開始のベストタイミングは、現在の収入状況や家族構成などによって微妙に変わるもの。事前のシミュレーションのうえ、自分にとって何がベストかをしっかり考えることが重要です。
[参照]