栄養補給にサプリメントを賢くとりたい! でもその前に…ドクターが伝授する「知っておきたいサプリメントの基本知識」

By 佐藤 務

ダイエットや美容、そして健康のためにも「そろそろサプリメントの力を借りたい…」と考えている人も多いのではないでしょうか。とはいえ、やみくもにチョイスするのは心配。そこで、サプリメントとじょうずにつき合うために知っておきたいことを、ビタミン外来で幅広い世代の人たちにサプリメントのとり方を指導してきた稲毛病院の佐藤 務先生に教えていただきました。

現代の食事はビタミン・ミネラルが不足している

そもそもサプリメントとは「現代食がつくり出した食品のひとつ」と佐藤先生。その背景には食自体の栄養の変化があります。

「現代人が毎日食べている食事は、数十年前と比べて加工度が高くなっていることが特徴といえます。加工度の高さを栄養面から分析すると、製造や調理の過程で光、熱、水などが加えられることによって、それらに強い糖質・脂質・たんぱく質などのカロリーは温存されますが、光や熱で破壊されたり、水に溶けるタイプのビタミン・ミネラルは失われてしまいます。そのため現代食は、ビタミンやミネラルが不足し、カロリーが余剰という栄養のアンバランスが存在する傾向が強いのです。このアンバランスの問題は、ビタミン・ミネラルで代謝しきれなかったカロリーが余ってしまうため肥満を生じやすいということです」

さらに近年、ビタミン・ミネラルの摂取源として期待される野菜などの素材に含まれる栄養価が低下しているとされ、それによっても食事からのビタミンやミネラルがとりにくくなっているとのこと。

「ビタミン外来を開設する前に、カロリーの代謝に必要なビタミン、ミネラルが足りていない患者さんにそれらを多く含む食品をすすめたところ、逆に体重が増えてしまったんです。その原因は食事でビタミン、ミネラルを増やそうとすると、それ以上にカロリーもついてきてしまうため。たとえば野菜を食べるとき調味料を使いますが、サラダにドレッシングやマヨネーズをかけたり、油で炒めると調味料などのカロリーがプラスされ“栄養過剰の栄養失調”になってしまうのです。食事を工夫するだけでビタミン、ミネラルだけを補うには限界があり、必要な栄養素だけをとるにはどうすればいいかを追求した結果、最終的にたどり着いたのがサプリメントという食品でした」

サプリメントだけで不調は改善しない!? 基本は食事→サプリの順

わかりやすく言うと、通常の食品が加工によりカロリーが温存されビタミン、ミネラルが失われた「加工食品」と呼ばれるのに対し、サプリメントはカロリーを含まずに、ビタミン、ミネラルだけを温存した“逆加工食品”ともいえます。そう聞くと「サプリメントをとれば安心!」と、サプリメントの力に頼りたくなりますが、過信し過ぎるのは問題。

「サプリメントは現代食のアンバランスな食事をとっている人がとるべきものであり、サプリメントだけでは食としては成立しません。サプリメントの役割は、食事で不足している栄養素を足すことなので、優先順位としてはまずは食事でしっかりと栄養をとることが大切です」と佐藤先生。

そこでまず、健康的な食を考えるには“量”と“質”の2つの視点が大事になります。

「量とは栄養素の量を指し、不足分はサプリメントで補うことができます。それに対し質は日本人の消化吸収代謝システムに負担をかけない食のとり方が求められます。日本人の体には倹約遺伝子(日常生活をするためのエネルギーが少なくすむタイプの遺伝子)が多く、飽食下では太りやすくやせづらい体質や、日本人特有の腸の長さなど、何千年も日本の土地に存在する独自のさまざまな食材を食べ続けてきたことで獲得した日本人特有の遺伝性や代謝システムが備わっています。この日本人特有の体に適した食事が和食であり、何を食するかという食のとり方にはサプリメントではまったく対処できません。また、現代食は食のグローバル化により欧米食の影響を受けているため、日本人の代謝システムに合わない場合もあります。そのため、何か不調に悩んでいる場合はまず食事を和食ベースに変えると、改善しやすくなります」

体全体を整えることから始めよう

サプリメントをとり入れる前の基本となるのが、土台となる健康な体づくりを目指すこと。そのためには「代謝」を理解することが重要なポイントです。ここでいう代謝とは、食べたものを生きるために利用することを指し、新陳代謝とエネルギー代謝の2つに分けて理解することが大事だと佐藤先生は話します。

「新陳代謝とは古い細胞が新しい細胞に入れ替わる体内のシステムで、新陳代謝によって髪、爪、肌、筋肉、骨、血液、ホルモン、神経伝達物質などは体内で日々つくり出されています。新陳代謝で必要な栄養素はたんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルで、加えて6時間の睡眠と軽く筋肉に負荷をかける程度の筋トレも代謝材料として必須です。一方、エネルギー代謝は体を動かすためにエネルギーを生み出すシステムです。材料になる栄養素は糖分とビタミンで、週2時間半のウォーキングなどの有酸素運動も重要です。2つの代謝には流れを意識することが大切。日々の新陳代謝が滞りなく行われることでエネルギー代謝がスムーズに促進されます」

これは体だけでなく脳にもいえることで、栄養と睡眠をしっかりとることで脳内の新陳代謝がよくなり、ホルモンや神経伝達物質が日々つくられて心が安定するそう。そして、糖質・ビタミンを補給することで脳のエネルギー代謝がうながされ、脳のパフォーマンスが上がり、結果的に体と心を健やかに保つことができるといいます。

心身の健康を守るには、心身の新陳代謝とエネルギー代謝の材料と流れを意識して、代謝全体を整えていくことがカギといえそうです。

「ビタミン外来での経験から、サプリメントを摂取して効果が出る人は食事を見直したり、運動をとり入れたり、睡眠時間をきちんと確保し、生活習慣を改善できた人です。サプメントはあくまでも健康な体づくりをサポートする要素のひとつにすぎませんので、サプリメントだけで不調を解消しようと頼り過ぎないよう注意してください」と佐藤先生はアドバイスしています。

次回は、サプリメント初心者に効果的な栄養素など、サプリメントの選び方をお伝えします。

文/野口美奈子

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