NBAに起こる“フランス旋風”。同胞ウェンバンヤマも「今ドラフトで彼以上の才能を知らない」と絶賛するドラ1ザカリー・リザシェイのすべて<DUNKSHOOT>

現地時間6月26、27日の2日間にわたって行なわれた2024年のNBAドラフトでは、前評判通りザカリー・リザシェイ(アトランタ・ホークス)とアレックス・サー(ワシントン・ウィザーズ)が1、2位を独占。そして6位にはティジャン・サローン(シャーロット・ホーネッツ)も入り、2005年生まれのフランス人選手3人が上位6位指名の3席を占めた。

本国アメリカ以外で、同じ国の選手が1、2位を独占、さらにはトップ10圏内に3人を送り込んだのはNBA史上初。この快挙に、フランスのバスケファンも「とんでもないジェネレーションの到来だ」「次のオリンピック(ロサンゼルス大会)は、ホスト国には悪いがフランスの金メダルで決まりだ」と大いに盛り上がっている。

「この思いを言葉にして表わすのは難しい。それほど今の僕の感情は、言い表わせないものなんだ。自分の名前が呼ばれたこのかけがえのない瞬間を、家族や友人たちと分かち合えたことは一生忘れられない体験だ」
直後の会見でそう喜びを語ったリザシェイは「この数年間、ヴィクターが刺激になっていたのは間違いない。彼は若い後進たちにインスピレーションを与えてきた」と、昨年のドラフトで1位指名を受けた同胞ヴィクター・ウェンバンヤマ(サンアントニオ・スパーズ)の名前を挙げた。

先輩となった”ウェンビー”は自身のSNSに「C'est la France frère (フランス兄弟)」というお祝いメッセージを、トリコロールのフランス国旗を添えて投稿している。

身長206cm、ウィングスパン208cmを誇るリザシェイは、3ポイントを得意とするスモールフォワード。同じくバスケットボール選手だった父ステファンは、2000年のシドニー五輪で銀メダルを獲得したフランス代表のメンバーで、その父がリザシェイにとっては最初のコーチであり、メンターでもある。

彼は息子についてこう語っている。

「バスケットボールは、彼のハードディスクに書き込まれているようなものだ。彼の世界には常にバスケがあった。彼はボールと一緒に歩くのを覚えた。そして、まだ本当に小さい頃から並外れた運動神経の持ち主だった」
父がまだ現役でプレーしていたリヨンの北部にあるシャロンで、3歳からバスケを始めたザカリー少年は、家の庭にあった小さなバスケットでいつも遊んでいたそうだ。「子どもの頃は、いつも父について体育館に行っていた。家に帰ってからも庭のバスケットで一緒にプレーして、話すこともいつもバスケットボールのことばかりだった」と、リザシェイはユーロリーグのインタビューでそう振り返っている。

その後リヨン近郊のクラブを経て、15歳でトニー・パーカー(元スパーズほか)が会長を務めるアスヴェルの育成部門に入団。そこで2、3歳年上の選手たちとともに切磋琢磨する中で、彼は急速に成長を遂げた。

メンバーの1人として参戦したフランス国内リーグのユース部門で2021-22シーズンに見事優勝すると、フランス王者として翌シーズンには、若手の登竜門と言われるユーロリーグのユース版アディダス・ネクストジェネレーションに出場。リサシェは着実かつ的確な道を辿って、一歩一歩キャリアを切り開いてきた。
アスヴェルではユースチームに所属する傍ら、16歳で初めてプロの試合にも出場するなど徐々に経験値を積み上げていたが、よりチームの主軸として責任を背負ったプレーを体験すべく移籍を決意。NCAAの大学やドラフト候補生を育てるオーストラリアリーグのクラブからも誘いがある中、ここでも彼が選んだのは、リヨンから遠くなく、家族の側で過ごせる同じフランスリーグProAのJLブールだった。

JLブールは優勝経験こそないが、歴史ある堅実なクラブ。そこでチーム最年少ながらスターターの座を勝ち取ると、JLブールはProAでベスト4、さらにユーロリーグのアンダーカテゴリーにあたるユーロカップでファイナル進出という大躍進を遂げる。リザシェイはProAとユーロカップの両方で、2023-24シーズンの年間最優秀若手選手に選ばれた。

難しい体勢からもシュートをねじ込むボディバランスの良さやアリウープ時の跳躍力など、父親の言葉通り一目で彼の運動神経の良さは見て取れるが、加えて際立つのは、ティーンエイジャーとは思えない落ち着いた試合運びや視野の良さだ。
「彼は何でもできる。ロングスパンを活かしてショットをブロックできるし、オフェンス面でも自分の武器を持っている」

そう描写したのはウェンバンヤマだ。サンアントニオでのシーズン中、リザシェイについて質問を受けた昨年のドラ1は「今回のドラフトの年代で、彼以上に才能のある選手を僕は知らない」と今年のドラ1をそう絶賛している。
ちなみにリザシェイ家では妹のアイノアも将来有望なバスケットボール選手で、昨年トルコで行なわれたU16欧州選手権ではフランス代表の主力として活躍。金メダルと大会MVPに輝いた。アイノアも兄に似て手足が長く、スペインとの決勝戦ではシューティングガードながら3ブロックを記録した、傑出した運動神経の持ち主だ。

リザシェイにとってアトランタは、アメリカで唯一滞在した経験のある思い入れのある街だという。2年前に10日間のキャンプで滞在し、そして今回もドラフトの前に1週間のワークアウトに参加した。「ライフスタイルは僕が慣れ親しんできたものとはずいぶん違うけれど、居心地がいいんだ」と、19歳の新星は新生活に期待を馳せている。

西のウェンビーと東のリザシェイ。今季のNBAには、フランス旋風が巻き起こることだろう。

文●小川由紀子

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