胸を触られる、ホテルに誘われる…セクハラ「海自の中は昭和のまま」 マタハラも 元自衛隊員たちの証言

海上自衛隊呉地方隊の拠点である呉基地(手前)

 「隙を見せた方にも問題がある」「気のあるそぶりをしたんだろう」。海上自衛隊呉地方隊で勤務した経験のある女性は、上官たちのそんな言葉を何度も聞いた。

 胸を触られる、ホテルに誘われる、飲み会でキスされる…。職場の内外でセクハラ行為は「日常茶飯事だった」という。男女2人だけで夜勤や密室での作業を担当することもあった。「他人の目がなくセクハラの温床になりやすいのは明らか」なのに配慮はなかった。

 災害現場で活躍する隊員に憧れ、社会の役に立ちたいと入隊した女性。だが、セクハラ行為はなくならず、加害者を軽く注意するだけで済ませてしまう環境に、希望は失望、絶望へと変わった。

 心療内科にも通ったが、自衛隊内のハラスメント相談室の利用は考えなかった。「組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)されそう」という不信が強かった。「訴えた方が損をする。海自の中は『昭和』のままで、古い価値観の人たちが世代交代しない限り、体質は変わりません」

 呉地方隊に勤務していた別の女性も、乗艦中に同じ部屋にいた同僚男性からいきなり手を握られ「キスしたい」と言われた。怖くなり逃げたが、部隊内でトラブルになるのを恐れて、誰にも相談できなかったという。

 防衛省のハラスメントホットラインへの相談件数は急増している。2016年度には年間109件だったが、22年度には1397件と10倍以上に。「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」の昨年度の調査でも、隊員や元隊員113人がパワハラやセクハラを打ち明けた。加害者が複数▽相談したら不利益を被る―などの特徴が浮かび上がった。

 妊娠した女性へのマタニティーハラスメントも後を絶たない。ある元隊員は、上官たちが妊娠を迷惑がったり、からかったりする場面を幾度となく目撃した。重い荷物を運ぶよう命じられた後に体調を崩し、入院したケースも。育休を希望した男性の部下に対して「昇進はないと思え」と言った上官もいたという。

 ハラスメントに関し、防衛省の有識者会議は昨年8月、自衛隊内で組織の一体性が「家族」に例えられることを指摘。「家族だから許されるという誤った認識を生じさせかねない。被害者がハラスメントと受け止める行為はコミュニケーション手段の一つなどではない。犯罪にも当たり得る」と強調する。

 木原稔防衛相は昨秋、ハラスメントへの厳正対処を求める指示を出した。同省は「隊員の意識改革や迅速な解決体制の構築などの防止対策を通じ、ハラスメントを一切許容しない環境の構築を図っている」とする。組織は変われるか―。多様な人材の力が不可欠になっている自衛隊にとって、重い課題である。

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