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多死社会の日本では、日々多くの相続が発生しいます。そこには、亡き人への感謝や感動がある一方で、割り切れない思いをするケースも少なくありません。ある50代女性の事例をもとに、実情を見ていきましょう。
ひとり息子を亡くした70代の叔母の死
多死社会の日本では、日々多数の相続が発生しています。相続により、故人への感謝を実感する人もいれば、納得できない思いをかみしめる人もいます。
40代の鈴木さんは、想定外の相続の結末に割り切れない思いを抱いているといいます。
「先日、70代の叔母が亡くなりまして…」
鈴木さんの亡くなった叔母というのは、鈴木さんの母親の妹にあたる人。鈴木さんの母親はすでに亡くなっています。
「叔母にはひとり息子、つまり私のいとこにあたる人がいたのですが、40歳になる前に、病気で亡くなってしまいました」
「息子がいるほうに財産を残す」と祖父が…
亡くなった叔母と、鈴木さんの母親は2人姉妹でした。それぞれ結婚して、鈴木さんの母親には2人姉妹(鈴木さんと妹)が、叔母には息子が1人生まれました。
「うちの親族は女性が多かったため、たったひとり生まれた男の子だったいとこは、それはそれは祖父母にかわいがられていました」
鈴木さんの母親は、子どもが娘だけだという理由で、祖父の相続で差別されました。「跡取り」である息子がいる叔母に、多くの遺産が行くよう、祖父が公正証書遺言を残していたのです。
「跡取りの息子がいるほうに、多くの財産を残すのは当然だと、祖父母からも聞かされていました。祖父の家は世田谷の一軒家で、かなりの広さでした。その自宅と、以前は畑だった広い貸駐車場を、叔母が両方とも相続しました。うちの母には1,000万円程度の預貯金だけでした…」
子どもに先立たれた叔母の死で「財産がこちらに帰ってくるね」
2人姉妹の長女なのに、わずかな遺産しか相続できなかった鈴木さんの母親ですが、「妹には男の子がいるから仕方ない」といってあきらめたといいます。
「ところが、跡を取る予定のいとこのところには、なかなか子どもができなくて。そうこうしているうち、いとこが40歳になる直前に、病気で亡くなってしまったんです…」
そのときは、叔母の夫である義理の叔父もすでに亡く、叔母は広い家にひとり暮らすことになりました。
「母と叔母は相続の件があり疎遠でしたが、私と妹は叔母にかわいがってもらっていて、関係は悪くありませんでした。それなので、たまに叔母の好物をもって家に立ち寄ったりしていたのですが…」
鈴木さんの叔母も、70代になってから体調を崩すことが増え、この春に肺炎で入院したところ、なかなか回復せず、その後に容体が急変して亡くなってしまいました。
「叔母が亡くなったとの連絡を受けたときは、とても驚きました。でも、妹と〈これでママが相続するはずだった財産がこっちに返ってくるね〉と話したのも事実です。私にも妹にも、子どもがいますから…」
「なぜ亡き息子のお嫁さんに全財産を!?」
ところが、葬儀のあと、驚くことが判明しました。
「叔母は遺言書を残していたのです」
遺言書の内容は〈全財産を息子の嫁に相続させる〉というものでした。
「思わず〈なにかの間違いでは?〉って叫んでしまいました」
「遺言書には〈息子亡きあとも尽くしてくれた陽子さん(お嫁さんの名前)に感謝します〉とありました。私も妹も、それを知ってあっけに取られてしまって…」
鈴木さんは悔しそうに唇をかみます。
「あんなに跡取りにこだわっていたのに、血縁もない、子どももいない、亡くなった息子の奥さんが遺産を相続するんですよ? 私も妹も、叔母といとこの奥さんに交流があったことすら知りませんでした」
「大事にしてきた財産を、どうしてよその家系に継がせるようなことをするのか。サッパリ理解できないし、納得できません…」
しかし、甥姪には「遺留分」がありません。そのため、遺言書が準備されていた以上、叔母の遺産はすべて遺言書通り亡き長男の嫁が相続することになり、鈴木さん姉妹はどんなにジタバタしたところで、叔母の遺産は相続することができないのです。
「理不尽だと思いますが、法律ですから…。ここはあきらめるしかありませんよね」
相続の結末が、気持ちに沿うものとならないケースは少なくありません。ご自身の相続において、鈴木さんのような思いをしている方もいるのではないでしょうか。
[参考資料]
法テラス「遺留分とは何ですか。」