過去最高の税収72兆円でも喜べない…「インフレ増税」と「円安」のWパンチが国民生活を襲う

勝手に増えていく「インフレ増税」は国には楽(C)日刊ゲンダイ

岸田政権が雀の涙ほどの定額減税を「恩恵だ」と胸を張る一方、過去最高の税収増とは我慢ならない。昨年度の国の一般会計税収が72兆1000億円に上ることが1日、判明した。過去最高だった22年度の71兆1373億円を上回り、4年連続で過去最高を更新する。

昨年度税収は想定を約2兆5000億円も上回る。今年度は税収70兆円弱を見込むが、想定より上振れの可能性もある。

過去最高税収の要因は、歴史的な円安で輸出企業を中心に法人税収が堅調だったこと。物価高を背景に消費税収も増えたとみられる。経済評論家の斎藤満氏がこう言う。

「企業が儲かって税収が増えるのは良いとしても、問題は消費税収と所得税収です。実質消費が落ち込んでいるのに、物価高のせいで消費税収が増えている。加えて、実質所得が目減りしても、賃上げによって名目所得は増えているから所得税額も高くなる。社会保障負担も重い。過去最高の税収はいわば、国民生活の犠牲の上に成り立っているのであって、決して喜ばしいことではありません。一方、国にとっては、表立って増税しなくても、インフレによって勝手に税収が増える『インフレ増税』という楽なパターンなのです」

剰余金は防衛費に回るのが実態

税収増を1人当たり4万円の定額減税で還元した気になっている岸田首相である。今さら期待できないどころか、22年度の一般会計の決算剰余金3兆3911億円のうち、法律で優先的に使うことが定められている国債償還費や地方交付税交付金に振り向けた約2兆円を除き、残る約1.4兆円を防衛力強化資金に積み立てたり、防衛関係費の一部に充てたり、防衛費増に回しているのが実態だ。

一方、足元で進行する円安は放置の体たらくである。2日の東京外国為替市場の円相場は1ドル=161円台に下落。1986年以来、約37年半ぶりに安値を更新した。

「ドル円の購買力平価は1ドル=100円前後が望ましいとされる中、1ドル=160円は賃上げ分を吹き飛ばしています。このままでは海外からの輸入に頼るエネルギー価格などは上がっていくでしょう。円安に歯止めをかけるため利上げに踏み切ろうにも、政府・日銀は戦力の逐次投入よろしく動きが鈍い。利上げしても結局は国債の利払いが増えて歳出増になってしまい、税収分を国民に還元する余力が残るか怪しいものです」(斎藤満氏)

インフレ増税と円安のダブルパンチで国民生活は苦しくなるばかり。「増税メガネ」には一刻も早く退場してもらいたい。

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