『フェラーリ』アダム・ドライヴァー インタビュー/F1の帝王と呼ばれた男の光と影を描く実話ドラマ

いよいよ映画界は大作や話題作が続々公開されるサマー・シーズンに突入! お待ちかねの大ヒット・シリーズの最新作や、映画ファンなら絶対に見逃せない注目作までズラリとご紹介しましょう。これらの作品は役柄上のコンビやデュオ、または実の親子など、そのカップリングもチェックしたいものばかり!今回はアダム・ドライヴァー主演『フェラーリ』について。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)

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F1の帝王と呼ばれた男の光と影を描く実話ドラマ

元カーレーサーにして自ら創設したフェラーリ社をイタリア屈指の自動車会社へと成長させた敏腕経営者としても知られ、その死後も謎めいた人物像が取り沙汰されている伝説的カリスマ、エンツォ・フェラーリの光と影、そして激動の1年を描くマイケル・マン(『ヒート』)監督の野心作。

1991年に原作(ブロック・イェーツ著)が発売された際、シドニー・ポラック監督と脚本のトロイ・ケネディ・マーティン、そしてマンが映画化を目指したが、その規模の大きさにハリウッド・メジャー会社も恐れをなし、実現までに30年を要した(この間にマン以外の2人は死去)大作でもある

出演は『ハウス・オブ・グッチ』(2021)のアダム・ドライヴァー(兼製作総指揮)、『コンペティション』(2021)のペネロペ・クルス、「ダイバージェント」シリーズのシャイリーン・ウッドリー、TV「グレイズ・アナトミー」のパトリック・デンプシーら実力派が集結。クライマックスの“ミッレミリア”のレース・シーンなどを大迫力で収めた撮影は『Mank/マンク』(2020)のエリック・メッサーシュミットが担当している。

登場人物

エンツォ・フェラーリ(アダム・ドライヴァー)

エンツォ・フェラーリ(アダム・ドライヴァー)

59歳となったイタリア自動車界のレジェンド。破産寸前のフェラーリ社の起死回生を狙う

ラウラ・フェラーリ(ペネロペ・クルス)

ラウラ・フェラーリ(ペネロペ・クルス)

長男ディーノの死で悲嘆に暮れるエンツォの妻。冷え切った関係になった夫の秘密を知る

リナ・ラルディ(シャイリーン・ウッドリー)

リナ・ラルディ(シャイリーン・ウッドリー)

エンツォが愛する女性。12歳の息子ピエロはエンツォの子として認知されず悩んでいる

アルフォンソ・デ・ポルターゴ(ガブリエル・レオーネ)

アルフォンソ・デ・ポルターゴ(ガブリエル・レオーネ)

3公道レース「ミッレミリア」にエンツォのチームで参加する若手ドライバー

ピエロ・タルッフィ(パトリック・デンプシー)

ピエロ・タルッフィ(パトリック・デンプシー)

コリンズ、ポルターゴと共にフェラーリ・チームに参加するベテランレーサー

リンダ・クリスチャン(サラ・ガドン)

リンダ・クリスチャン(サラ・ガドン)

4ポルターゴと交際している女優。俳優タイロン・パワーの元妻

あらすじ

1947年にフェラーリ社を設立してから10年。彼のマシーンがローマ・グランプリで優勝して以来、世界のレーサーがシートを争う名チームを育成し、地元の名士になっていたエンツォ・フェラーリ(ドライヴァー)だが、会社は破産の危機にあった。

前年に息子ディーノを難病で失うという不幸もあって、妻で会社の共同経営者ラウラ(クルス)との関係も冷え切っており、彼の心を癒すのは秘かに愛する女性リナ(ウッドリー)と12歳の息子ピエロとのひと時だけだった。だがそんなエンツォの秘密もラウラの知るところとなる。

資金豊富なフィアットやフォードからの買収工作、私生活のトラブルによってエンツォはすべてを失ってしまうという危機感を持つ。そんな時、彼は社運を賭けて、イタリア全土を縦断する公道レース“ミッレミリア”に参戦することを決める。

ポルターゴ(ガブリエル・レオーネ)、コリンズ(ジャック・オコネル)、タルッフィ(デンプシー)といった情熱的なレーサーたちによってチームが編成され、ついにレースがスタート。だが思いもかけない事態がチームを待ち受けていた。

クラシック・スーパーカーの再現

レースシーンの撮影で使用するのにマシーンを調達するのは至難の業だった。オリジナルカーは時に1億ドルもするので、実際に使用することは不可能。金型や図案もなかったので、複製を作ることも容易にはできない。

そこでマン監督は『マイアミ・バイス』(2006)の頃からフェラーリとの関係を築いていたことで知り合った実業家を介して橋渡しをしてもらった企業などに頼んで、数台のオリジナルカーを3Dスキャンした。こうして新たに作ったクラシックカー以外にも、ベンツやポルシェなど1957年限定でミッレミリアに参加したオリジナルカーが集められた。

エンツォ・フェラーリ、その歴史

1898年イタリアのモデナに生まれたエンツォ・フェラーリは、元カーレーサーで、カーデザイナー、自動車メーカー“フェラーリ”の創始者として名を成した人物。

  • 1898 2月18日誕生。
  • 1916 父が病死、兄は戦死。自身も第一次大戦に参戦
  • 1918 除隊
  • 1920 アルファロメオとドライバーとして契約
  • 1925 ラウラと結婚
  • 1932 長男ディーノ誕生。レーサーを引退
  • 1945 愛人リナとの間に息子ピエロ誕生
  • 1947 フェラーリ社をラウラと共に創業
  • 1956 ディーノが早逝
  • 1957 レースでの事故責任を問われ起訴される(後に無罪)
  • 1964 フォードによる会社買収交渉を最終段階で拒絶
  • 1969 フィアットグループの傘下に。自身は会長職に
  • 1977 会長職辞任
  • 1978 ラウラが死去
  • 1988腎不全により死去

アダム・ドライヴァー(エンツォ・フェラーリ役)インタビュー

Photo by Getty Images

“メイクは毎回大変な時間がかかったけど、エンツォの倦怠感を醸し出すのに役立った”

イタリアの高級ブランドのお家騒動の核心を描いた『ハウス・オブ・グッチ』でグッチ創業者の長男マウリツィオを演じたアダム・ドライヴァーは、続いてイタリアが誇る自動車メーカー、フェラーリの創業者エンツォ・フェラーリを演じる。その話題作『フェラーリ』は、マイケル・マン監督が長年温めてきた企画で、イタリアのレジェンド的存在である人物の光と影を描く壮絶な伝記映画だ。

偉大なるF1レースチームのオーナーにして、スポーツメーカーの創設者として今も有名なエンツォを演じることになったアダムは、その人生を調べ上げ、彼が下してきた決断など歴史的なことから、歩き方や呼吸の仕方など個人的な立ち居振る舞いまで事細かに研究してきた。

映画ではいくつかの時点でのエンツォが描かれるが、主に1957年時点、コメンダトーレ(社長)という愛称で呼ばれた59歳のエンツォが中心となるため、毎日2時間以上のヘアメイクを行ったという。

そんな入念な役作りを行ったアダムは、エンツォ・フェラーリについて、

「彼については世間一般的に様々な見方があるよね。悪者だという人もいれば、カリスマのある魅力的な人物という人もいる。意地悪な奴と言われることもあるし、堂々としていて巧みに人を操る男と思われていたり、もういろいろだ。そんな彼の全部の面を見せるのは不可能だと感じたので、僕は脚本に立ち返って、そこに書かれているエンツォを演じることにしたんだ」

と複雑な人物であることを強調している。

「僕が演じたエンツォがそうした様々な顔をまとめあげたものになっていることを願うばかりなんだけど、情に流されやすくて、常に心のエンジンが動いている人物である彼は、感情面で他者と繋がることが苦手でもあるんだ」

エンツォの仕事面だけでなく私生活の愛情面についてもアダムはこう言及している。

「彼と恋人のリナ(シャイリーン・ウッドリー演)との生活は、妻のラウラ(ペネロペ・クルス演)との生活とは全く異なっていた。エンツォにとってはリナと過ごす時間は多忙な日々の中で寛ぎの時間だったのだろう。

一方でラウラとは一緒に過ごしてきた時間の中での悲しみなどを共有し、夫婦としての忠誠心はあったのだろうけど、愛情を感じることができなかったんだろうね。僕が知っている限りでは、エンツォはしきたりにこだわりを持つ人で、驚くほど頑固者だったという印象だ」

世界的自動車会社を共同設立したフェラーリ夫妻

エンツォとラウラのフェラーリ夫妻は1947年に共同でフェラーリ社を創設。数年で大きな成功を得たが、2人の愛息ディーノが筋ジストロフィーによって若くして死去。さらにエンツォは別に愛する女性リナと家庭を築いており、夫婦関係は悪化するが、ラウラの社の未来を思う気持ちは変わることはなく、イタリアの当時の法律もあって離婚することはなかった。

エンツォへのこだわりは、監督のマイケル・マンにも並々ならぬものがあり、

「仕事では常に正確で論理的なのに、私生活では衝動的で防衛的というアンバランス感や矛盾がエンツォを人間的に魅力ある人物にしている」

と語っている。そんな監督との仕事については、

「マイケルは僕に自信を与えてくれた。彼は俳優たちの演技に試行錯誤する自由を与えてくれるんだけど、自分が求めていることや目指している映画についてのビジョンを明確に示してくれる。例え抽象的であっても、それがより良いアイデアに繋がることもあるので、僕はそういう明確さが好きなんだ」

と絶賛。大変だったヘアメイクに関しても監督と同意見だったそう。

「メイクは毎回時間がかかったけど、エンツォの倦怠感を醸し出すのに役立った。最近の映画ではメイク技術があまりに精巧で、下手するとメイクの下にある人物像を見逃してしまいそうになる。感情の繋がりというものが失われがちになるんだ。監督もそれを望んでいなかった。1957年頃のエンツォは活発とは言えないが、けして弱くもない。とはいえどこか重苦しい感じも漂っている。僕は撮影初日からそれをはっきり感じることができた」

アダムは他にも役作りについてこんなエピソードも明かしてくれた。

「若いころのエンツォは工場で育ったから、車に乗る時は猫背になったんじゃないかと想像した。他の人のために動くことはしなくても良かった人間だったんだ」

演技派のアダムは売れっ子の状態が続いていて、次いで先日カンヌ国際映画祭で上映されたフランシス・フォード・コッポラ監督の最新作『メガロポリス』にも主演。こちらの世界公開も待たれている。

ペネロペ・クルス(ラウラ役) コメント

Photo by Getty Images

ラウラを演じたペネロペはリサーチのためフェラーリ夫妻が住んだアパートを訪ねた時、

「どこか重苦しさを感じる部屋だった。精神的に苦しんでいる人はこういう柄のカーテンや壁紙を選ぶのかと、その光景から多くの答えをもらった気がする」

と語り、身体的な特徴としてどこかぎこちない歩き方をしていた彼女を演じるにあたり、

「ラウラには常に何かうまくいかないことがあったの。まるで慢性的に軽い痛みを抱えているような感覚。そんな彼女の感情的な痛みをどう表現するかが重要だと思ったわ」

と役作りを明かしている。

ロンドン・プレミアでマン監督を囲んで勢ぞろいした『フェラーリ』キャストPhoto by Getty Images

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『フェラーリ』
2024年7月5日(金)公開
アメリカ=イギリス=イタリア=サウジアラビア /2023/2時間12分/配給:キノフィルムズ
監督:マイケル・マン
出演:アダム・ドライヴァー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、ガブリエル・レオーネ、サラ・ガドン、ジャック・オコンネル、パトリック・デンプシー

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