ハーバードの大学生が「ポルノ」を大量に見る、深い理由【ハーバード・Googleの行動科学研究者が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

恋愛に苦しんでいるのはあなただけではありません。あなたが抱えている疑問や不安は、いたって普通のことです。しかし、脳の強みと弱みについて客観的に分析すれば、もっと戦略的な意思決定を行うことができるのかもしれません。本記事では、ハーバード大学とグーグルで行動科学を研究したローガン・ウリー氏の著書『史上最も恋愛が難しい時代に 理想のパートナーと出会う方法』(河出書房新社)より一部を抜粋・再編集し、人間の非合理性について解説します。

結論!私たちは「非合理な生き物」

残念ながら多くの人間は、なぜその選択肢を選ぶのか、判断の理由を理解していません。それが過ちを生み、その過ちの積み重ねが愛の探求を阻みます。だからこそ、行動科学に助けてもらいましょう。行動科学とは、人間がどのように決断をくだすのかを研究する学問です。幾重もの思考の層をはぎとり、頭の中をのぞき込み、なぜ私たちは特定の選択をしがちなのかを理解する方法を教えてくれます。

結論から言うと、人間とは非合理だということ。私たちのくだす決断は、最善ではないことがよくあるのです

人間の非合理さは人生のあらゆる場面で発揮されます。老後のために貯蓄したいと言いつつも、クレジットカードの限度額いっぱい、おしゃれなインテリア用品を買ってしまうとき。もっと運動しなきゃ、と思っているのに、屋内用ランニングマシンがハンガーラック状態になっているとき。どれだけ頻繁に、どれだけ熱心に目標を設定しても、自分で自分の邪魔をしてしまうのです。

さいわい、この非合理さは無秩序に現れるものではありません。脳がいかに私たちを惑わすかは予測可能なのです。行動科学者はそのような知識を用いて、人々が幸せに、健康に、豊かになれるよう、行動を変える手伝いをします。

実際、私は行動科学の知識をグーグルで活用しました。行動科学の花形、ダン・アリエリーとチームを組み、彼の著書『Predictably Irrational』[訳注:邦訳『予想どおりに不合理』早川書房]の知見にもとづいて、「イラショ非合理実験室)」というグーグル社内のグループを運営しました。

ダンやチームメイトと人間の行動を研究し、実験を重ねる日々は非常に充実していましたが、私には気がかりなことが一つありました。当時、私は20代前半で独身。誰もがもつ、人生の最重要課題に直面していたのです。つまり、愛を見つけ、長続きさせるにはどうすればいいのだろうか?

人々が恋愛でより良い決断をできるように

私は長らく、デートや恋愛関係、セックスの研究をしていました。ハーバード大学では学部生のポルノ視聴癖を研究し、「Porn to Be Wild(ワイルドになるポルノ)」と題する論文を書きました(余談ですが、ハーバードの学生は大量にポルノを見ています)。

イラショナル・ラボを運営する数年前の、グーグルでの初仕事は、グーグル広告のアカウントを、バングブロスやプレイポーイなどのポルノサイト、グッド・バイブレーションズといったアダルトグッズを販売するクライアントに振り分けること。当チームは別名「ポルノ部」と呼ばれていました。

恋愛関係への興味は、子ども時代にまでさかのぼります。楽しく愛情たっぷりの家庭で育ちましたが、17歳のとき、両親が突然離婚したのです。「末永く幸せに暮らしました」幻想ははじけとび、幸せな結婚が長続きするのを当然だとは思えなくなりました。

グーグルで過ごした当時、マッチングアプリができたばかりで、独り身の私はマッチング候補をスワイプして選り分けるのに膨大な時間を投じていました。まわりの友人たちも同じように苦労していました。

初代iPod(「1000曲の音楽をポケットに」)の時代は過ぎ去り、私たちは、どこまでもつながるスマートフォンで1000人の恋人候補をポケットに詰め込める時代を生きていたのです。

近所に住むボビーだかブリンダだかと結婚するのではなく、オンラインにいる何千人もの独身者の中から選ぶことができる時代です。そのような中、私は「トークス・アット・グーグル:現代のロマンス」というサイドプロジェクトを立ち上げました。

現代のデートや恋愛関係の大変さについて探究する、インタビューシリーズです。マッチングアプリ、デジタル時代のコミュニケーション、一夫一婦制、共感、幸せな結婚の秘訣などについて、世界的に著名な専門家にインタビューを行いました。ものの数時間のうちに何千人ものグーグル社員が、インタビューの更新を通知するメーリングリストに登録しました。インタビューがオンラインで公開されるやいなや、何百万もの視聴者がユーチューブに殺到しました。

苦労しているのは私や友人たちだけではないのが明らかでした。ある晩、見知らぬ人が私のもとへやってきて、「きみのポリアモリー[訳注:当事者全員が合意のうえで、同時に複数の人と交際する恋愛関係]についてのインタビューを見たよ。そんな関係性がうまくいくなんて、まったく思いもしなかった。世界が一変したよ」と言いました。

その瞬間、私は自分の仕事の影響力の大きさを実感しました。これこそ、天職だと思ったのです。とはいえ、非科学的なアドバイスをばらまく恋愛の導師のような存在にはなりたくありませんでした。

そうではなく、「グーグルで磨いた行動科学の知見をいかして、人々が恋愛でより良い決断をできるよう手伝えないだろうか?」と考えたのです。

いまだかつてなく非合理

テック業界で10年近く過ごしたのち、仕事を辞めた私は、人々が愛を見つけ恋愛を長続きさせる手伝いを始めました。意志決定における本能的な間違いがつまずきの原因のはず。人々が行動を変え、負のバターンから脱却し、永続的な愛を見つけるには、行動科学が鍵となると私は確信しています。

パートナー選びはただでさえ恐ろしくやっかいなものであるのに、そこに文化的な偏見や余計なアドバイス、社会や家族からのプレッシャーが加わるとさらに大変になります。それなのに、行動科学を恋愛に役立たせようとする人はこれまでいませんでした。

その理由は、愛とは、科学的な分析などできない、魔法のような現象であると考えているからかもしれません。あるいは、「誰も理性的な愛など求めていない」という批判を恐れているからでしょうか。

私が目指すのはそういうものではありません。なにも、マッチングの可能性をすべて分析し、運命の相手の最適解をはき出す、超合理的なスーパーコンピューターに人々を仕立てあげようとしているわけではありません。愛を見つける障害となっている盲点を克服できるよう手伝いたいのです。

行動変容には二つのステップが必要です。第一に、私たちの行動をつかさどる見えない力と、致命的な間違いに発展する判断ミスについて学ぶこと。

「もっといい人がいるのでは」と真剣交際に及び腰になったり、人生のパートナーよりも一夜限りの相手を追いかけてしまったり、はたまた、賞味期限切れの関係をぐずぐず引きずってしまったり、といった間違いについて、振り返ってみましょう。

しかし、気づくだけでは行動にはつながりません(「ワルい男」や「夢のようなエキセントリックな女の子」と付き合うべきではないとわかっていても、つい惹かれてしまうもの)。実際に何かしら行動を起こさなければならないのです。

そこで行動科学の二つ目のステップが登場します。実証済みのテクニックで、「わかる」から「実行する」に移行しましょう。行動を変え、目標を達成するための新しいシステムを構築する必要があるのです。

ローガン・ウリー
恋愛コーチ兼マッチングアプリ研究ディレクター

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