Bialystocks、演劇的なステージ演出への挑戦 濃密な演奏を“鑑賞”した初のホールツアーファイナル

6月28日、Bialystocks初のホールツアー『Bialystocks Tour 2024』のファイナルとなる東京公演が、自身最大規模の会場となるTOKYO DOME CITY HALLで開催された。最新曲「近頃」のリリースタイミングで行われたリアルサウンドのインタビューで、菊池剛(Key)が「座っても楽しめるような、没入できるようなライブにできたら」(※1)と語っていた通り、今回のツアーは多彩な演出を盛り込んだ内容になっていて、オーディエンスは着席のままバンドの演奏や歌に酔いしれた。

Bialystocksのいくつかの楽曲をマッシュアップしてビッグバンドでアレンジしたようなオープニングのSEが流れ、ステージを覆っていた幕が開くと、1曲目に披露されたのは「夜よ」。ステージ中央に位置し、ピンスポットに照らされた甫木元 空(Vo)がアコギの弾き語りでまずはしっかりと歌を届けていく。続く「雨宿り」からはピアノが加わり、もう一本のピンスポットが交差する形で菊池を照らす。さらに「頬杖」でコーラスの2人を含むサポートメンバー6人が加わると、今度は8本のスポットライトが全員を照らし、序盤から一気にバンドの世界観に引き込まれた。着席のスタイルでじっくり「鑑賞」するような公演は、2022年に彼らが大手町三井ホールで行った初めてのワンマンライブにも近いが、甫木元が映像作家だということもあり、映像演出が多く用いられた初ワンマンに対し、この日の前半は照明で物語を伝えるような演出が新鮮だった。

もちろん、Bialystocksのライブはフィジカルな魅力も十分にあって、甫木元のボーカルと西田修大のギターがスリリングに絡む「コーラ・バナナ・ミュージック」や、越智俊介がエレキベースではなくコントラバスを弾くカントリー調の「Emptyman」と続き、〈ゆらめく 光と共に〉という歌詞とシンクロするように、暖色のランプふたつの光のみで始まった「花束」も印象的。Bialystocksの2024年は1月に行われた2人編成のライブでスタートしているが、「日々の手触り」で菊池がセミアコを弾いて、前半を歌とギターだけで届けたように、甫木元の歌はますます艶を増していて、この歌声がBialystocksの核となっていることを再認識させられた。

様々なアーティストのサポートを務める西田と越智、バンドを初期からサポートするドラムの小山田和正の3人が骨太な演奏でバンドの土台を担い、コーラスのオオノリュータローと佐々木詩織が楽曲に彩りを加え、さらには昨年のツアーから合流した“マルチインストゥルメンタリスト”とも言うべき秋谷弘大の存在によって、楽曲の再現性が上がっているのも特筆すべき。同期に頼らず、セッション性を重視しているのは彼らのバックボーンにジャズがあることを感じさせるが、以前までは菊池が曲ごとに楽器を細かく変えていたのに対し、現在は秋谷がその役割を担当。シンセをメインとしつつ、「Over Now」ではギターを弾きながらコーラスをし、一瞬サックスを吹いたかと思えば、グロッケンも叩いたりと、再現性への貢献度はとても高い。盤石のサポート陣に支えられ、「灯台」では甫木元が転調を繰り返す複雑なメロディをスキルフルに歌い、美しいファルセットを響かせて、中盤のハイライトを作り出した。

「あくびのカーブ」は菊池と秋谷がいない編成で演奏され、アウトロでは西田と越智と小山田がロックなセッションを聴かせると、菊池が再びステージに戻ってきて、パッとピアノソロへと切り替わり、ここからは演劇的な演出が展開される。菊池のピアノに導かれ、甫木元とオオノと佐々木が下手に3人並んで「朝靄」を歌うと、途中からバンドメンバーが手持ちのピンスポットライトを揺らしながらステージ上を歩き、全員が下手に並ぶと「ただで太った人生」を合唱。さらに西田のギター、越智のコントラバスとともに披露された「またたき」はゴスペルのような荘厳な雰囲気を作り出した。甫木元と菊池の共通のフェイバリットであるミュージカルを観ているかのような、この演劇的な演出は今回のツアーならではの特別ものだったと言えるだろう。

ライブ後半は「はだかのゆめ」からスタートし、「All Too Soon」では途中から長尺のセッションに突入して、バンドとしての力量を再度強烈に印象づける。甫木元がアコギを弾きながら歌った「近頃」は、もともと80年代感の強いサウンドをイメージしていたというだけあって、The Weekndの「Blinding Lights」やザ・キッド・ラロイの「STAY」のような80年代ポップを生感強めに表現したようなアレンジが面白い。曲の後半では菊池と西田が熱量の高い掛け合いをして、つい先日『JAZZ NOT ONLY JAZZ』というイベントに石若駿のバンドで参加した西田が上原ひろみとインプロビゼーションを行なった絵を思い出したりもした。

プログレッシブなキメと照明のシンクロが鮮やかだった「I Don't Have a Pen」、さらに「差し色」から「光のあと」をシームレスに繋げると、ライブ後半のハイライトを作り出したのが「Branches」。シンセベースを用いた前半では楽曲のスケールの大きさ、空間の広さを示すようにステージ全体が白色のライトで照らされて異空間を作り出し、曲の展開に合わせて後半になるとたくさんのスポットライトが幾何学模様を描き出して、照明が重要な役割を果たしたこの日のライブの集大成のような場面を立ち上げる。ラストはサックスをフィーチャーしたジャズスタンダード風のナンバー「フーテン」が披露され、濃密な本編が終了した。

アンコールでこの日初めてのMCを行い、ニューアルバムをリリースして、それに伴うツアーが開催されることを報告すると、最後に甫木元はこれまでBialystocksのアートワークを手掛けてきた画家の竹崎和征が前週亡くなったことを伝え、「これは竹崎さんの友達の一人として言わさせていただきます。どこか頭の隅の方に、竹崎和征という画家がいたというのを引っ掛けておいてもらえたら嬉しいです」と語った。次に披露された「幸せのまわり道」はドラマに向けて書き下ろされた楽曲で、もちろんMCとの関連性はないわけだが、〈溢れた 想いだけ/そのままで〉〈あなたとただ いれたらいい/いつまでも〉という歌詞は幸せと表裏一体の喪失を感じさせる。もともとBialystocksの楽曲には死生観や喪失感が強く内包されていて、1曲目に歌われた「夜よ」は父の死に際して作られたBialystocksの始まりの一曲であり、甫木元が監督した映画のために作られた「はだかのゆめ」も母親の死が背景にある。Bialystocksの楽曲は死や別れと不可分で、だからこそ人生讃歌として力強く響くのだということを、改めて感じさせるシーンだった。

ここまでオーディエンスはじっと座ってステージを見つめていたが、甫木元がエレキギターを持ってアップテンポの「Nevermore」が始まると、堪えきれなくなったようにスタンディングで体を揺らし始める姿がチラホラ。そして、甫木元の〈どうでもいい事ばかりしがみつき〉というシャウトに大歓声が起き、ラストの「Upon You」が始まると、オーディエンスが一斉に立ち上がって、場内が手拍子に包まれた瞬間はまさにスペシャルだった。音楽の力によって自主的に、オーディエンスそれぞれが思い思いの方法でライブを楽しむ空間というのは理想的だと言えるだろう。全ての演奏を終え、ステージ上に整列したメンバーにそのままスタンディングオベーションが送られる光景は、感動的な演劇を観た後のような実に心地のいい余韻を感じさせるものであった。

※1:https://realsound.jp/2024/04/post-1636669.html

(文=金子厚武)

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