【社説】強制不妊に違憲判決 国は謝罪と速やかな補償を

 子どもを産み育てる権利を奪う「戦後最大の人権侵害」である。原告の訴えに応えた画期的な判断といえよう。

 旧優生保護法によって不妊手術を強いられた障害者らが国に損害賠償を求めた5訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷はきのう、旧法を憲法違反だと断じた。

 初の統一判断で、国の賠償責任を認めた。不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用せず、国が責任を免れるのは「著しく正義・公平の理念に反する」と指摘した。国が反論の根拠とした「時の壁」を崩した。

 至極当然である。憲法をないがしろにして半世紀近く、非人道的な行為を国策とし、障害者らへの差別や偏見を助長してきた。約2万5千人に上る被害者の救済に道筋をつけよと迫る司法判断は重い。

 2018年以降、原告39人が12地裁・支部に提訴した。高齢であり、国は全ての訴訟を終わらせるべきだ。被害者への明確な謝罪と、声を上げられていない人を含め、速やかで手厚い補償を求める。

 何より負の歴史に真正面から向き合わねばならない。

 旧優生保護法は食糧難での人口抑制策として1948年に議員立法で成立し、96年に母体保護法に改正されるまで存続した。目的を「不良な子孫の出生を防止する」と規定し、知的障害や精神障害がある人、ハンセン病患者たちに不妊手術をできるとした。国が各自治体に推進を通知し、官民で進めた地域がある。被害者の過半数は本人の同意を得ず、だまして手術を受けさせた例もあった。

 最高裁判決は個人を尊重する憲法13条に反し、法の下の平等を定めた14条にも違反するとした。国の責任を「極めて重大」と認定した。国は旧法を廃止後も、救済に後ろ向きな姿勢を続けてきた。誠実に受け止めるべきだ。

 国会も後手に回った。救済に動いたのは訴訟が起こされてからだ。しかし、救済法は一時金を支給するとしながら国の責任を曖昧にした。昨年公表した衆参両院の調査報告書でも踏み込まなかった。

 判決を受け、岸田文雄首相は「政府として真摯(しんし)に反省し心から深くおわびを申し上げる」と述べた。原告らと面会する見通しだ。これ以上の責任放棄は許されない。

 最高裁が除斥期間を適用しなかったのは、そもそも被害者が長く訴えられなかった実態を踏まえたのだろう。

 一時金の支給認定を受けたのは、わずか1100人余りだ。根強い差別の中で声を上げるのは困難だったろう。認識がない人、手術をさせた負い目で家族に隠された人、相談できない人も少なくない。

 1人当たり一律320万円の一時金は、1千万円を超す賠償命令と比べて不十分だ。対象者への個別通知や訴えの支援も欠かせない。

 人の命に優劣をつける「優生思想」は、社会からなくなってはいない。同じ過ちを繰り返さないためには、過去に向き合う検証が欠かせない。苦しんできた人の尊厳をいかに取り戻すのか。岸田政権がやるべきことは明確だ。

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