ユーロ2024の感動的な敗退エピソード3選

ロベルト・レバンドフスキ(左)イワン・ハシェック監督(右)写真:Getty Images

ドイツで開催中のUEFA欧州選手権(ユーロ2024)。グループステージが終了し、出場した全24カ国の代表チームのうち8チームが敗退し大会をあとにした。サッカーに勝ち負けはつきものだ。しかし見事な負けっぷりは、もしかしたら平凡な勝利よりも人々を感動させることだってある。

ここではユーロ2024グループステージで儚く散っていった者たちに、あえてスポットを当ててみたい。中でも印象的だったポーランド代表、ウクライナ代表、チェコ代表の敗退劇をまとめてみよう。


ロベルト・レバンドフスキ 写真:Getty Images

ポーランド代表:レバンドフスキの幻影を見ていた?

ポーランド代表はユーロ2024で最初の敗退国となってしまった。その一番の敗因はキャプテンのFWロベルト・レバンドフスキ(バルセロナ)の故障だろう。大会直前に行われたトルコ代表との親善試合で負傷退場すると、ポーランドサッカー協会(PZPN)が「大腿二頭筋の断裂でレバンドフスキは初戦に出場できない」と発表し暗雲が垂れこめた。

グループDの1試合目オランダ戦でポーランドは、先制点を決めるも徐々に実力差が表れはじめて1-2で敗れた。中盤で、ほぼ確実にサイドにボールを繋げられる状況にもかかわらず、なぜか前線にフィードするという場面がみられた。ゴールが近い場面で、リスクを冒してFWにボールを入れることはあるが、まだ自陣でビルドアップをしていてサイドにフリーの選手がいるのに、なぜ浮き球を前に蹴ってしまったのだろうか。

まさか、押しも押されもせぬエースストライカーであるレバンドフスキの幻を見ていたのか。緑のピッチには立っておらず、ベンチに座っていることは認識していたはずだ。戦術の変更がうまくできなかった可能性もある。とにかくボールを預ければ何かをしてくれる頼もしい存在の不在を、しっかりと受け止めることができなかったのかもしれない。

2試合目のオーストリア戦は、1-1で逆転を狙う60分に途中出場したレバンドフスキだったが、逆にそこから2失点を喫して1-3で敗れた。やはり、本調子とは程遠かった。

すでにグループステージ敗退が決定して臨んだ3試合目は、フランスを相手に79分にレバンドフスキがPKを決めて1-1で引き分けに持ち込んだ。しかしながら、右脚の大腿部に巻かれたバンデージは痛々しかった。

同試合、勝っても負けても敗退しかないポーランドは無気力に消化試合を終えることもできただろうが、大国を相手に最後に意地を見せた。開き直りとは恐ろしいもので、ポーランドのイレブンはピッチをのびのびと疾走しレ・ブルー(フランス代表)を攻め立てて苦しめた。そして、勝点1という勲章を手に帰国の途についた。


ウクライナ代表 写真:Getty Images

ウクライナ代表:史上初の勝点4で敗退

ユーロ史上初めて勝点4で全チームが並んだグループE。首位ルーマニア代表、2位ベルギー代表、3位スロバキア代表が決勝トーナメントに進出したが、4位ウクライナ代表は敗退が決まった。勝点4を得て敗退する初のケースとなった。

これは、欧州の国々のレベルが拮抗してきていることを示している。また、予選でプレーオフを勝ち抜いて滑り込みで本戦出場を決めたウクライナの執念により生まれたと言ってもいいだろう。国土が荒廃していくなか、2022年のFIFAワールドカップはプレーオフで出場を逃していたため、今回のユーロにかける想いは並々ならぬものがあった。

ウクライナは1試合目でルーマニアに0-3の大敗を喫するが、スロバキアには2-1逆転勝利を収める。そして最終戦ではFIFAランキング3位の強豪ベルギーを相手にスコアレスドローに持ち込んだ。ベルギーが優勢に試合を進めながら、シュート本数はベルギーの12本に対してウクライナは14本と堂々と渡り合った。

苦しみにあえぐ国民を勇気づけようという一心で最後まで戦い抜いたからこその勝点4だったと言える。

イワン・ハシェック監督 写真:Getty Images

チェコ代表:史上最多のカードが飛び交った大乱戦

チェコ代表は、選手時代から日本にもゆかりがあるイワン・ハシェック監督が率いた。1994年から96年までサンフレッチェ広島とジェフユナイテッド市原でプレーし、2004年にヴィッセル神戸の監督を務めている。

グループFのチェコは、後がなくなりトルコ代表を相手に勝つしかなくなった3試合目で壮絶な試合を繰り広げた。まずはMFアントニン・バラーク(フィオレンティーナ)が11分にユニフォームを引っ張り、20分には踏みつけ行為で2枚のイエローカードを受けて退場処分となったことで、この試合の運命が決定的なものになる。

51分についに失点すると、そのプレーでGKが負傷した。1人少ない上に、アクシデントがなければベンチに下げることはほとんどないGKに貴重な交代枠を使ってしまった。もはや、絶体絶命かと思われた。しかし、ここから10人のチェコによる一世一代の反撃が始まる。

守備を固めるトルコに対して果敢に攻めると、66分にゴール前に上がったボールに競り合ったGKがファンブル(一度はボールをキャッチしたものの、落としてしまうこと)。そのこぼれ球をキャプテンのFトマーシュ・ソーチェク(ウェストハム・ユナイテッド)が拾ってシュートを決め、1-1の同点に追いつく。ハシェック監督は、ベンチを飛び出して両拳を握って渾身のガッツポーズだ。

チェコは、ここでさらに攻め続ける。10人相手に当然、勝たなければならないトルコも攻めに転じたため、ノーガードの打ち合いになった。満身創痍のチェコは、簡単にクリアするのではなくディフェンスラインからドリブル突破して数的不利をどうにか克服し、逆転のチャンスも訪れた。

しかし、身体の現実を気持ちが越えてしまい、脚が痙攣しコントロールミスも出はじめた。そして90+4分にトルコが勝ち越すと万事休した(1-2)。

チェコ代表 写真:Getty Images

ボールポゼッションはトルコの62%に対してチェコが38%。シュート数は17本に対して12本だった。走行距離は110.5kmに対して109.8kmと遜色ない。ボールはトルコが支配しながら、1人少ないチェコは動き回り、しっかりとシュートを打った。チェコが辛抱強く耐えて、いざボールを持ったら躍動し深く刺すような攻撃を仕掛けたことをこのデータは示している。

退場者が出てチームにいいことは何一つない。ユーロ史上最多となるイエロー16枚、レッド2枚のカードが飛び交った大乱戦となった。あの退場のレッドカードが提示された瞬間にサッカーの魔物が目覚めたような気がした。

壮絶な試合を終えて挨拶に行ったチェコの選手たちに、サポーターは大きな拍手を送った。「あんな物凄い戦いを魅せてくれたら勝ち負けなんか、もうどうでもいい…」そんなスッキリした心持ちだったことだろう。サッカーは頭数ではなく、ハートと熱量でプレーするものだということを、この試合は教えてくれた。

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