教育版マインクラフト、授業で行う最初の1時間の内容を体験

by 新妻正夫

NEXT GIGAの話題が注目を集めた今年のEDIX東京。各社のブースにはデバイスが並び、さまざまな教育DXソリューションが見られた。一方で、筆者が2018年から取材を続けているプログラミング教育やSTEAM教育はどうだったのか、気になるところだ。その様子をEDIX東京レポートの番外編としてお届けしよう。

第15回 EDIX(教育 総合展)東京レポート 目次

アーテック、くもん出版、お馴染みの企業ブースは健在

2020年に小学校でプログラミング教育が必修化されてから4年が経過した今、以前のようなにぎやかさはなく、今年は特に展示数そのものがかなり少なかったように感じた。そんな中、会場の目に付くところに株式会社アーテックのブースがあって一安心。

学年・科目別に利用できる多彩な教材を展示するほか、レンタルパッケージをアピール

昨年はまだ参考出品だった、スマートホームやIoTを手軽に楽しめるプログラミングキット「Artec Links(アーテックリンクス)」も無事に販売され、小・中・高を束ねるプログラミング教育ソリューションを展示していた。

同じデバイスを小・中・高と長く利用できるのは、学校や教員にとっても扱いやすく、こうした視点もプログラミング教材には大切だ。アーテックリンクスは、学校だけでなく、個人でも入手できるので家庭で遊んでみるのもよいだろう。

アーテックリンクスの特徴(出典:株式会社アーテック)

2020年のEDIXから出展を続けている、株式会社くもん出版のブースも発見。未就学児から低学年向けのかわいいロボット教材も健在で、IchigoJam Basicを用いたテキストプログラミングの書籍も展示されていた。これも一安心。

3歳以上が対象年齢で、ボタンを押すだけでプログラミングできる「テイルボット プロセット」
4歳から9歳が対象年齢で、ブロックを組み合わせてロボットを動かす「マタタ プロセット」

実は昨年も出展していた韓国系ベンダーの姿もちらほらあった。中でもBPLABO(株式会社ビーピー)は説明員も増え、いろいろなデザインの実際に「作る」教材を多数展示していた。筆者は「これぞSTEAM」という感じで好感が持てた。これらのキットを図工室などに並べておくだけでも楽しかろう。

4回から6回の授業を想定した「DIYスマートファームキット」、気温や湿度土壌の温度をLCD画面で確認できる

見当たらない「micro:bit」よ、いずこへ?

ある程度うろうろ回っていて、大事なことに気が付いた。定番の小型コンピューター「micro:bit」が見当たらないのだ。こりゃ、今年はどこにもないのかな?と改めて回ってみると、ありました、ありました。それも意外なブースの一角に。「いやー、さがしましたよ」と、ドラクエ2の王子を見つけた気分である。

micro:bitを展示していたのは、株式会社SRAと進学教育研究会との共同ブースにあったSSI(株式会社ソフトウエア・サイエンス)のプログラミング教育コーナー。沖縄県の小学校/学童向けの支援を実施しているという。

展示されていた機材は、スイッチサイエンスの多足ロボットやmicro:bit向けのロボットカー。このロボットカーは、かなり優秀で自動運転も可能なんだとか。プログラムも含めて展示だけだったのがちょっと残念。

スイッチサイエンスの多足ロボットやmicro:bit向けのロボットカーを展示

実践を踏まえた教育版マインクラフト活用のハンズオン!

こうした中、マイクロソフトのブースではマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)の先生による教育版マインクラフトのハンズオンが行われていた。講師は、さいたま市の中学校で授業でもマインクラフトを活用している小口稚聡先生。

「さあ、皆さんやってみましょー」とやさしい語り口でハンズオンを進める小口稚聡先生

題して「教育版マインクラフト活用の1時間目を一緒にやってみましょう!」。筆者もやってみたい気持ちでいっぱいだったのだが、ここは会場の皆さんを優先して後ろから眺めることに。

ハンズオンの内容は実際の授業とほぼ一緒。ただ大人向けということもあり、ぎゅっと20分に圧縮したそうだ。開始前の会場では、Microsoft Surfaceが10台ほど並び、スタッフが教育版マインクラフトを起動し準備していた。…‥‥とその中に、手伝いに駆けつけた(?)MIEEフェローの福島 学先生の姿を発見。

ご本人曰く「ベンチマークしないとねー」とTNTの塊を発生させ、レバーで爆発させていた(ボタンではなく、レバー派らしい)。ある意味、MakeCodeの動作確認としては完璧なのかもしれない……。

ブースに用意されていたSurface Pro 10で、ベンチマークと称して別のことをしている福島先生

脱線するが、気になったので筆者もTNTキューブを再現してみた(よい大人は真似をしないでください)。

TNTキューブのコードと完成例

教育版のマルチプレイを体験

小口先生のハンズオンは、大きく3つの「やること」で構成。何と、いきなりマルチプレイに参加し、マイクラの中で建築を行い、最後にMakeCodeを使ったプログラミングを体験する。教育版の特徴をうまく取り込んだ最初の一歩である。

ハンズオンでやること3つを提示。小口先生は美術を教えているのでフォントや色使いがカワイイ

教育版に限らないが、マインクラフトの楽しみの1つが「マルチプレイ」だ。別々のプレイヤーがバーチャルで同じワールド内に集まれる。結果、おのずとチームによる共同作業が進めやすくなる。小口先生は複数人がひとつのワールドに入るための参加コードを提示した。

マルチプレイを行うための参加コードの例。ホスト役の画面に表示される4つのアイコンの組み合わせを伝え、ワールドに参加してもらう

ワールドに参加した受講者は、続けてマイクラの移動・ブロック設置・破壊の基本操作を体験していく。「ブロックを置く」と「ブロックを壊す」で右クリックと左クリックを使い分けるのだが、このあたりはパソコンでのマイクラ操作に慣れていない大人は戸惑いやすい。小口先生はこれを「創造の右、破壊の左」という言葉で説明。実は同僚の先生によるアイデアだそうで、簡潔でいい言い方だなと思う。

マイクラ操作の基本「創造の右、破壊の左」

学校では、生徒たちの方がはるかにマイクラの操作に慣れているわけだが、それでも初めての生徒がいないわけではない。そのときは、操作に慣れている生徒たちが助けてくれたそうだ。

しばらくすると、ワールドの中で、参加者らが作った思い思いの建築が出来上がっていく。

参加者による建築物が徐々にでき始める

次にMakeCode(メイクコード)を使ったプログラミングに進む。MakeCodeを呼び出すのはとても簡単だ。キーボードの[C]キーを押せばよい。操作画面が開き、すぐに始めることができる。今回は、チュートリアルから「ニワトリ」を全員でやってみる。内容は、プレイヤーの頭上から100羽のニワトリを落下させるというもの。子供たちも大好きなプログラムだ。

画面を使って操作を参加者に説明
MakeCodeのチュートリアルで「ニワトリ!(Chiken Rain)」を選んで進めていく

チュートリアルは、ステップバイステップでコードを組み立てて実行する。途中、必要ならばヒントから(ほぼ)正解を見て真似をしても構わない。実際に作って実行することが大切なのだ。

無事にわとりが大量発生して、安堵する小口先生

同ハンズオンは、学校の授業で行う最初の1時目の内容。では、この後の教育版マイクラを活用した授業はどう続くのか? 小口先生は、公益社団法人ユニバーサル志縁センターが運営する「授業・校務活用素材ポータル」に教材を共有しているので、興味のある方は関連リンクを参照いただきたい。

この一歩を踏み出して、教育版マインクラフトで体験できる多くのワールドやレッスンプランを現場の先生たちの手によって児童生徒たちに届けて欲しい。MakeCodeに限っても、豊富なチュートリアルが用意されているため、教育版マイクラならではのプログラミングが体験できるはずだ。

ここはいったいなに?EDIXにデイリーヤマザキが登場!

さて、「プログラミング教材ないなー」とぼやきながら会場を回っていたら、筆者の目にコンビニ店舗らしいものが飛び込んできた。

とうとうEDIXにもコンビニが出展したのかな? と思いつつ、よくよく聞いてみると、並んでいる商品はすべてサンプル。何とここは、山崎製パン株式会社のブースで、学内コンビニのデモンストレーションだったのだ。確かに学校の中にあったら便利に違いない。

ここはいったい何? EDIXにデイリーヤマザキが登場!

これは1つの事例ではあるが、教育ベンダーに限らない他の産業の企業がもっと教育現場と関わることでお互いに得るところが多いのではないだろうか。例えば、コンビニのバックヤードに児童生徒は興味津々だろうし、レジ操作の職場体験をしてもらうとか、ITシステムを詳しく紹介するなど、いろいろな活動につなげられそうである。

社会の変化がこれほど急速に進む中、教育現場が変わっていく様子を感じた今年のEDIXであった。

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