なぜスペイン代表は点を取れるのか。カタールW杯のチームとの明確な違い【現地発コラム】

EURO2024ラウンド16のジョージア戦(スペインが4-1で勝利)、突然のオウンゴールで先制を許したスペインには嫌なムードが流れた。5バックで徹底して守備を固める相手に、ゴールをこじ開けなければならない事態に直面した。

20年近くパスサッカーをアイデンティティにしてきたスペインはこれまで散々この種の岩に躓いてきた。相手に衝撃を繰り返し与えるという従来とは異なったアプローチで得点を狙うルイス・デ・ラ・フエンテ監督率いるスペインの真価が問われる場面だった。

その新生スペインを象徴するのがシュート数だ。データ会社『StatsBomb』によると、今大会ここまで1試合あたり平均20.5本のシュートを放っている。これは出場チーム中最多の数字で、同11.8本にとどまったカタール・ワールドカップの約2倍に相当する。

実際、ルビン・ル・ノルマンのオウンゴールの後、リズムが崩れたとロドリは試合後、振り返っている。周りのチームメイトをいったん落ち着かせたその中盤のリーダーに牽引されたスペインはその後も攻め続け、90分を戦い終えた時、シュート数は35本(枠内13本)に達していた。データ会社『Opta』 によると、これはスペインが1980年以降のメジャー大会で記録した最多の数字だ。

「シュートを打てば打つほど、ゴールの可能性も高まる」とデ・ラ・フエンテ監督は強調する。当たり前のことのようだが、もちろん簡単ではない。例えばカタールW杯のラウンド16のモロッコ戦(0-0で120分を終え、PK戦の末、モロッコが勝利)におけるスペインのシュート数は13本(枠内1本)、グルジア戦のほぼ3分の1だった。

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ジョージア戦の同点ゴールはロドリの読み勝ちでもあった。「ジョージアはタイトな守備で対抗してきたけど、フォワード2枚が前線に残って降りてこないので、ゴール前にスペースが生まれる瞬間があることは分かっていた。そこを僕たち中盤の選手が突いていけばいいとね。フォワードがゴールを決める形がもちろん理想だけど、相手選手があれほど密集している状態だと簡単ではない。明確に良い形でシュートが打てるようにするには、そのお膳立てが重要だ」

デ・ラ・フエンテがシュートへの積極性を求めるのは、それだけの選手が中盤に揃っていると考えているからでもある。ロドリがその意図を代弁する。「ファビ(ファビアン・ルイス)はミドルレンジからのシュートをいくつも決めているし、ペドリももっとトライしていけばいいし、僕もそれなりにシュートを打っている」

ジョージア戦でもロドリとファビアンと2人の中盤の選手からゴールが生まれた。スペインのアンカーと言えば、これまでは配給役と攻守のバランサー役に徹し、プレーエリアが制限される傾向が強かったが、相手ゴールに近づけ、シュートへの積極性を求めるデ・ラ・フエンテの攻撃的な姿勢が奏功している。

MF陣のシュート数に目を向けても、W杯カタール大会との違いは明らかだ。セルヒオ・ブスケツのシュート数は、4試合で合計2本にとどまった。ガビがシュートを打ったのは、7-0で勝利したコスタリカ戦での得点シーンだけだった。ペドリに至っては1本もシュートを打たずに帰国した。

一方、今大会ここまで1試合平均2.5本のシュートを放っている。今シーズンのバルサとの比較でも、これは3倍に相当する。

ファビアンの変貌ぶりにも目を見張るものがある。『StatsBomb』によると、今大会の1試合あたり平均シュート数は3.6本。今シーズン、パリ・サンジェルマンで記録した1.3本の3倍近い数字だ。

デ・ラ・フエンテは「このチームはフィニッシュで終わらせる形が確立している。ウイングがサイドを突破しクロスを上げて危険な状況を作り出すなど、攻撃のバリエーションが広がっている。サッカーとは、主張し、主張し、それを貫くことだ。確たる信念に基づいてね。我々は、このやり方が最善の道だと信じている」と試合後、ご満悦だった。

ジョージア戦において前半と後半で大きく変わったのが、ゴール期待値だ。『StatsBomb』によると前半0.80だったのが、後半開始からダニ・オルモが4点目を決めた83分まで1.9に急上昇。「前半に相手を疲弊させることができたおかげだ。でなければ後半、あれほど圧倒的に支配することはできなかったはずだ」とデ・ラ・フエンテは説明する。かくしてスペインの累積による5バック攻略プランは機能した。

文●ダビド・アルバレス(エル・パイス紙スペイン代表番)
翻訳●下村正幸

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