『ギークス』第1話 「お仕事ドラマ兼ミステリー」としての強度とタイトルの違和感

前クールでバカリズムと篠原涼子が主演していた『イップス』(フジテレビ系)というドラマがあって、まあ調子が悪くて仕事が進まない的な意味で「イップス」という言葉が使われていたんですね。

当初はこれ「イップス」じゃなくて「スランプ」って呼んだほうがしっくりくるんじゃないかとモヤモヤしていたことを思い出したんですが、今期の木曜劇場『ギークス~警察署の変人たち~』(同)の松岡茉優のこの感じも、「ギーク」っていうより「ナード」だよなぁなんてことを考えながら見始めた『ギークス』第1話。

あんまりギークじゃないし、ましてや変人でもない3人の女性のお話。振り返りましょう。

■2つの構造を持つドラマ

パッと見では、3人は「定時に帰る」ことを標榜しつつ「酒も仕事も人間関係もヌルいほうがいい」という価値観こそ共通していますが、あんまり“似た者同士の3人組”という感じではないんですよね。

休日に6時間以上もジグソーパズルをやってる西条(松岡)は、まさしく「ナード」な人として描写されています。人と目を合わせないし、自分のことをしゃべり出したら止まらなくなったりもする。第1話の最後でイケメンの隣人(白洲迅)にデートに誘われ、喜ぶでも拒否するでもなく「なんで?」と戸惑う姿は、まさしく社会性ゼロ。そんな西条はものすごい記憶力を持っていて、だいたいの証拠から事件の真相がわかってしまう。

シングルマザーで婚活にも積極的な吉良(田中みな実)は心理学に精通していて、プロファイリングとかできちゃう。

おせっかいで物事をきっぱり言い切らないと気が済まないタイプの基山(滝沢カレン)は交通課勤務で、地域の情報はすべて頭の中に入っているし、なんでも地図や地理に例えてしゃべりたがる地図オタク。

こう見ると、かろうじてギークっぽいのは交通課の基山なわけですが、3人の特技が3人とも、ものすごく警察の仕事の役に立ってるので「ギーク」という言葉の持つ「なんか無駄にめっちゃ詳しい」というニュアンスの「無駄」の部分がなくて、しっくりこないんです。

と、長々とタイトルにいちゃもんをつけてしまいましたが、個性の違う3人の「定時に帰りたい女たち」が周囲のブラック環境に辟易しながら働く“お仕事ドラマ”としては、けっこう楽しいものになりそうです。松岡茉優の「社交性がないから、なんでも言えちゃう」というキャラ設定とか、あとやっぱり普通に「定時なので帰ります」って帰っていく姿なんて爽快感がありますからね。ライフワークバランスを整えていくことは社会的にも大きな目標になっていますし、これはこれで今のヒロイン像にも見える。そういうのが、ひとつめの構造。

■ミステリーとしてどこまでがんばれるか

もうひとつは、謎解きとしてのミステリーの構造です。事件現場に足を運ばず、与えられた情報から事件を推理していくスタイルをミステリーの世界では「アームチェア・ディテクティブ=安楽椅子探偵」と呼ぶわけですが、3人が居酒屋で刑事から事件の情報を聞かされるシーンなど、「安楽椅子」を象徴していて手際の良さを感じさせました。

謎解きそのものも、無関係だったはずの人たちが裏でつながっていることがわかっていったり、単独犯だと思われていた殺人が複数犯だったり、解決したと思ったらもうひとつ裏があったりと、けっこう見応えのあるものになっていました。これくらいやってくれたら、ぜんぜん文句ないです。

事件の解決に興味がなかったり、真相の究明より「定時に帰ること」が優先されたり、情報を受け取った結果「わかっちゃった」から教えるだけという主人公・西条のスタンスも実に“安楽椅子探偵”的で、ミステリーとしてのジャンルと人物たちのキャラが合っているのも気持ちがいいところです。

第1話に限って惜しむらくは、事件解決のプロセスに対して、鑑識・西条の能力に頼りすぎていること。3人組がそれぞれ「ギークである」=「飛び抜けた能力の持ち主である」という設定を活かしきるなら、今回は「松岡茉優=8・田中みな実=1・滝沢カレン=1」くらいだった解決への貢献度を、なるべく平均的に振り分けられるような推理が作れたらいいなと、超絶難しい要求ではあると思いますが、そんなことを望みたい作品になっていると思います。

あとしつこいけど、やっぱりタイトル気に食わないなぁ。おもしろいドラマだけに、『ギークス~警察署の変人たち~』なんて振りかぶらないで『私たち、定時で帰ります!』みたいな、あくまで普通の女性たちが普通に定時で帰りながら事件を解決していくというニュアンスのほうが、この内容には合ってると思うんだけど。というか、この人たちを「変人」と呼んでほしくないんだよな。変じゃないよ、別に。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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