米兵による性的暴行事件 プライバシーの線引きは?識者が見解

アメリカ兵による一連の事件で抗議の声が広がるなか、政府はプライバシーの保護を理由に県に情報を共有をしていませんでした。
いっぽう、識者はプライバシーの保護は大切だと前置きしながらも、政府が情報を一切公開しない事は問題だと指摘します。

県内では去年12月と今年5月にアメリカ兵による女性への性的暴行事件が発生し、いずれも那覇地検に起訴されましたが、被害者のプライバシー保護を理由に政府や県警から県に情報提供はありませんでした。

犯罪に係る法律を研究する琉球大学の矢野教授は、この対応を問題視しています。

琉球大学法科大学院・矢野恵美教授:
「プライバシー保護はどの事件でも必要な事であって、この事件ではプライバシー保護だから教えない、この事件ではプライバシー保護じゃないから教えるという事じゃないんですね」

性犯罪事件は、2017年に法改正され、被害者の告訴がなくとも起訴できるようになりましたが、プライバシーにかかわる部分も大きく、被害者から捜査への協力が得られなくなる場合があるなど、情報の取り扱いには一層の慎重さが求められています。

そのいっぽうで、自治体には再発防止や犯罪を防止するため必要となる場合があります。

琉球大学法科大学院・矢野恵美教授:
「公開するから被害者のプライバシーを害するのではなくて、なにを公開するかです。それによって、被害者のプライバシーを守る事はできますので、なにを公開し、どうそれを扱うかが大切であって、被害者のプライバシー保護を理由に(政府が)一律に公開しない理由にはならないと思います」

安全保障問題に詳しい沖縄国際大学の前泊教授は、今回の政府の対応は、アメリカ兵による犯罪の隠蔽とも受け取られる対応だったと非難します。

沖縄国際大学・前泊博盛教授:
「事件から半年経ってプライバシーについてなにか変化があったんですかと。守られている状況が確立されたのかというとどうやってと」「こういう説明もないままにプライバシーというこの言葉が言い分に使われているのがわかるんですね」

また、前泊教授はプライバシーを盾に情報提供を見送った政府が、被害者のケアにあたっていたのか疑問を呈します。

沖縄国際大学・前泊博盛教授:
「こういう事件が起こったときに、損害賠償、被害者の救済、そしてメンタルケア、どういう風に彼女を守れているのかという、このことを問われなきゃいけない」「それを最前線で対応すべき防衛局が知らされていないとどういうことだと。では外務省はちゃんとやったのか、これが今回の事件のまたもう一つの最大の問題点」

1997年に日米で合意された在日アメリカ軍の関係する事件や、事故に関する通報手続きでは、日本人が巻き込まれた場合各地の防衛局を通じて県や市町村に通報すると定められています。

琉球大学法科大学院・矢野恵美教授:
「県の知り得なかったことによって関係機関と情報共有できなかった。そのことによって、次の犯罪を防ぐ事ができなかった可能性はあると思います」「被害者のプライバシーを侵害しないか形で情報を提供する事ができたんじゃないなと思うんです。そこを考えてもらいたいと思います」

玉城知事は5日、被害者のプライバシー保護に最大限重点を置いた上でとして、情報共有の在り方について自身の見解を述べました。

玉城知事:
「具体的な地名や状況などを伝えなくても、注意喚起は十分に図ることができる。アメリカ軍による事件・事故が発生した場合には、綱紀粛正を呼びかけることなどの要請も行うことができるので、情報の周知徹底は非常に重要だ」

またしても繰り返されたアメリカ兵による卑劣な事件。再発防止の徹底とともに、事件が起きた場合の情報の扱いを巡り、県や政府など関係機関による丁寧で綿密な連携が求められます。

© 沖縄テレビ