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【経済ニュースの核心】
国土交通省が管轄し、企業の海外インフラへの投資を支援する官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構」(JOIN)は、2023年度決算で799億円もの巨額損失を計上した。
損失の主因は、米テキサス州での新幹線建設事業とミャンマーの都市開発事業の失敗だ。新幹線建設事業では米国企業に出資したが、地元の事情などもあり先行きが不透明として417億円を損失計上した。
また、ミャンマーの都市開発事業は国軍のクーデターで中断し、179億円の損失が出た。「JOINの累積の赤字額は1000億円近くにまで膨らむとみられている。総額約2500億円の投融資額のうち、約4割が回収不能という惨憺たる結果だ」(メガバンク幹部)という。
さらに、7月1日には、JOINがブラジル・リオデジャネイロ州で進めてきた鉄道事業の現地法人が破産手続きに入ったことが明らかになった。出資額のすべて81億円が毀損した。同事業も国土交通省の管轄で、政府と三井物産、JR西日本も出資していた。
■14ファンドが活動も…
なぜ、官民ファンドはこうもうまくいかないのか。「官民ファンドは政府の成長戦略を後押しする起爆剤として2013年以降、各省庁がこぞって設立した。形態は株式会社、一般社団法人、独立行政法人などさまざまで14ファンドが活動している」(中央官庁関係者)とされる。しかし、多くは当初の描かれた効果が得られていない。累積赤字が問題視されている株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)はその象徴だ。クールジャパン機構はクール(かっこいい)な日本を世界に発信するなど、訪日客を増やし日本の消費を盛り上げる事業に投資する官民ファンドで、2013年11月に発足したが、思うように投資ができず、累積赤字が積み上がっている。
そもそも官民ファンドは、「民間が取りにくいリスクを官が取り、民業を補完する形で資金を投じる仕組み。これで儲けようというものではない」(中央官庁関係者)と擁護する意見もあるが、損失は国民負担に跳ね返ってくるわけで、看過できない。
「官民ファンドは、設立の趣旨は国益に沿う高遠なものなのだが、運用が正直下手だ。官民出資ということで、責任の所在が曖昧なことも、投資判断が甘くなる要因となっている。官僚も天下り先のひとつという意識もある」(メガバンク幹部)という。
この構図は、政府または地方自治体、民間企業の共同出資により設立された「第三セクター」の姿に似ている。独立した事業主体として公共性・公益性が高い事業を行う「半官半民の法人」だが、その多くは経営危機に陥った。
とくに第三セクターが民間から融資を受ける際、地方公共団体が損失補償をしている場合も少なくなく、それが原因で財政破綻した地方自治体もある。官民ファンドも三セクの二の舞いとなりかねない。
(小林佳樹/金融ジャーナリスト)