数字で知る「競馬と経済」 新1万円札に描かれた渋沢栄一とも関係あり?

『みずほフィナンシャルグループ 渋沢栄一 新紙幣発行記念イベント』/(C)日刊ゲンダイ

今週3日に新紙幣が20年ぶりに登場した。新1万円札に描かれたのは日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一。生涯にわたり約500にのぼる会社設立に関わった人物だ。ちょっと意外だが、渋沢の著書に「競馬」という単語が出てくる。そこで競馬と経済の関係を探ってみた。

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渋沢の「論語と算盤」は「道徳」と「経済」について書かれたものだ。道徳と経済(利潤)をどう調和させるか──。渋沢ブームで、この本を手に取った人も多いはず。そのなかに、「競争」について書かれた文章がある。

「由来競争は何物にも伴うもので、その最も激烈を極むるものは競馬とか、競漕とかいう場合である」

おおざっぱにいえば、競争が激しくなると道徳を忘れがち……ということか。

昭和から平成にかけて活躍した競馬評論家・大川慶次郎の曽祖父は渋沢栄一だ。渋沢と競馬のつながりは、こんなところにもあった。

■JRAの「売上高」は積水ハウスやクボタと同規模

コロナ禍を経て、競馬の売り上げは増加傾向にある。

「競馬はテレビ中継があるので、自宅にいながら楽しめたのも理由でしょう。それに競馬場は屋外だし、ゴルフと同じで感染の心配が少ない。コロナ禍のレジャーとして注目を集めたのだと思います」(ロータス投資研究所代表の中西文行氏)

日本中央競馬会(JRA)は、日本中央競馬会法に基づく特殊法人。「決算に関する公告」や「事業報告書」などがきっちりある。こうした資料を眺めると、さまざまな面白い数字が浮かび上がってくる。

売り上げもその一つだ。企業でいえば売上高に相当するのが「売得金」(勝馬投票券=馬券の発売金から返還金を引いたもの。返還金は馬券が発売されたあとに出走取り消しなどになった場合に戻される)。2021年は3兆911億円、22年は3兆2539億円、23年は3兆2754億円と順調に伸ばした。

この規模の売上高を上場企業で見てみると、積水ハウス(3兆1072億円、24年1月期)やクボタ(3兆207億円、23年12月期)で、60位前後に位置する。JRAが上場会社だとしたら、売上高ランキングで軽くトップ100に入る感じだ。

ただし、競馬の場合は売り上げの70~80%が払戻金。残った金額から、国庫納付金やその他の経費などを引いていくと、最終的な利益(純利益)は約569億円(23年度)だ。

とはいえ、そんじょそこらの企業ではこれほど高額な利益は出せない。上場企業でいえば、キッコーマン(564億円、24年3月期)やインスタント麺「マルちゃん」でおなじみの東洋水産(556億円、同)クラスで、180位前後となる。

23年の有馬記念の売り上げは「湖池屋」と一緒

レースごとの売上額も物凄い。昨年のGⅠレースを見ると、ナンバーワンは有馬記念の545億7963万円。たった1レースで500億円超えだから凄まじい。ポテトチップスで知られる湖池屋が1年かけて売り上げる金額は548億円(24年3月期)、「カレーハウスCoCo壱番屋」(社名・壱番屋)は551億円(24年2月期)だ。

2位以下は、日本ダービー(283億8674万円)、宝塚記念(273億6318万円)、ジャパンカップ(260億5899万円)と200億円クラスが続く。定食の「大戸屋ごはん処」(社名・大戸屋ホールディングス)の売上高は278億円(24年3月期)、ラーメンチェーン「幸楽苑」(社名・幸楽苑ホールディングス)は同じく268億円(同)。大手外食が1年かかる売上額と、ほんの数分でゴールするGⅠレースが同規模ということだ。

■職員の給与は

JRA職員の給与はどのぐらいか。23年度の開示資料によると、常勤職員は1508人で、平均年齢は42.4歳。平均年収は931万1000円だ。うち賞与が279万7000円。

職種によってバラツキはあって、最も高いのが指定職(本部の部長、付属機関の長、競馬場長など)の1664万9000円(平均年齢57.2歳)となっている。人数が最大(980人)の事務・技術は867万2000円(平均年齢41.2歳)。

JRAならではの職種もある。競走馬の医療や伝染病の予防などを行う獣医職は1060万1000円、装蹄に関する業務の装蹄職は847万6000円、中央競馬の騎手を目指す生徒などを教育する競馬学校教育職は932万6000円だ。

ちなみに、サラリーマンの平均年収は「22年民間給与実態統計調査」(国税庁)によれば458万円。

騎手の稼ぎは

騎手はどれぐらい稼ぐのか。

東関東馬事高等学院のホームページに「騎手のお給料って!?」があった。そこには、「JRA騎手の年間の報酬は、2000万円以下が騎手全体の2割程度。2000万~6000万円が全体の6割程度、さらに、6000万円以上というのも、全体の2割という割合になっています」とある。

中央競馬の賞金は本賞(1~5着)や出走奨励金(6~9着)など細かく分かれている。基本的には賞金の80%が馬主で、20%を調教師や騎手、厩務員が受け取る。調教師が10%、厩務員5%、騎手5%(障害レースは7%)が一般的。騎手によっては億単位の年収もあり得る。

JRAホームページにある24年度リーディングジョッキー(6月30日時点)を見ると、トップはC・ルメールで総賞金は16億2892万円。このうち5%が騎手の収入になるとすれば、今年はすでに8144万円を稼いだ計算だ。

■電話、ネット投票が80%強

競馬場の入場者数(開催場入場人員)は増加傾向を見せる。コロナ禍だった20年、21年は年間100万人を割り込んだが、22年279万人、23年462万人と復活しつつある。ただ1970年代前半や90年代半ばは1400万人を超えていた。

売得金の構成比(23年度)は開催競馬場が2.7%、場外馬券場のウインズが10.4%。最も買われている“場所”は電話・インターネット投票の82.6%だ。

「スマホで手軽に購入する若い層が増えているのでしょう。競馬場に足を運び、パドックをじっくり見て……という馬好きは減少しているのかもしれません」(前出の中西文行氏)

売得金の推移を見ると、トウショウボーイやテンポイント、グリーングラスが活躍した70年代後半に初めて1兆円を超えた。2兆円突破は昭和から平成に変わる直前の88年でオグリキャップが有馬記念を勝った。3兆円超えはそこからわずか2年後の90年。96年の有馬記念は1レースとして最高額の875億円超を売り上げた。97年に売得金は4兆円超えを記録、年度代表馬はエアグルーヴだった。

そこから低迷期に入ったが、この数年はすっかり抜け出しつつある。

ネット投票もいいけど、競馬場に行って生の迫力を味わいたい。

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