夏の大会初戦敗退なのに「新入部員が30人超え」の公立校 千葉県立四街道高校の指導方針に目を疑う

全国各地で夏の大会が始まった高校野球。激戦区と言われる千葉県では、全148チームが出場します。

厳しい戦いが続く公立高校で注目されているのが、昨夏・初戦敗退ながら、30人を超える1年生が入部した千葉県立四街道高校です。

今回は、少子化の時代で多くの部員を集める四街道高校の取り組みを追いました。記事後半では、2024年7月6日から開催される「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会」の入場料について紹介します。

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部員数が大幅に減少している高校野球

令和に入り、高校野球を取り巻く環境は大きく変化。硬式野球部員数はピークだった2014年の17万312人から、約10年で4万人以上減少しています。2024年は12万7031人となり、減少率は約25%となりました。

それは全国屈指の激戦区・千葉県も同じで、大会の出場チームと部員数は大きく減少。2014年は部員数8035人だったのに対し、2024年には5610人となっています。10年間で約2400人も減少しているのです。

1校当たりの人数は2014年が46.2人、2024年は32.8人なので約14人減少しました。1校33人と考えると十分に感じますが、部員が多いのは野球に力を入れている、私立や市立がほとんど。

千葉県高等学校野球連盟 加盟校の部員数

千葉県高等学校野球連盟が公表している部員数から計算すると、1校当たりの平均部員数は県立高校(国立含む)・22.9人。私立高校・53.2人、市立高校・59.7人となるので、30人以上の差があることが分かります。

部員数が10人以下の高校は28校もあり、そのすべてが県立。なかなか部員が集まらない高校が多い中、2年連続で30人以上が入部しているのが千葉県立四街道高校なのです。

1学年10~15人の部員だった「四街道高校」が1学年30人以上に

千葉県立四街道高校

四街道高校の野球部は86人(1年33人、2年30人、3年13人、マネージャー10人)の部員が所属。

昨年夏の千葉県大会では、初戦の千葉英和高校相手に4-6で敗退したものの、千葉県内では力のある県立高校として知られています。

1、2年生の部員は30人を超えていますが、3年生は13人。昨年夏に引退した代は11人、その上は15人と、1学年10〜15人の部員で活動していた野球部が一気に増加したのです。1つの理由として、2022年から監督に就任した古谷健監督の指導方針にあります。

選手の自主性を尊重する古谷監督

15年以上の指導歴を持つ古谷監督は、県立佐倉南高校でベスト16を経験。その後は、県立成田国際高校を率いた実績を持ちます。選手の自主性を尊重する監督で、公式戦での木製バットの使用や投手の分業制など、常識にとらわれない柔軟な指導を2010年代から取り入れていました。

2024年春の春季大会では、夏のシードとなるベスト16に進出。ちなみに、春季大会ベスト16の内訳は、私立13校、県立2校、市立1校となっています。

厳しい戦いを強いられる県立高校で、どのようにして魅力的なチームを作り上げたのでしょうか…。

古谷監督に部員が急増した理由を聞いてみると…

四街道高校の古谷健監督

古谷監督に部員数が増加した理由について聞いてみると、「なぜでしょうかね。私も知りたいです」と笑いながらも、「中学生を対象とした学校説明会での野球部体験入部で、四街道高校の良い部分をしっかりと伝えられました。あとは今いる選手たちが中学校の後輩たちに四街道高校の良さを伝えてくれて入部を希望してくれます。スカウトはできないので、直接会えるのはほとんど体験入部の時ぐらいです」と話します。

四街道高校では、怪我防止とパフォーマンスの向上を目指し、4人のトレーナーに入ってもらい、正しいストレッチの方法や、選手個人の状態に合わせたトレーニングメニューを組んでいるそう。

古谷監督の後輩や教え子のトレーナーに見てもらっているので、月額1人1000円という価格になっているのです(それぞれのトレーナーは週1〜2回もしくは、2週間に1回の頻度)。

トレーナーは大会当日も同行し、連投になる先発投手の可動域をチェックして、科学的な根拠に基づき投手運用もしています。私立ほど予算が取れない公立校ですが、本気で上を目指す監督に「協力したい」と心を動かされる人が多いのでしょう。

最新機器を使った指導も導入している

選手の技術向上については、最新機器を使った細やかな指導を実現。

簡易型弾道測定器「ラプソード」

プロ野球などでも使われている簡易型弾道測定器「ラプソード(定価49万5000円)」を実費で購入。投手の球速やボールの回転数、変化量などを測定することで、より論理的な話が可能になりました。

他にも正確なタイム測定を行うために使われる、「光電管 ワイヤレスタイム測定機(定価:22万円)」や、スイング測定機「BLAST BASEBALL(定価:2万1780円)」など、さまざまな機器を導入しています。

科学の力を借りて、選手1人ひとりの身長・体重・筋肉量、スプリント力、持久力、スイングスピード、球速、ボールの回転数といったデータを取って指導を行っているのです。

中学生が参加する練習会ではトレーナーも参加し、1からストレッチを教えたそう。データを用いた先進的な指導が、現代の中学生の心に響いたのかもしれません。

1年生に「四街道高校」に入った理由を聞いてみた

今年入部した1年生にも、詳しい話を聞いてみることに。

庄司一翔選手

学校まで約1時間かけて通学しているという庄司一翔選手は、「四街道高校はナイター設備が整っていること、マシンの数が多いこと、指導者の数に恵まれていることです」

さらに続けて、「自分に足りない『考える野球』を取り入れていたことにも惹かれました。トレーニングも自分の体に合わせ、メニューを組めるのも良いと感じました」と話します。

野球歴1年半で130km/hを投げた逸材も

宇都太智選手

180cmを超える宇都太智選手は、「坊主じゃなくても強い高校が良いと思って調べたところ、四街道高校がでてきました。中学の顧問の先生が古谷先生と知り合いで、『良い高校だよ』と勧められました。練習会に行ったところ、設備もよく先輩方も優しかったので、四街道高校にしました」とのこと。

宇都選手は中学2年生まではサッカーをメインでやっていたそう。そこからは野球に切り替え、野球歴1年半で球速130km/hを超えるという抜群のセンスを持っている選手。今後は、筋肉量と体重を増やし、150km/hを投げてプロ野球に行きたいと話してくれました。

強豪校に進学してもおかしくないような、有望な選手が入学してくるのは「自主性を重視しながら先進的な指導を行う方針」が時代にマッチしているのでしょう。

野球部員の減少、現場の古谷監督が感じること

取材の最後、古谷監督に「野球部員が減っている現状についてどう思うか」という質問を投げてみると…。

「高校野球の現場にいて感じることは、連合チームが増えてきたことですね。今後は20〜30代の若い世代が指導者も増えてくるので、どんどん変化していく可能性もあります。高校野球を存続させるためにも、選手のために精一杯頑張っていきたいです」と語ってくれました。

7月6日に開会式が行われ、27日まで熱戦が繰り広げられる「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会」。今回取材をした四街道高校は、14日9時に行われる2回戦(会場:千葉県総合スポーツセンター野球場)から登場。相手は、県立木更津高校と県立市川東高校の勝者になります。

入場料は、ファミリーマート店内マルチコピー機で購入すると700円。Web購入は930円、球場での販売は1000円(中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料)となっています。

参考資料

  • 日本高等学校野球連盟「部員数統計・硬式」
  • 千葉県高等学校野球連盟「部員数」
  • 千葉県高等学校野球連盟「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会 チケット販売詳細」

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