花澤香菜、声優としてのモットーは“予想”を超えること 「今のままでいいとは思えない」

原作漫画が大ヒットし、これまで2度の実写映画化もされてきた『ザ・ファブル』。主人公の佐藤明は、ボスの命令で1年間、誰も殺さずに身を潜めることになった伝説の殺し屋。だが、一般人として平和に暮らそうと奮闘する彼の前に、裏社会の者たちが立ちはだかる。

そんな血だらけの世界に咲く一輪の花が、明の住む一軒家の近くにあるアパートで一人暮らしをしている清水岬だ。裏社会という非日常の世界で、唯一の普通の女の子として描かれる彼女を演じるのは、これまでのキャリアの中で数々のヒロインを演じてきた花澤香菜。

『ザ・ファブル』に対する深い愛情と、声優としての真摯な役への向き合い方が伝わってくる取材の中で、岬と同じ22歳当時の自身を振り返った花澤。“ヒロインを演じるプロ”が見つめる、殺し屋まみれの非日常に身を置く「普通の女の子」の姿とは。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

■「この子は守らなきゃいけないな、って感じさせたい」

ーー「お話が面白過ぎて一気読みした」とコメントされていましたが、原作のどんな要素に惹かれましたか?

花澤:基本的に、私は人が死んじゃうようなバイオレンスな物語を避けがちなんです。この作品も「そうなのかな?」ってちょっと思ったんですけど、読み始めたら、もう明のキャラクターの魅力がすごくて。 絶対に死なないじゃないですか(笑)。その無敵感と、ちょっと抜けたところ、暗殺以外のことにかけてはプロではないところ……とにかく笑えるところがいっぱいで「笑いながら読めるんだ!」と思って。面白くて、一気に読んでしまいました。

ーー原作を未読の方だと、花澤さんと同じように「バイオレンスな印象」を持っている方も多いと思います。改めて、アニメ版で作品への印象が変わった部分はありますか?

花澤:声がつくことによって、特にジャッカルが面白く感じられるようになりました! 漫画を読んでいても、ジャッカルに心が救われる場面はあったかなとは思うんですけど、アニメではより感じるんです。怖い人たちのやり取りを間近で聞いているので、ジャッカルが来ると「ありがとうジャッカル、もっと喋っていいんだよ……!」みたいな気持ちになります(笑)。 登場人物同士の信頼関係が、よりはっきり見えるようになったというのはあるかもしれないですね。

ーー明のお気に入りのシーンはありますか?

花澤:明が不意に笑うところが大好きです。しかも、絶妙にいびつで上手く笑えてないんですよね。時給900円になった時とか、「きっとプロの暗殺者として稼いでいるはずなのに、こんなちょっとしたことが嬉しいの?」みたいな。

ーー一方で、今回花澤さんが演じる岬は裏社会の中で唯一の普通の女の子として描かれていますが、花澤さんから見た岬の印象を教えてください。

花澤:岬ちゃんは、原作でも自分のことを「キャラがない」って言ってたんですけど、本当にあんなキャラの濃い人たちに囲まれてたらそう思いますよね(笑)。 でも彼女がいるからこそ、明は日常を感じられる。岬ちゃんって、ちょっと抜けてるところがあるじゃないですか。貝沼さんとのやり取りとか見てると「もっと警戒しなきゃ危ないよ!」って言いたくなっちゃいます。「『この子は守らなきゃいけないな』って感じさせたい」と思いながら演じています。

ーーもう一人の女性キャラ、洋子との絡みもいいですよね。

花澤:洋子さんの酔っ払い方もいいですよね~! それでいて、めちゃくちゃ強いですし(笑)。 そういう意味では、岬ちゃんを演じる上では「普通の女の子」という部分を意識しながら、周りのキャラよりは少し控えめにしています。特に社長とのやり取りは、日常を感じられる場所じゃないですか。さりげないかけ合いですが、そこで明が安心できるような空気感を作りたいなと思って、大事にしています。

ーーアフレコ現場の雰囲気はいかがですか?

花澤:掛け合いの演技が多いので、グループでのやり取りがめちゃくちゃ楽しいです。みんな原作が大好きなので、一緒に読みながら「これから小島との戦いだけど、小島の場面来てほしくないね~」とか言ってたりして(笑)。小島って、嫌な攻め方をしてくるので、シンプルに怖いじゃないですか。

ーー怖いですね。だからこそ、楽しみなシーンでもあります。

花澤:私自身は、さすがにあそこまで怖い場面に遭遇したことがないので、そこはリアルに怖い感じを作っていかないとな、と。オーディションでも小島との場面は取り上げられてたし、ディレクションでも「もっと震えて」と言われたりしたので。岬ちゃんが普通の子だからこそ、周りとの掛け合いの中では“怯える”演技は重視しています。

ーー確かにそうした「日常パートとのギャップ」が作品の面白さの一つでもありますよね。花澤さんは、仕事とプライベートのオンオフの切り替えはどうしていますか?

花澤:私、ラジオを聞くのがすごく好きで。特に、お笑い芸人さんのラジオが大好きなんです。私にとっては、明にとってのジャッカルみたいな感じで、無心で笑えるんです。移動中は、絶対ラジオを聞いてますね。明はトントンと頭を叩く仕草で仕事のオンオフを分けてますが、私にとっての移動中のラジオはそういうスイッチでもあります。

■花澤香菜が“プロ”としてモットーにしていること

ーー岬は22歳の設定ですが、花澤さんが22歳の頃の自分を振り返ると、どんな心境でお仕事をされていましたか?

花澤:22歳っていうと……ちょうど大学を卒業した頃ですよね。「この仕事1本で頑張るぞ!」という気持ちでやってましたね。それまであまり同世代の子がいなかったんですが、その頃には割と歳の近いキャストも増えてきた現場になってきて、一緒にレッスンをしている状態だったと思います。演技の幅を広げるにはどうすればいいかなと模索しながらやっていました。ありがたいことに、その頃すでに大きな役もやらせていただいていたので、「とにかく自分は頑張ってやるしかない」と。でもまだ、広い視野を持って周りに気を使える状態ではなかったですね。ただがむしゃらに「一生懸命やったら座長としていい現場になるかな」と思ってました。

ーー明は「誰も殺さない」ことをモットーにバトルを遂行していきますが、花澤さんがプロとして声の仕事でモットーにしているのはどんなことですか?

花澤:監督が思っているものよりちょっと先の、意外なものを出したい。そんなふうに思いながら、お仕事をしています。私は変わりたい、今のままでいいとは思えないんです。もちろん演技の指示や決められた脚本はありますが、その枠の中でもどんどん新しいものに挑戦したい。変わりたいと強く思うのは、負けず嫌いなのと自信がないのと、どっちもあるからだと思います。でもそこが、案外原動力に繋がっているのかもしれないです。

ーーすでに2クールでの放送が決まっている本作ですが、半年後までに達成したい目標はありますか?

花澤:この前人間ドックに行ったら、2年前と比べて体重はそこまで変わってなかったんですが、体脂肪がちょっと増えてたんです。なので半年後には体脂肪を元に戻したいと思います。一応、筋トレはやったんですけど……! ちょうどアニメの放送が終わる頃に理想の体型になれたらいいですね。

ーー最後に作品の見どころを教えてください。

花澤:岬ちゃんとしては、やっぱり小島との戦いですね。そこで彼女の正義感の強さ、芯の強さが今まで見えてなかったところが見えてくると思うんです。彼女の中の「負けねえぞっ!」っていうところが出てくるので、そこは作品の中でも素敵なところだと思います。皆さんにも、ぜひ応援しながら観てほしいです。岬ちゃんはいろいろと大変な目に遭うんですけど、そういう経験を経て、ちょっとずつ強くなっていくんです。明との関係性もゆっくり変化していくので、そこも楽しんでほしいですね。明の方も、岬ちゃんや社長など、いろんな人と触れ合うことで心持ちが変わって、人間らしさが出てくるんです。その変化を、一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
(文=すなくじら)

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