まるでコントみたい!? 「池の人気者・カワセミ」が、まさかの仰天行動に! お気に入りポイントを巡ってトンボに “喝!”【東京都】

まさに「飛ぶ宝石」。美しい色とダイナミックな動きで人々を魅了するカワセミ(撮影:相田俊)

近年、野鳥撮影を趣味とする方が増えています。池がある公園や都市河川では、休日になると望遠レンズをつけたカメラを持って、野鳥を探す方の姿をよく見かけるようになりました。その方々の中で、最も人気があるのがカワセミです。筆者も、そんな流れに乗って、ファインダーを覗いてみました。すると、思いもよらないシーンに遭遇したのです。

■都市公園で一番人気の「カワセミ」

カワセミは、スズメよりひと回り大きいくらいの小さな野鳥です。カワセミを漢字で表すと、宝石のヒスイと同じ「翡翠」という字となります。背中の鮮やかなコバルトブルーが、それを意味しているのでしょう。大変美しい姿は、多くの人を惹きつけてやみません。

また、英名では「kingfisher」ということからわかるように、カワセミは、水の中に飛び込んで小魚などを捕まえます。そのダイナミックな動きもカワセミの魅力の一つです。

■池の杭は、生き物たちの大人気スポット

この日、都内の公園にある池を訪れてみました。ここは、カワセミが一年を通して生息している場所です。また、日頃から散策する人が多いため、カワセミが人に慣れていて撮影しやすいため、平日でも常に数人の野鳥写真家が集まってきています。私も、その中に混ぜていただき、カワセミ用に立てられたと思われる杭の前で待つことにしました。

まず最初にやって来たのは、黄色と黒の少し大きめのトンボでした。稲の苗である「早苗」の時期に現れるサナエトンボの一種「オナガサナエ」のオスです。自分の縄張りを見張りながら飛び回っていて、少し疲れたのでしょうか。しばらく休んでいましたが、他のトンボが縄張りに侵入して来たためか、スクランブルをかけて飛んで行ってしまいました。

すると、次に現れたのは、お目当てのカワセミ。下嘴が少しオレンジ色がかっているメスの個体です。杭の上から、水の中の魚を探すのかと思いきや、上空を少し見上げています。猛禽類の「ツミ」を警戒しているようにも見えましたが、もしかしたら、近くを飛んでいるトンボが気になっていたのかもしれません。

しばらくすると、先ほどのトンボが再びやってきました。お気に入りの杭に止まりに来たのでしょう。しかし、そこにはすでにカワセミが鎮座していました。自分の縄張りにやって来たカワセミを威嚇するためなのか、もしくはカワセミが杭のように見えたのか、トンボはカワセミの後頭部に近づいていきました。実際、じっとしているカワセミの頭にトンボが止まるということは時々あるそうです。

■カワセミの意表を突く行動にビックリ!

「どうしても、そこに止まりたいんだよなー」。 「言っとくけど、わたしゃ杭じゃないよ」といった会話が、彼らの間で交わされていたかどうかは、わかりません

静かにしていたカワセミが振り向くと、トンボは、びっくりしたように翅を素早く動かして飛びのきました。トンボの飛行術は非常に巧みで、人間にはとても真似のできない高度な技を繰り広げることができます。

いったんは、上空に引き下がったものの、どうしてもそのお気に入りスポットに止まりたそうなトンボは、再度チャレンジします。その様子をじっと眺めていたカワセミですが……。

次の瞬間、トンボは、カワセミの嘴にはさまれていました。「カワセミがトンボを食べる決定的瞬間だ!」と、筆者は色めき立ちました。カワセミは、普段なら、捕らえた小魚を弱らせるために、獲物を杭や枝に打ち付ける行動をします。しかし、今回に限っては、何もしません。しかも、よく見てみると、嘴ではさみ込んでいるのは、トンボの胴体ではなく脚なのです。トンボもあっけにとられたのか、翅をばたつかせることもなく、ただただ「まな板の鯉状態」でおとなしくしているだけです。この後、どうなる? 緊張する時間が流れます。しかし、数秒後、カワセミは静かにくちばしを緩めてトンボを放しました。

自分の頭に止まろうとするトンボに少しイラついて捕まえたものの、食べるつもりはなかったので、喝! を入れて「お仕置き」をして、今後同じことを繰り返さないよう戒めたのでしょうか。自然界は、弱肉強食の世界ではあるものの、むやみに殺生することはないと聞いたことがあります。今回も、トンボにお灸をすえただけの行動だったのかもしれません。

しばらくすると、カワセミは他の杭を目指して飛んでいきました。すると、別のカワセミがすぐにやって来て、ていねいに羽づくろいを始めました。

それにしても、あのトンボとカワセミには、どのような会話が交わされていたのでしょうか。トンボは、その後、「今日は、危なかったなあ。でも、カワセミのやつ、俺の止まり木にやって来て居座るとは何事だ! 」と言っていたかもしれませんし、カワセミは、「あのトンボ、私の頭に止まろうとするなんて全くもって無礼な奴だ」と憤慨しているかもしれません。

杭を巡る生き物たちの本当の会話はわかりませんが、彼らの頭の中を勝手に想像しながら、梅雨のひと時を過ごすのは楽しい時間でした。

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