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高齢となった親の介護を、親と同居する子が引き受けるケースは多くあります。しかし、同居の子が介護を理由に財産を使い込み、相続時にそれが発覚した場合、ほかの相続人は、使い込みの立証と追及をすることは可能なのでしょうか。また、このような事態を防ぐ方法はあるのでしょうか。法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。
両親の介護を引き受けた子が「財産の使い込み」を…!?
相続の現場にいると、実の父母と同居の親族が、相続の発生前に財産を使い込んでしまうという事例に多く遭遇します。
パターンとしてよくあるのが、きょうだいのいずれかが父か母の面倒を見ていることを理由に使い込みを始めてしまうというケースです。長年親の介護を行い、特別な寄与があった場合には、相続時に「寄与分」として多く相続できる制度はありますが、これはあくまで相続が発生後に検討すべき事項です。
親が老人ホームに入所するのをきっかけとして、子どもの1人にお金の管理を任せることがあります。すると、管理を任せられた子どもが継続的な預金の使い込みを行い、相続発生後に初めて、親の財産が使い込まれていたことに共同相続人であるきょうだいが気が付く、というケースがいちばん多いのです。
しかし、ほとんどの場合において、お金を使い込んだ子どもが認めない、あるいは、その証拠がないなどの理由で解決の糸口が探せず、結果、泥沼の論争となってしまうこともあります。
刑事的責任追及はムリ、民事訴訟も立証はむずかしい…
そもそも、子どもによる親の財産の使い込み自体、法律に抵触するのでしょうか?
人のお金を勝手に引き出す、自分のために使うなどの行為により、法的に「使い込み」が認められる場合、刑法上は「窃盗罪」「横領」が成立すると思われます。
しかし、親子間におけるこれらの使い込みについては刑法244条の「親族相盗例」が適用されます。親族相盗例では、親族間の犯罪については刑を免除する、または親告罪として取り扱うと規定されており、親子間でこのような犯罪が行われた場合、原則的に刑事的な責任追及はできない決まりなのです。
したがって、使い込みをした人のきょうだいなどの共同相続人が、使い込みの責任追及をしたいと考える場合、民事上で立証し、争う必要があります。
民事責任追及においては、損害賠償の請求と不当利得の返還請求の2つが主軸となりますが、ほかの共同相続人は「相続財産が本当に使い込まれたのかどうか」を裁判で証明する必要があります。一般的には、このハードルが非常に高く、困難だといわれています。
金融機関に照会をかけたところで、「引き出して親に渡した」「親の物を買い、余りは手間賃としてもらった」など、いくらでも言い逃れができてしまいます。
これを本当に立証する場合には、
①実際に現金を引き出したこと
②親の承諾がまったくないこと
③引き出したお金を使い込んだ事実
最低限、上記3つを立証する必要があります。
とはいえ実際問題、相続発生後においては、親の承諾の有無の実証すら困難となってしまうため、「使い込みが行われたあと」ではむずかしいといえます。
「財産使い込み」のトラブルを回避するには?
家族間における刑事責任の追及はむずかしく、また、民事的な責任の追及であっても、相続発生後では、多くの場合手遅れになってしまいます。
このような「相続発生後の使い込み発覚」によるトラブルを回避するには、どうしたらいいのでしょうか?
まず、親が亡くなる前に管理を任された通帳の残高を確認することは絶対です。
それから、定期的な通帳残高の確認、出費とその目的を記したメモあるいは領収書の確認を継続すること。
家族であっても、お金に関する管理は確実な証拠が残すことが重要です。
定期的な確認をしておけば、多額の預貯金を使い込まれるといった事態を回避できる可能性が高くなります。逆に、一生懸命面倒を見ている側からしても、ほかの家族からあらぬ疑いをかけられるというリスクが減らせます。
もし相続発生後に使い込みが判明した場合は、「遺産分割調停」という制度を利用して解決していくことになります。
裁判よりも調定のほうが簡易に争いを解決することができるため、このような制度を利用し、第三者から争いを解決するサポートをしてもらう方法もあります。
とはいえ、家族間のトラブルは回避したいものです。親が亡くなる前なら、親の承諾の有無等の立証も比較的容易です。
円満な関係継続を実現するには、日頃からのコミュニケーションがとても大切になるといえます。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所
代表司法書士