日本人の妻とドイツ人の夫。男性不妊がわかり、ドイツでの5年間の不妊治療後に授かったのは、なんと三つの小さい命【体験談】

2015年にドイツで生まれた、あさみさんの三つ子の子どもたち。

ドイツ在住のあさみさんはニュージーランドに留学中に出会ったドイツ人の夫と2009年に結婚しました。子どもを望んでいたものの、まさかの男性不妊が判明し、不妊治療を行うことになったそうです。9回の人工授精を経て2015年に授かったのは、なんと三つ子でした。日本とは言語も文化でも異なるドイツでの不妊治療や妊娠についての経験を聞きました。
全3回のインタビューの1回目です。

「3人欲しい」と思っていたけれど、まさか一度の妊娠でかなうとは!聞いたときには頭が真っ白に【三つ子の父育児体験談】

ニュージーランドに留学中、ドイツ人の夫に出会い2009年結婚

三つ子のためにそれぞれ用意したベッドです。

――あさみさんの夫さんはドイツ人だそうです。2人はどこで出会ったのでしょうか?

あさみさん(以下敬称略) 私は2001年の高校卒業後、ニュージーランドに半年間聖書を学ぶコースがある学校に英語を学ぶために留学しました。たまたま夫も同じ学校に留学していたんです。留学生はみんな寮に住んでいて、夫とは当時、友だちでした。

私は半年後に日本に帰国し、短大に入学しました。その後、おたがいに連絡を取ってはいなかったのですが、2003 年くらいから2年ほど彼が日本で働くことになったんです。2005年ごろ、ドイツに帰国する前に当時の留学仲間で集まったことがあり、その後連絡を取るようになり、交際が始まりました。だから交際スタート時からずっと遠距離恋愛でした。

私は短大卒業後、旅行会社で働き始めました。同僚も旅行好きが多く、プライベートでも旅行に行きやすい雰囲気でした。長期の休みが取れたらドイツに遊びに行っていました。

夫は結婚をして家族をもつことを望んでいました。そこで私は2008年に会社を退職し、半年ほど彼の実家でドイツ語学校に通いながら一緒に暮らしました。その後、日本に帰国し、結婚の準備をしてから改めてドイツに渡り、結婚しました。

――あさみさんの両親は、あさみさんがドイツに住むことをなんと言っていましたか?

あさみ わが家は母が英語を教える仕事をしていました。父も英語の専門学校を卒業しています。だから両親ともに子どもが海外に行くことに抵抗がないタイプで、むしろ海外に積極的に行くのは大歓迎だったと思います。私がドイツ人と結婚することも、日本を離れることも、ごく自然に受け入れ、喜んでくれました。

私は、ドイツに住み始めた当初は英語しか話せませんでした。日本語も難しい言語と言われていますが、ドイツ語も難しい言語なんです。ただ、ドイツは英語が話せる人が多く、わりと英語も通じます。生活していくうちにだんだんドイツ語も話せるようになってきましたが、夫とは英語、日本語、ドイツ語を織り交ぜて生活しています。

結婚してすぐに妊娠を望むも授からず・・・。夫婦で検査を受け、男性不妊が判明。

長女と二女を抱っこしているあさみさん。3人を連れて出かけるのは、手がたりなくて大変だったそうです。

――あさみさん夫婦が妊娠を考えたのはいつごろからでしょうか?

あさみ 夫婦ともに子どもが好きなので、結婚したらすぐにでも子どもが欲しかったです。最初は自然に任せていました。でも、結婚して1年たってもなかなか授かりません。しかも、私は以前から生理痛が重かったんです。ドイツに住み始め、環境の変化もあったからだと思うのですが、生理痛がますますひどくなりました。毎回、七転八倒するほどの痛みでした。

日本だと産婦人科は少し敷居が高くて妊娠・出産のときくらいしか行かない人が多いかもしれません。でも、ドイツのほとんどの女性は、かかりつけの婦人科があるんです。「マイ婦人科」のような感じです。生理不順や生理痛があれば気軽に相談に行くし、30代になると婦人科系のがん検診なども1年に1度受けるのが当たり前なんです。

こうした環境だから、私がなかなか妊娠しない様子を見て、周囲に人から「あなたも1度婦人科に行ってみたほうがいいよ」と言われました。そこで、ドイツに住み始めた翌年の2010年、婦人科に行くことにしました。当時はまだドイツ語に自信がなかったので、日本人の通訳がいる病院を選びました。

そのときに、「卵管が詰まっているかもしれないから検査をしたほうがいい」と総合病院の専門医を紹介されました。紹介先の病院で卵管造影検査をしたのですが、詰まりはなく、軽度の子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)が3カ所あることがわかりました。それ以外はとくに問題はなく、妊娠もできそうだと言われたんです。

不妊の原因が私にないのであれば、夫も検査を受けたほうがいいと、男性用クリニックを紹介されました。そこで、紹介された病院で夫が検査を受けることになりました。

――夫さんは病院に行くのに抵抗はありませんでしたか?

あさみ 少しあったみたいです。でも、夫婦ともに子どもは欲しい気持ちは変わっていませんでした。「私も検査したから、あなたも頑張って」と励ましました。検査の結果、夫は「クラインフェルター症候群」という疾患があり、男性不妊と診断されました。
自然妊娠は難しそうだったので、人工授精をすることにしました。

「子どもが欲しければ不妊治療に取り組んで当たり前」と、ドイツの不妊治療は前向きな雰囲気

3人そろってぐっすり眠っているところ。800g~1000gと、小さく生まれたので、出生後しばらく入院していました。

――ドイツでの不妊治療はどのように行われるのでしょうか?

あさみ ドイツでの不妊治療は「不妊治療センター」と言われる不妊治療専門の病院で行われます。ドイツでは、一般的な婦人科健診や妊婦健診は婦人科、不妊治療は不妊治療センター、出産は産院と、それぞれ別の病院で担当が分かれています。

不妊治療センターはドイツ語では「kinderwunsch zentrum」と言います。直訳すると「子どもを望むセンター」となり、その言葉からも不妊治療が前向きにとらえられている印象です。実際、周囲でも不妊治療について話しやすい雰囲気があります。

ただ、人工授精をしたいと思っても予約がいっぱいで、半年後とかになってしまうんです。だから、3カ所くらい回って、よさそうなところを探していました。最初の病院の先生とはあまり気が合わず、2カ所目は男性不妊は専門外でした。3カ所目に行ったところにお願いすることになりました。

――あさみさんはどのような不妊治療を行いましたか?

あさみ 排卵の時期に合わせ、パートナーの精子を子宮内に注入する「人工授精」を行いました。人工授精に10回は挑戦してみようと思っていました。もしそれでも授からなかったら、卵巣から卵子を取り出し、体外で卵子と精子を受精させる、「体外受精」にステップアップしようと考えていたんです。

最初に人工授精を行うか、それとも体外受精にするかは、日本と同じくドイツでもそれぞれの夫婦の選択によって異なります。私の友人には最初から体外受精を行っていた人もいます。

私たちは人工授精から取り組むことにしたのですが、取り組んでもなかなか授からなくて・・・。周囲の人たちが、不妊治療をしている人もしていない人も次々と結婚し、出産していくのはちょっとつらかったです。

私の夫は男ばかりの5人兄弟の三番目です。私たち夫婦が結婚したときは、ほかの兄弟はまだ全員独身でした。ところが、私たちが不妊治療している間に、ほかの兄弟も結婚し、次々と子どもが生まれました。
夫の家族は仲がいいので、誕生会やホームパーティーなど、家族の集まりもよくありました。するとみんな赤ちゃん連れなんです。子どもは好きですが、自分たちにはなかなか授からないのに、周囲は子どもがいる状況は、正直少ししんどかったです。

9回目の人工授精でようやく妊娠。妊娠検査薬の陽性反応に、うれしさとともに、慎重にも

1人はバウンサーに、2人はプレイマットであやすこともありました。

――妊娠したのは何回目の人工授精でしたか?

あさみ 9回目です。2015年でした。着床をした後に、残念でした、と悲しい結果になることもあるかと思いますが、私の場合8回の人工授精は1度も着床しませんでした。
着床しているかの確認は、判定日に不妊治療センターで行っていました。だから、妊娠検査薬を買ったこともなく、セルフチェックをしたこともありませんでした。ところが、9回目の人工授精後の妊娠判定日に当たる日は、たまたまが連休で、不妊治療センターがお休みでした。

だから、妊娠しているかすごく、すごく気になってしまって。初めて妊娠検査薬を買い、自分で検査をしたんです。すると、妊娠を表す陽性反応が出ました。

――そのときはどんな気持ちでしたか?

あさみ 8回も人工授精を行ってもうまくいかなかったから、「もう妊娠は無理かもしれない」とあきらめかけていたんです。そうしたなかで、妊娠がわかってびっくりしました。実はその日は夫の誕生日でした。だから「検査薬を使ってみたら、妊娠しているって出たんだ」と、陽性反応の出ている検査薬を見せました。夫はとても驚き、泣いていました。

一方で、夫も私も「あんまり喜びすぎて、万が一間違っていたら悲しくなってしまう。ちゃんとセンターで診断してもらって、妊娠したと診断してもらうまでは冷静でいよう」と、手放しで喜ばないように気をつけていました。その後、不妊治療センターに行って改めて検査をしたら、妊娠していると診断されました。「もうあなたは妊娠しているから、かかりつけの婦人科に行ってください」と言われたんです。

先ほど話したように、ドイツでは婦人科、不妊治療センター、産科とそれぞれで役割が分かれています。電子化されたカルテがあって、どの施設でも共有されているんです。だから別の病院に行っても、その人の症状や状況がすぐわかるようです。

妊娠6週目に三つ子と判明!驚きと喜びで胸がいっぱいに

1人はひざの上に乗せ、あとの2人は寄り添わせてお昼寝することもありました。

――おなかの赤ちゃんが三つ子だとわかったのはいつですか?

あさみ 妊娠6週目にかかりつけだった婦人科に「妊娠陽性反応が出たから診察してください」とお願いし、エコー検査をお願いしたところ、改めて妊娠していることがわかりました。

その2週間後、再度エコー検査を実施したところ、「ここに胎嚢(おなかのなかで赤ちゃんが入っている袋のこと)が一つあります。ちゃんと心臓も動いています」と確認できたんです。モニターを見たら、小さな袋のなかで小さな心臓が動いているのがわかりました。ちゃんと心拍があるのがわかって、安心と喜びで泣きそうでした。

ところが、医師は何か考え込んでいる様子で、あちこちの角度からエコーで確認をしていました。どうしたのかと思ったら、「さっき言ったように、ここに赤ちゃんがいて心拍がありますよね?実はこっちにも心拍のある赤ちゃんが見えるんですよ」と言うんです。

まさか双子?と驚いていると、さらに「もうひとつ胎嚢がありました。しっかり心拍があります。つまり、あなたのおなかにいるのは三つ子です」と告げられました。えっ、三つ子?と、びっくりしすぎて声も出ませんでした。不妊治療で排卵誘発剤を使用すると、双子が生まれる確率は高くなるようです。私も人工授精に臨む際に排卵誘発剤を使っていました。だから、双子の可能性はあるかもしれないとは考えていました。でも、まさか3人もおなかにいるなんて!と信じられない気分でした。担当した医師も、三つ子は見たことがなかったようです。

――三つ子と知り、どんな気持ちでしたか?

あさみ すごくうれしかったし驚きました。私たちは、できれば子どもは2~3人欲しいと思っていました。でも、結婚して6年たっても子宝に恵まれなかったから、2人、3人と授かるのは難しいかなと思っていたんです。だから、一度に3人も私のところに来てくれるとは想像もしていなかったです。

ただ、おなかの中の3人のうち1人が、標準より小さくて、今後どうなるかわからないと言われました。無事に育ってほしいと祈るばかりでした。

やっぱり三つ子を妊娠・出産するのは大変で、妊娠26週目から約2カ月入院することになりました。妊娠29週目に陣痛が来てしまい、緊急帝王切開で出産することになりました。妊娠37週から41週6日までの間のお産が「正期産(せいきさん)」と言われ、赤ちゃんの体の機能も十分に発達し、スムーズに母体の外の生活にも慣れると言われています。妊娠29週での出産はかなり早産でしたが、子どもたちは3人とも元気に生まれてくれました。

お話・写真提供/あさみさん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

日本とは生活習慣や言葉も異なるドイツでの不妊治療や三つ子の出産を経験したあさみさん。大変なこともたくさんあったことでしょう。「子どもたちが元気に生まれてくれたことが一番幸せ」という言葉が、あさみさんのすべての気持ちを表しているようです。

あさみさんのブログ「ドイツ人旦那+三つ子ちゃんとの生活日誌in Germany♡」

あさみさんのInstagram

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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