「韓国でオペをしてきたので抜糸をしてくれませんか?」渡韓整形ブームに形成外科医が感じる強烈違和感

盛り上がる“渡韓整形”ブームだが…… (photo library)

今や「美容整形大国」として有名な韓国。アジアを中心に各国から整形手術を受けに来る人が後を絶たず、日本からの「渡韓整形」も大人気。2泊3日など短い日程での整形弾丸ツアーも行なわれており、気軽な旅行感覚で行く人、そしてタレントやインフルエンサーが渡韓整形体験を赤裸々に報告することも今や普通のことだ。

男女問わず美しくなることは良いことで、自身が決めて整形をするのは何も問題はないはずだが……一大ブームとも言える渡韓整形には大きな問題点も存在しているようだ。

形成外科・美容医療の専門医として10年以上、臨床と研究に従事し、2019年に開業し、現在は東京・恵比寿こもれびクリニックの院長として勤務する西嶌暁生(にしじまあきお)氏も渡韓整形に警鐘を鳴らすひとり。「人はそれぞれに合った健康や美しさがある」と言い、日々“飾らない美”ナチュラルビューティーをサポートしているという西嶌医師が同整形の驚くべき実態を語る――。

西嶌暁生医師 ※提供画像

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昨今、美容医療はより身近な医療になってきた。私としては、それ自体は喜ばしいことだと思う。人の価値観や幸せの感じ方は様々であり、超高齢化社会になった日本国民が、笑顔で活き活きと過ごすお手伝いができるなら、美容医療の役割は大きい。むしろ、ありもしない効果をうたい、著名人を使って、人のコンプレックスにつけこみ、美容・健康商品を短期間で売りさばくような商法の方が、よっぽど不誠実だと思う。

さて、ここからが本題だが最近、当院に次のような問い合わせが増えている。たいていは若い方だ。

「韓国でオペをしてきたので、抜糸をしてくれませんか?」
「抜糸はいくらでやってくれますか?」

■韓国で“鼻のフルオペ”――患者「詳しく話さないとダメですか?」

前述のような問い合わせだが、言いたいことはわかる。通常、手術をした場合、抜糸は1週間前後であることが多い。抜糸のためだけに、韓国に1週間以上滞在することは、お金も時間も勿体ないので、術後すぐに帰国してくるのだ。あるいは、そもそも、仲介会社が斡旋している医療ツアーなのだ。

問い合わせがあれば、電話や公式LINEで問う。

私「どのようなオペをやってきたのですか?」
患者「鼻のフルのオペです」
私「鼻のフルのオペって、何ですか? もう少し詳しく教えてください」
患者「詳しく話さないとダメですか?」

当院に来院した患者の中には、紹介状を持っていない人も多い。もちろん、紹介状を持たせる病院もあるが、患者がその重要性を認識せず、持参しないケースもある。

私は、帰国した患者から希望があった時、抜糸そのものを断ったことはない。料金を説明し、了解を得て受診してもらう。当院では1部位5500円(税込)で行なっている。鼻周りなら5500円、軟骨採取をした耳の抜糸まで行なう場合は追加で5500円といった感じだ。この価格が高いか安いかは読者の判断にお任せする。

ただ、外科医として問いたい。

自分が手術した患者を最後まで責任をもってフォローすることが外科医ではないのか? 人に合法的にメスをいれることのできる外科医だからこそ、その責任は重い。どんなに簡単に見える手術でも、うまくいかないことはある。術後の合併症として、術後創部の感染、肥厚性瘢痕、ケロイド、再発、皮膚壊死、癒合不全、埋没糸膿瘍、傷跡など、言い出したらキリがない。

かくいう私も、多くの合併症の経験があり、患者さんに申し訳ないと思いながら、できる限り誠実に、かつ正しいリカバーを行なってきたつもりだ。それでも患者さんにご納得頂けないときはある。私が患者の立場でも、同じ感情になるだろう。

一方で、有名な病院や高名な先生の術後のトラブルを当院でフォローすることもある。という事は、当院で行なった患者のフォローを他のクリニックや先生が診てくださっているというケースもあるだろう。

■美容手術を提供して「あとはよろしく」と帰国させる――

韓国の美容外科医が、研鑽を積んだ日本の形成外科医に勝っているかは分からない。私は真面目で誠実でスキルを持った日本の形成外科・美容外科医を数多く知っている。

「美容大国」という韓国プロモーションのもとで、お金のために集客して、美容手術を提供して、「あとはよろしく」と帰国させる。国境も越えているとはいえ、同業者として、いかがなものだろうか。

ただし、ニーズがあるからビジネスは成り立つ。そのようなシステムを良しとする、日本人の顧客がいるのだ。どんなに甘い言葉で誘われても、最後に判断するのは自分であり、責任も自分にある。

健康は失って初めて気がつく。健康は当たり前ではない。それは間違いない。もちろん、頭ではわかっていても、若者の向上心や希望、劣等感、コスパ、流行りといった感情が、それらを上回って出国してしまうのだろう。

このように、「韓国で旅行も兼ねて安く美容外科の治療」を受ける若者が増えている。言い換えれば、日本の美容医療の魅力が足りないということでもある。美容医療に携わる者の一人として、責任を感じる。

少なくとも、外科医は抜糸まで責任をもって患者をフォローするべきである。もし、遠方から自分を慕ってきたくれた患者であり、どうしても抜糸までフォローできない場合は、抜糸をお願いする医療機関向けに紹介状を作成し、治療の詳細を伝え、患者もその重要性を認識しなければならない。

「韓国でオペをしてきたので、抜糸をしてくれませんか?」

患者からそんな言葉が出る事態は不誠実極まりないことだ。患者自身にクリニックを探させるのではなく、抜糸の連携先確保や術後の合併症などが生じた場合のフォローアップ体制も整えて、はじめて安心してオペは受けられるのだ。

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