認知症の人は家族や自分のことすらわからなくなる…仮面舞踏会の世界とは?【認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方】

6:家族・知人・自分の顔も関係性も理解できない、仮面舞踏会の世界

○エピソード

認知症のある夫に「私が誰かわかる?」と聞くと、「あー……あなたは姉さんだよね」と言われ、「長年連れ添ったのに……」とがっかりします。さらに時折、鏡に映る自分にブツブツ話しかけ、最後は怒りだしています。

【あるある行動】配偶者のことを忘れてしまった

認知手が進行するにつれ、見当を誤る「見当識障害」が現れるといわれています。人により異なりますが、時間→場所→人の順で現れることが多いです。

認知症でも古い記憶は比較的残りやすいものの、目の前の人の像と記憶に保存されている像との照合がうまくできず、知っているはずの「人」がわからなくなることがあります。顔はわかっても、関係性が思い出せないこともあります。

「私は誰?」という質問は、認知症のある人にとって苦しい質問です。思い出そうとしても思い出せず気まずいものの、関係性を何とか保とうとがんばるからです。この場面では、本人の中にある「妻の像」は、目の前の女性ではなく、記憶にある「若い頃の像」なのでしょう。そのため、目の前の「妻より年上の人」は「姉」だろうと推測したと思われます。

鏡に向かって話すのも、同じメカニズムです。本人が思い浮かべる自分の顔の像は、「昔の若い自分の像」です。目お前の鏡に映る人は、「自分よりも年上の人」で「良く知っている人」なので「知人?会社の先輩?」と考え、敬語を使って話すケースが多くみられます。

さらに、本人が懸命に話しかけても返事もせず、自分のまねをし続ける相手にバカにされたと感じて、怒りが生じます。

○もしあなたがこの世界にいたら?

町で知らない人が「こんにちは」と声をかけてきたら、あなたは(もしかしたらどこかで……?)と考え、失礼のないとうに返事をしませんか?

【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子

【書誌情報】
『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』
著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子

認知症は、理解しにくい言動を引き起こす脳の病気です。家族が「どう言葉をかけたらいいんだろう」「どう接したらいいのかな」「とてもつらい」と感じることが多いでしょう。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」では、介護現場の専門家が日々の接し方や対応のヒントを提供し、プロの視点と方法で、家庭での介護が少しでもラクになるように、ご本人とともにかけがえのない日々を過ごしてほしいという願いが込められています。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」を活用して、実践してほしいと思います。今後のためにも読んでおきたいおすすめの一冊です。

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