安さだけじゃないチャイニーズEV! BYD第3弾「シール」はコスパに加えて味だってスゴい

“アザラシ”たるイメージはほぼナシ(写真)小沢コージ

【小沢コージ クルマは乗らなきゃ語れない】

BYD シール
(車両価格:¥5,280,000/税込み~)

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ま、マジか? 想定外の長澤まさみCMでクルマ好きたちを戸惑わせている中国新興EVブランド、BYDがまたやってくれた。

昨年1月に400万円以下スタート(補助金込み)SUVのATTO3、9月に300万円以下コンパクトのドルフィンを発売。それに続いて今回は第3弾たるEVセダンのシールを発売したのだが、これが意外にも「安さが一番の売り」ではないのだ。それ以上に走りであり、上質感が凄いから絶妙に恐ろしい。

サイズは全長4.8m×全幅1.875mでテスラモデル3やBMWi4らを意識したプレミアムセダンクラス。

何よりスタイリングが競合に負けない流麗フォルムで、正直SEAL=“アザラシ”たるイメージはほぼナシ。ドルフィンとは違うBYD版レクサスのような佇まいだ。

インテリアもBYDとしては珍しく(?)シート表皮に上質ナッパレザーを採用。トリムにスウェード生地や質感の高いパネルを採用し、今までの「安くて良質なアジアEV」という趣きではない。

航続距離575km、0-100km/h加速が3.8秒!

自慢のデジタル性能も充実しまくりで、テスラも驚く縦横回る15.6インチの横長ディスプレーを備え、メーターも完全デジタルな10.25インチ。加えやたらデカいパノラミックルーフや運転席助手席シートヒーター&ベンチレーション、2カ所のスマホワイヤレス充電、PM2.5空気清浄システムから4Gインターネット接続、BYD自慢の幼児置き去り検知システムを全車全グレード標準装備だ。

骨格もATT03らと同じeプラットフォーム3.0ではあるが、シールに関してはさらに剛性と効率を高めたセルトゥボディを採用。加えてパワステはダブルピニオンでフィールを高め、AWDモデルは可変ダンパーと、かつてないiTACというスリップ制御システムを採用している。後者はタイヤの空転ではなく、モーター軸の空転を検知して制御するもので、レスポンスが恐ろしく速い。滑りやすい路面の走りが気になる。

最後に走りを決定付けるパワートレインだが、電池はBYD自慢の燃えにくいリン酸鉄リチウムイオンバッテリーで、容量は82kWh強。後輪駆動のRWDは313psを発揮し航続距離は640km。四駆のAWDは前後モーターで530psを発揮し、航続距離575kmで、0-100km/h加速が3.8秒と激速!

BYDは日本では「ズルい存在」

何より乗るとBYDらしからぬ(?)ほど上質で滑らかで、個人的にはRWDの方がナチュラルで好み。ただし速さなら断然AWDがイイ。静かさならアウディ、走りの骨太さならメルセデスやBMWには敵わないだろうが、価格を考えると性能は十分。なんだかんだRWDが528万円(税込み)、AWDが605万円(税込み)と圧倒的に安いのだ。

むろん中国EVは国際的商取引を考えると、ちとズルい存在だ。中国で売られる新車は基本、現地生産車優先で、輸入車には多額の関税や贅沢税的なものが付加される。中国で売るEVには、中国産電池を積まなければいけないという厳しい制約がある。

比べると、日本に入ってくる輸入車には基本関税はなく、中国産電池を積んだ中国産EVも自由に売っていい。それがまさしくBYDだ。

もちろん、今年度に入ってBYDのクリーンエネルギー自動車導入促進補助金は減らされたが、それでも中国で売られる日本ブランド車を考えると圧倒的にフリー。それを考えるとBYDはズルい。

しかし色々決めたのは我が日本政府であり、BYDオートジャパンに罪はない。判断するのはあくまでも日本国民なので、欲しくなった人は買っちゃうわけなのである。

(小沢コージ/自動車ジャーナリスト)

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