直木賞作家・澤田瞳子の新刊『赫夜』、全冊サイン本の背景ーー転売屋とのいたちごっこはいつまで続く

■サイン本の転売はどう対策するのか

フリマサイトの普及に伴い、たびたび騒動になっているのが転売である。ポケモンカードやゲーム機などの転売はたびたびニュースで報じられるが、出版・書店業界で問題視されているのは、サイン本の転売だ。漫画家や小説家のサイン本は、もちろん作家にもよるものの、本の価格の10倍以上で取引されることも珍しくない。

その一方で、転売が発生するのは都心と地方の格差が影響しているのではないか、という指摘は以前からある。特に、サイン本は東京や大都市の大型書店でなければ手に入りにくく、交通費などを考えると、地方在住者にとっては転売屋から買った方が安いという一面もあるため、転売はなくならないのだ。

こうした問題を重くみて、対策に乗り出す作家もいる。直木賞作家の澤田瞳子は、7月24日刊行予定の『赫夜』(光文社/刊)の初版の約1万部、さらには今後の重版分のすべての単行本にサインと落款を入れるのだという。いわばサインの価値を自ら下げ、転売をできなくするという荒業である。

本の帯にも「全冊著者直筆サイン入り!」と書かれており、光文社側もかなり気合を入れてプロモーションをしていることがわかる。また、読売新聞の報道によれば、通常では書店で買い切り扱いとされるサイン本を、返本可能とする異例の措置をとっているとのことだ。

■作家の負担増を危惧する声も

サイン本はファンにとってはたまらないだろうし、今回の澤田と光文社の試みは、地方在住者にとっては大いに歓迎すべきことであろう。一方で、こうしたサインを入れる行為が当たり前のようになれば、作家に負担を強いることになるのではないか……と危惧する声も上がる。

Amazonやネット通販が普及したことで、地方にいながらにして何でも手に入る時代になったように思えるが、サイン本のようにプレミアムなものは手に入りにくい。むしろ、出版物に関しては、書店の減少の影響で東京と地方の格差がますます開いている印象すら受ける。

サイン本を可能な限り多くの人に届けるためにはどうすればいいのか。ファンに平等に手にしてもらうためにはどうすればいいのか。こうしたテーマについて、出版社、著者、そして読者を交えた議論が重ねられる必要があるだろう。

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