【コラム・天風録】セミの鳴き声が問うもの

 中国地方はきのうも各地で35度以上の猛暑日となった。この暑さに体はまだ追いついていないはず。小まめな水分補給で身を守りたい。でも夏本番には何か足りぬような…▲セミの鳴き声である。職場でも聞いた人はわずか。通勤の道すがら、耳をそばだてている。先日はニイニイゼミ、きのうはクマゼミの声を聞いた。まだ数匹のようだ。梅雨が明ければ、せみ時雨となる。うるさくて暑苦しいけれど、こうでなくては▲米国では一足早く、セミの大発生が話題になった。その数、1兆匹とも。13年と17年ごとに地上へ出てくる二つの集団の羽化が221年ぶりに重なった。13も17も、1とその数でしか割り切れない素数。221は最小公倍数だ▲「素数ゼミ」と名づけた研究者の吉村仁さんによると、他の周期のセミとの交雑を避けて同じ周期の仲間と子孫を残すための進化らしい。数字の魔法を味方に厳しい氷河期も乗り越えた▲人間が招いた温暖化による地球の変化は氷河期の比でないとされる。「果たしてセミたちは乗り越えることができるのでしょうか」と吉村さんは著書で問う。多様な命が生き延びるすべを探せと、セミは鳴き声でせかしているのかもしれない。

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