アメリカでは、中絶の自由化で犯罪が激減?相関関係は認められるも、現在でも議論されている有力な仮説とは?【図解 犯罪心理学】

相関関係は認められるも議論の対象に

妊娠中絶はアメリカを始め、多くの国でその是非について議論がされています。そんな中で、ある仮説が論争となっています。

きっかけは、1990年代でした。アメリカでなんの前触れもなく、犯罪件数が減少していきました。論者たちは、その原因についてさまざまな説を出します。たとえば、警察官が増員されたこと、高齢者人口の増加、厳罰化、銃規制などです。しかし、どれも決め手とはなりませんでした。

そんな中、経済学者のレビットとドブナーがある仮説を出しました。それによれば、1960年代後半から1970年代に行われた「妊娠中絶の自由化」により、望まれずに生まれる子どもたちが減ったことが要因だというのです。

それまでのアメリカでは、中絶は事実上禁止されていました。そのため、生活力のない若い親から生まれ、十分な愛情と養育を受けられずに育った子どもが多かったため、彼らの中から非行や犯罪に走る人が出ていたと言うのです。

中絶が自由化されてからは、望まれない子どもたちは中絶されるので減り、結果として犯罪が減ったというのがその仮説です。

この仮説には、感情的な反発も多くあります。今後もより深い調査と議論が必要となっていくことでしょう。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 犯罪心理学』

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 犯罪心理学』
監修:越智啓太
監修者プロフィール
法政大学文学部心理学科教授。1965年、神奈川県横浜市生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻修了。警視庁科学捜査研究所研究員、東京家政大学文学部助教授、法政大学文学部准教授を経て2008年より現職。臨床心理士。専門は犯罪捜査への心理学の応用。著書に『犯罪捜査の心理学』(化学同人)、『ケースで学ぶ犯罪心理学』(北大路書房)ほか多数。

昨今、様々な事件や特殊詐欺など凶悪な犯罪が増えており、ニュースで犯罪に関する情報を聞かない日はないといえます。誰もが利用するSNSを介した犯罪も当たり前になっており、より巧妙化しながら身近に潜む問題にもなっています。こうした問題や実態について研究し、犯罪予防や再犯防止に役立てようとするのが『犯罪心理学』です。
犯罪心理学は、心理学の中でも実際の現場や実践に役立つことを目的とした“応用心理学”の1つで、特に犯罪行動・非行や犯罪者の心理・行動パターンに焦点を当てた研究分野です。専門書や教科書が多いジャンルですが、本書では図やイラストを用いて、1トピックを見開き1ページでわかりやすく解説。
“普通の人”が犯罪に手を出してしまう経緯、犯行内容から見える犯人像や周囲の環境、巧妙化する手口や防犯法など、知らなかった犯罪心理学を、楽しみながらもしっかりと学べる一冊です。

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