【今週のサンモニ】投票日でもお構えなし|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

あからさまな野党投票呼びかけ

2024年7月7日の『サンデーモーニング』は、この日に投開票の東京都知事選について話題にしました。

通常、テレビは、投票行動に影響を与えないため、選挙当日の選挙報道を控えるのが普通ですが、『サンデーモーニング』はそんなことお構えなしに、あからさまに野党への投票を呼びかける常軌を逸した放送を繰り返してきました。いくつか紹介したいと思います。

■2013年参議院選挙
寺島実郎氏:(安倍政権によって)株が上がってめでたい症候群と、近隣国に舐なめられたくない内向きに向かっている日本が、世界のなかでどういう責任を果たしていかなければならないか考えたい。
岸井成格氏:中国と韓国は、日本の右傾化への懸念が強い。
関口宏氏:ねじれがなくなると…ねじれだってあったほうがいい時がある。

■2014年衆議院選挙(投票率上昇で野党有利に)
姜尚中氏:選挙に行きますか、人間やめますかだ。
浅井慎平氏:少数意見が議論できる人間を確保する選挙だ。安倍氏も覚悟していただきたい。そういうつもりで選挙に出かけていかないと、この国の未来が恐ろしいことになる。
中西哲生氏:策略にハマっている。あえて選挙に行ってほしい。
岸井成格氏:いまのうちに解散という安倍氏や政権与党の思惑が、各メディアの予測に出てきちゃっている。

■2016年参議院選挙
岸井成格氏:権力は必ず腐敗し、暴走する。チェックするシステムを二重三重に作っておかなければいけない。健全かつ強力な野党が存在しないと、議会制民主主義は有効に機能しない。参議院を考えるとき、この鉄則を有権者・国民がきちんと考え直すことが非常に大事だ。いまは衆議院のカーボンコピーのように政党化が進んでしまった。これは打破しないといけない。

■2017年衆議院選挙
田中優子氏:今回の選挙は二つの道のどちらかを選ぶ物凄く大事な選挙だ。一つは軍事化とか軍需産業に将来的に結びつく道、もう一つは世界の大きな流れであるパリ平和条約とか核兵器の廃絶の流れに繫がって、軍事化とは別の道を歩もうとする方向だ。

最近ではインターネットによる監視が厳しくなったため、さすがにここまでひどい投票の呼びかけはしませんが、その伝統は脈々と生きています。

この日も『サンデーモーニング』は自民党が水面下で支援する小池百合子氏を貶め、立憲共産党が全面的に応援する蓮舫氏に与する印象報道を行ないました。

アナウンサー:きょう投開票日の東京都知事選挙、最終日の昨日、候補者たちは各地で最後の訴えを行ないました。選挙戦の最終日、雷鳴がとどろく中、

小池百合子氏(VTR):最近の雨は、降雨は、想像を超えます。何よりも都民の命を守り、暮らしを守って行く。

蓮舫氏(VTR):これからの都政に必要なものは何か!嘘のない!誠実で!正~~~直な都政じゃないでしょうか!変えましょ~~よ!

石丸伸二氏(VTR):ネットも含めて日本中が今、注目しているんです。ここで日本の政治を変えてくれと。

田母神俊雄氏(VTR):最後に一言!田母神俊雄、私は本当にいい人なんです。

アナウンサー:有力候補たちはどのような選挙戦を繰り広げたのでしょうか。

小池百合子氏(VTR):候補者本人、リアル百合子でございます。今日は川から皆様ありがとうございます。

アナウンサー:船の上から支持を訴えたのは小池都知事。その戦術は川上作戦と言うものでした。

小池百合子氏(VTR):アテクシはいつも選挙の時には、早々に八丈島にお伺いするようにいたしております。

アナウンサー:小池氏が最初に街頭演説をしたのは八丈島。次は山梨県境に近い奥多摩。川上作戦とは人の少ない地域から入って、有権者一人一人と接し、徐々に都市部へと移動して行く選挙戦術です。

小池百合子氏(VTR):アテクシは首都防衛ということを申し上げている。皆さんの命を守っていきたい。

アナウンサー:そして現職知事の強みを最大限生かす戦い方。都の補助金で休職を無償化する八王子市では、給食センターを視察します。公務を通じて実績をアピールする形です。公務としての視察は18回。平時と比べ異例の多さです。

記者(VTR):公務に名を借りて選挙活動をしていると見られかねないといった指摘も

小池百合子氏(VTR):何の問題もないと思っております。むしろもっともっと見ていくところはあるかと思っております。

アナウンサー:蓮舫陣営からは「公務優先を理由に公開討論から逃げた」との批判も。また小池氏への支援を表明した自民党議員の応援演説はなく、裏金事件が尾を引く自民党の動きは見えません。反自民を掲げ、立件幹部らが参戦する蓮舫陣営は肩透かしを食った形。

野田佳彦元総理:自民党はステルス作戦ではありませんか。しかも候補者までステルス。こんな異常な選挙、私はないと思いますよ。

要は何かといえば、『サンデーモーニング』はこの制作映像を通して、小池氏が公務を選挙に悪用しているという批判を行っているのです。

もちろん批判するのは報道の自由ですが、小池氏が奥多摩を視察したのは6月22日、給食センターを視察したのは6月25日です。なぜ選挙当日の7月7日まで待って批判したのかあまりにも唐突です。

もし選挙戦を通しての批判であるのならば、公職選挙法違反の疑いで告発された蓮舫氏の事前運動疑惑や日本共産党による事前ビラの配布の方が悪質であり、よっぽど報道価値が高いと考えられます。

何よりも民主主義の根幹を破壊する小池氏に対する演説妨害事案をスルーしているのも不自然です。なぜ、『サンデーモーニング』はこのような重大事案について一切報じないのでしょうか。また、自民党が勝手に支援することを根拠に小池氏を問題視するのも論理的におかしな話です。

「会いに行ける蓮舫」

さて、小池氏を唐突に批判する一方、蓮舫氏に対しては好意的に報じました。

アナウンサー:現職優位を覆したい蓮舫氏が打ち出したのが…

蓮舫氏:会いに来ました。蓮舫で~~~~~す!

アナウンサー:「会いに行けるアイドル」ならぬ、「会いに行ける蓮舫」。LGBTQのイヴェントや神宮外苑の樹木伐採に反対する集会などに参加し、若い世代に訴えかけました。

蓮舫氏:若者を中心に徹底支援すれば!子供!若者!現役世代!シニア!好~~~循環の東京都を私は絶!対!に作っていきたいと思っているんです!

アナウンサー:そして小池氏や蓮舫氏を追うのが石丸伸二氏。その支持層は…
(中略)
アナウンサー:東京都知事選は今日が投票日です。

まるで川上作戦の小池氏にあてつけるように「会いに行ける蓮舫」なるキャッチフレーズを宣伝する『サンデーモーニング』です。このような偏向報道はスタジオトークでも認められました。

みたらし加奈氏:今回選挙の在り方がかなり大きく変わったものがあったと感じた。特にSNSを使った選挙活動は各候補者それぞれが目立っていたと思うが、その中でも私が注目したのが「ひとり街宣」と呼ばれる市民一人一人が街宣を行っていくという運動。
これは2022年の杉並区長選から注目されてきたと言われることだが、今回の都知事選挙では600以上の駅で3000人の方が、ひとり街宣を行なった。これは凄く新しい形の民主主義だ。これから都知事がどうなっていくのかにかかわらず、みんなが都政の動きを見ているというところがアピールされた選挙になって行くのではないか。

膳場貴子氏:選挙の新しい関り方かと思いますが

竹下隆一郎氏:ひとり街宣で面白かったのは、プラカードをもってSNSに投稿するのだが、東京都以外の人もやっている。つまりこれは選挙運動や選挙活動が新しくなっていると思う。

結果は……蓮舫氏の大惨敗

「ひとり街宣」は蓮舫氏の陣営が行っているものです。それを選挙当日に特別に取り上げて「新しい民主主義」と称賛するのもどうかと思います。蓮舫氏が多用した「R」をフィーチャリングしたプラカードをもつなど脱法的な事例もあり、必ずしも民主的であるとも言い切れません。

さて、このような『サンデーモーニング』の偏向報道の甲斐もなく、小池氏は約300万票を集めて当選、蓮舫氏は石丸氏に続く3位でした。立憲民主党と共産党支持者の大半が蓮舫氏に投票したにもかかわらずその得票は約130万票であり、小池氏の半数にも届きませんでした。一言で言えば惨敗です。

しかも『サンデーモーニング』も強調した若い世代はほとんど蓮舫氏に投票していません。

さらには「新しい民主主義」というひとり街宣で取り込めるはずの無党派層をほとんど取りこめられていません。「古い政治」のはずの小池氏の半分ほどです(笑)。

公共の電波を独占使用するテレビが、選挙当日に特定の候補を否定的に報じたり、肯定的に報じたりするのは問題があります。しかも『サンデーモーニング』の場合、否定的に報じるのは自民党に関係する候補、肯定的に報じるのは自民党に敵対する候補です。

日本の民主主義のためにもこのような大衆操作報道は厳に慎むべきです。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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