東京の火葬場会社、役員報酬7億円…火葬料は全国平均の4倍、多額の利益剰余金

東京博善の公式サイトより

東京23区内にある全9カ所の火葬場のうち、6カ所を運営する東京博善の親会社・広済堂ホールディングス(HD)の役員報酬が、3人の取締役分の合計で7億8900万円に上ることがわかり、注目されている。24年3月期分の有価証券報告書に記載されている。東京23区の通常の火葬料金は2020年頃まで約5万円だったが、東京博善は複数回の値上げを行い現在は9万円。21年3月期には83億円だった東京博善の売上高は24年3月期には132億円と約1.6倍に、最終利益は16億円から35億円へ約2.2倍に増えている。厚生労働省は通達で火葬場の運営主体について「原則として市町村等の地方公共団体でなければならず」と定めており、また「非営利性が確保されなければならない」としており、東京の火葬場をめぐる現状の特殊性が浮き彫りになっている。

日本では火葬場は自治体が運営する形態が一般的だが、東京23区は9カ所ある火葬場のうち公営は2カ所のみ。残り7カ所のうち6カ所が東京博善の運営となっている。こうした高いシェアも影響してか、東京博善の料金は高い。東京の公営の火葬場の一つである臨海斎場の火葬料は4万4000円(組織区民の場合)だが、東京博善はもっとも安いプランが9万円と2倍以上。ちなみに全国的な火葬料金の平均は2万円ほどであり、4倍以上ということになる。

料金が高止まりになる背景

東京博善の財務状況は前述のとおり良い。24年3月期の利益剰余金は392億円にも上り、内部留保が積み上がっている。広済堂HDは火葬場運営を含む葬祭事業に加え、資産コンサルティング、情報事業、人材事業など幅広く手掛けるが、営業利益のうち葬祭事業(葬祭公益・葬祭)が占める割合は約85%に上り、主要事業となっている。

同社は24年3月期の決算説明資料で葬祭事業について、

「式場増設が完了!稼働率も順調に推移」

「火葬件数は前年比減少(通期97.0%)も、2023年9月竣工の式場増設により大幅増収」

(「業績の更なる向上」として)「2023年度に増設した式場の収益最大化」

(「長期的成長へ向けた投資」として)「既存敷地内での新たな式場増築を具体的に着手」

としており、注力している様子がうかがえる。

東京博善が運営する火葬場の運営をめぐっては、過去に一部から疑問の声も寄せられてきた。例えば、火葬場では収骨容器、いわゆる骨壷を遺族や葬儀社が用意して持ち込むことは一般的だが、東京博善の火葬場は利用者に骨壷を販売する一方、「お持ち込みはご遠慮願います」としている。また、僧侶派遣による場内読経では、お布施の20%を手数料として徴収する点も指摘されてきた。

「要は東京23区の火葬場が東京博善による独占市場状態になっているので、料金が高止まりになるのは無理もない。他社が23区内に新規で火葬場をつくるのは困難で、同社が価格決定権を持つことになる。東京博善は寺院などの火葬場の買収を重ねて火葬場事業を拡大させ、完全にビジネスとして注力しており、慈善事業としてやっているわけではないので、できるだけ利益を上げようと努力するのは当然。もし仮に、それによって都民が不当に高いコスト負担を強いられていると判断されるのならば、国や東京都が新たに法律や条例なりを定めるしか規制する方法はない。もっとも、厚労省の通達に書かれた『非営利性』に反していると判断される可能性はあり、行政がしかるべき対応を迫られる事案だろう」(自治体職員)

廣済堂の歴史

廣済堂は1949年、櫻井謄写堂として創業した。創業者の櫻井文雄(義晃)氏は印刷会社から出発し、1970年代から80年代にかけて不動産開発、ゴルフ場経営、出版など事業を多角化。かつては、多数のゴルフ場を経営するゴルフ場会社としての色が濃かったが、04年に櫻井氏が83歳で死去し、巨額な借入金を返済するため、負の遺産の整理に着手。ゴルフ場子会社を次々と売却した。

東京博善の創業者は、1881(明治14)年に牛鍋屋「いろは」を創業しチェーン展開させた実業家・木村荘平氏。明治後半に、全国で寺院が運営する火葬場が自治体直営に転換するなか、東京では東京博善が火葬場を統合したことから民営の火葬場として残ったとされる。1983年に廣済堂の櫻井氏が東京博善の筆頭株主となり、85年、会長兼社長に就任した。東京博善の大規模増資を引き受け、94年に廣済堂が6割の株式を手に入れ、子会社に組み入れた。

ここ数年、廣済堂の経営は揺れていた。当時の経営陣は19年1月、米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBO(経営陣が参加する買収)による上場廃止の方針を打ち出した。ベインはTOB(株式公開買い付け)を実施して完全子会社にすることを目指した。創業家がこれに反対し、投資ファンドのレノがMBOに対抗するTOBを仕掛けTOB合戦となったが、いずれも不成立に終わった。

廣済堂の筆頭株主だった、格安旅行会社エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄氏が会長を務めていた澤田ホールディングス(当時)は19年7月、廣済堂株の売却を決議し、グローバルワーカー派遣に売却。同社は中国語新聞の発行や中国の映像コンテンツを発信する中文産業の100%子会社で、中文産業はラオックス社長の羅怡文氏が設立した会社。現在の広済堂HDの筆頭株主はグローバルワーカー派遣となっている

(文=Business Journal編集部)

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