フースーヤ『ABCお笑いグランプリ』での大躍進と『M-1』に向けての不安要素

7日に放送された『第45回ABCお笑いグランプリ』(ABCテレビ)は、昨年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)を制した令和ロマンが宣言通りに2冠を達成。盤石の強さを見せた。

また、ライブ配信が行われたABEMAに関連して「もっとも爪痕を残した芸人」に送られる「ABEMA賞」には、フースーヤが選ばれている。

同大会では令和ロマンや『キングオブコント』(TBS系)で2度のファイナルを経験しているかが屋と同じCブロックに入ったフースーヤ。不利な状況の中、審査員の岩崎う大と立川志らくが令和ロマンを上回る評価を与えるなど、大健闘を見せていた。

「言葉のマジックが天才的。ハマッたらすごいファンになる。芸術です」

「意味のあるおもしろさは、意味のないおもしろさに敵わないというのが僕の持論。だから令和ロマンより、フースーヤに入れた」

とは、志らくの弁。『M-1』審査員時代にはランジャタイやトム・ブラウン、ヨネダ2000など“ファンタジスタ系”のコンビを絶賛してきた志らくだけに、この評価もうなずけるところだった。

フースーヤは、昨年の『M-1』で初の準決勝に進出。敗者復活戦でもインパクトを残し、知名度を上げている。今年は『第54回NHK上方漫才コンテスト』で念願の賞レース初制覇を果たしている。

デビュー直後の2017年に『新しい波24』(フジテレビ系)のメンバーに抜擢され、後継の『AI-TV』(同)にも出演。当時はアイドル的な人気を誇ったものの、その後は結果を残せずにいたフースーヤ。低迷期にネタを叩き、現在のスタイルを確立したことで、いわゆる“客ウケ”だけでなく舞台袖の芸人仲間からも支持を受けるようになっている。

『M-1』は、「2年かけてファイナルに行く」と20年王者のマヂカルラブリー・野田クリスタルが語っていたことがある。まずは敗者復活で名前を売ることで、翌年のウケが大きく変わるのだという。フースーヤにとっては、まさに今年がその年といえる。今の勢いを鑑みれば、フースーヤがストレートで『M-1』のファイナルに進んでも、まったく不思議ではない。

だからこそ、今回の『ABC』で見えた不安要素を指摘しておきたい。ネタ中のくだりである。「お集りの皆さん、レディース・アンド・ジェントルマン!」と言いそうな場面で、谷口理がこう言うのだ。

「レディース……の下着つけてまーす!」

胸と股間を隠す谷口に、田中ショータイムがツッコむ。

「変態でしたー!!」

今回のフースーヤのネタで、ここがイチウケだった。

シンデレラの物語の中で、男性の王子様がレディース下着を着用している。その姿を指さして、客席に向けて「変態でした」と告げる。

一昔前なら、なんの問題にもならないやり取りだろう。だが、世の中は大コンプラ時代を迎えている。もし『M-1』の大舞台、生放送でこの一連が放送されれば、おそらく大炎上していたはずだ。どう取り繕っても「変態でした」は悪口でしかない。悪意がないことはわかっている。だが、そういう時代なのだ。メジャーの舞台に立つとはそういうことだ。

フースーヤの最大の売りは、ナンセンスであることだろう。だからこそ、ネガティブな意味を生んでしまうワードは意識的に避けるべきだし、本人たちが気づかなければ周囲が指摘するべきだろう。

『M-1』ファイナルへの道が見えてきた今だからこそ、もう一度見直してほしいところだ。

(文=新越谷ノリヲ)

© 株式会社サイゾー