「1ドル160円台」をひた走るドル/円だが…過去2年連続で7月に勃発している「米ドルの下落」は、今年も繰り返されるのか【国際金融アナリストの考察】

(※画像はイメージです/PIXTA)

先週も「1ドル=160円台」を維持した「ドル円」。しかしながら、ここまでの米ドル高・円安の主導役と見られる、投機筋による米ドル買いも、「行き過ぎ」の懸念がかなり強まってきた、とマネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は警戒します。今週の相場の展開予測を、詳しく見ていきましょう。

7月9日〜7月15日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉
・先週の米ドル/円は高値を更新し、162円直前まで続伸したものの、週後半は伸び悩んだ。
・ここまでの米ドル高・円安の主導役と見られる「投機筋による米ドル買い」も、かなり「行き過ぎ」の懸念が強まってきた。しかも、7月は過去2年連続で、米ドルが比較的大きく反落し、その一因は、ポジション調整と考えられたことから、今回も、投機筋のポジション動向は注目か。
・今週の米ドル/円は、上記のポジション調整も想定し、158~162.5円で予想。

先週の振り返り=米ドル高値更新、162円直前まで続伸

先週の米ドル/円は、週明けに、トランプ氏の米大統領への返り咲きの可能性が高まったとの思惑などから、米金利が大きく上昇したことを手掛かりに、米ドル買いが先行し、この間の高値を更新し、水曜日に162円突破寸前まで上昇しました。ただし、発表された米経済指標は、予想より弱い結果が目立ち、米利下げ期待から米金利が低下するなかで、金曜日にかけて、160円台前半まで米ドルが反落する場面もありました(図表1参照)。

[図表1]米ドル/円の日足チャート(2024年5月~) 出所:マネックストレーダーFX

それでは、米ドル/円は、先週後半の流れを引き継ぎ、さらに160円割れへ反落が広がるところとなるのか? それとも再び高値更新で、162円突破に向かうのでしょうか。それを考えるうえで注目したいのが、ここまでの米ドル高・円安の主導役となっている可能性のある、短期売買を実施する投機筋のポジション動向です。

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションを見ると、最近にかけて、かなり大きく米ドル買い・円売りに傾斜しているようです(図表2参照)。

[図表2]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

その状況下で、さらなる米ドル買い・円売りを続けることができるのか、逆に、ポジション調整で米ドル売り・円買いに転換する可能性も考えられるでしょう。こういった投機筋の動向が、米ドル/円が160円割れの反落に向かうか、それとも162円突破に向かうか否かに、大きく影響する可能性があります。

過去2年連続で大きく下落している、7月の米ドル/円

ところで、7月の米ドル/円は、過去2年連続で比較的大きく下落しました。2022年は140円手前から130円へ、そして2023年には145円から137円へ(図表3参照)。

[図表3]米ドル/円の週足チャート(2022年7月~2024年1月) 出所:マネックストレーダーFX

このように、過去2年連続で7月に米ドル/円が反落した一因は、まさに投機筋のポジション調整の可能性がありました。

それにしても、米ドル買い・円売りに傾斜したポジションの調整が本格化するのは、どのような状況が考えられるでしょうか? 1つは、米ドル買い・円買いの「行き過ぎ」懸念が強くなった状況が考えられます。そしてもう1つは、米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念が強まった状況でしょう。

この2点について、過去2年の7月の投機筋ポジションをめぐる状況を確認してみましょう。

まず、2023年は6月末時点で、CFTC統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は12万枚弱に達し、当時の感覚としては、米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が強まっていたように思われました。加えて、同じ6月末に、米ドルは120日MA(移動平均線)を7%上回り、米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念も強まっていた可能性があります(図表4参照)。

[図表4]米ドル/円の120日MAかい離率(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上のように、2つの「行き過ぎ」懸念が重なり、2023年7月は米ドル買い・円売りのポジション調整が広がるなかで、145円から137円への米ドル反落が起こったと考えられます。

これに対して、2022年の場合は、少し状況が違いました。CFTC統計の円売り越しは、4~6月にかけて、断続的に10万枚を上回っていましたが、7月には、すでに6万枚程度まで縮小していました。一方で、米ドルは4~7月にかけて、断続的に120日MAを10%上回るといった、米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念がかなり強い状況が続いていました。

以上から考えられるのは、2022年においては、6月にかけて、米ドルの「買われ過ぎ」「上がり過ぎ」といった、2つの「行き過ぎ」懸念が継続し、「買われ過ぎ」を修正するポジション調整が、6月にかけて広がり始めたにもかかわらず、米ドルが大きく下がらない状況が続いたということです。その原因とは、一体何だったのでしょうか?

2022年7月に米ドル/円が反落した要因

2022年の場合は、インフレ対策の米利上げが3月から始まり、その後本格化しました。このため、米金利の上昇に伴う日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の拡大も、7月にかけて続きました。

こういったなかで、ポジション調整の米ドル売りが広がっても、7月にかけて、米ドルの「上がり過ぎ」が継続。米ドルの「上がり過ぎ」の修正が本格化し、ポジション調整の米ドル売りが一段と広がるなかで、米ドル/円が140円手前から130円まで急落に向かったのは、米金利上昇が一服したあとからとなったと考えられます(図表5参照)。

[図表5]米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

さて、以上を踏まえ、足下の状況を見てみましょう。

CFTC統計の投機筋による円売り越しは、確認できる最新のデータで17万枚以上に拡大し、ほぼ過去最高規模に達するなど、米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念が、極めて強い状況にありそうです(図表6参照)。

[図表6]CFTC統計の投機筋の円ポジション(2000年~) 出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

加えて、足下の米ドル/円の120日MAは153.4円程度なので、161円を超えると、それを5%以上も上回る計算となり、米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念が強まりそうです。

それゆえ、「米ドル買い・円売り」「米ドル高・円安」といった2つの観点の「行き過ぎ」懸念から、記録的に大きく米ドル買い・円売りに傾斜したポジションの調整は、いつ本格化してもおかしくない状況にありそうです。ということは、3年連続で7月に米ドル/円の反落が起こる可能性は、やはり注目されるのではないでしょうか。

米ドル買いポジションの「行き過ぎ」調整が始まる?

先週発表された米経済指標は、ISM(米供給管理協会)の製造業および非製造業の景気指数や雇用統計など、全般的に予想より弱い結果が目立ちました。その状況下で、年内2回の米利下げを織り込む形で、米金利の低下が広がりました。

今週は、CPI(消費者物価指数)など、米インフレ指標発表が予定されています。下記のように、今のところ、PPI(生産者物価指数)の前年比上昇率が前回より上回る予想になっていますが、これらの結果を受け、年内利下げ2回を織り込む米金利の低下の流れが、大きく変わることにならないかが、1つの注目点と考えられます。

<11日>6月CPI総合=前回3.3%、予想3.1%
同コア=前回3.4%、予想3.4%

<12日>6月PPI総合=前回2.2%、予想2.3%
同コア=前回2.3%、予想2.5%

そのうえで、米ドル/円としては、この間の高値、161.9円の更新の有無にも注目したいところです。高値更新となった場合は、さらなる米ドル高・円安を模索する展開が続きそうですが、高値を更新せず、いわゆる「二番天井」の可能性が高まった場合には、これまで見てきたように、極端に大きく米ドル買い・円売りに傾斜した投機筋のポジション調整が、本格化する可能性が高まってもおかしくないといえます。

以上を踏まえ、今週の米ドル/円の予想レンジは、158~162.5円中心で想定します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

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