【天風録】落とし物の軽重

 スマホよりも軽い―。ポップ広告に思わず足が止まった。広島市内のデパートで折り畳み傘を物色していた時のこと。早速スマートフォンを取り出して、両手をてんびん代わりに▲確かに170グラムばかりの機器が重く感じる。晴雨兼用が前面に並ぶのは、猛暑と豪雨が気まぐれに入れ替わる梅雨のせいだろう。かばんの底で出番を待つ、かさばらない傘が人気らしい。きゃしゃな物は筆箱や棒形のスナック菓子と見まがうほどだ▲心配もある。傘と言えば落とし物の定番で、小型・軽量化が拍車をかけはしないかと。何しろ昨年、全国の警察に届いた落とし物は過去最多の約3千万点。携帯バッテリーや扇風機、ワイヤレスイヤホンなど小さくて軽い物が増え、警察庁は「紛失に気付かない人が多い」とみる▲背景にスマホ依存を挙げる指摘も。外出先で画面や音楽に夢中になるあまり、所持品への注意が薄れるらしい。わが耳も痛い。物も時間もつい忘れがちだ▲広島県警の落とし物情報には指輪や腕時計といった高価な品も並ぶ。個人の思い出が詰まった宝物もあるに違いない。その喪失感は軽いか、重いか。いま一度、スマホとてんびんにかけるのもいいかもしれない。

© 株式会社中国新聞社