仲村トオル 主演のグルメドラマで、長年のキャリアがにじむ謎の料理店主役を好演 座右の銘は「武士は食わねど高楊枝」 「飯を喰らひて華と告ぐ」【インタビュー】

路地裏にひっそりたたずむ小さな中華料理屋「一香軒」。そこでは謎のすご腕店主が、日々さまざまな事情を抱えて訪れるお客さん相手に、中華に限らず、あらゆる要望に応える最高の料理と激しい勘違いから生まれる的外れなアドバイスと名言を提供する。そして、なぜか誰もが少しだけ元気になって帰っていく…。

仲村トオル(C)エンタメOVO

TOKYO MXで、7月9日(火)23時45分から放送開始となる「飯を喰らひて華と告ぐ」(全12話)は、『ヤングアニマルWeb』連載中の足立和平氏の漫画を原作に、絶品料理とシュールな笑いがクセになる新感覚のグルメドラマだ。謎の店主役で主演を務めるのは、来年、デビュー40週年を迎える仲村トオル。唯一無二のユニークな店主役の端々からは、積み重ねてきた長年のキャリアがにじむ。その舞台裏を聞いた。

-今までにない新感覚のテレビドラマですが、最初にオファーを受けた時の印象は?

まず面白いと思ったのは、「1話当たり正味12分」という点です。「タイムパフォーマンス」=「タイパ」という言葉が定着し、さまざまなものの切り替えサイクルが早くなり、世の流れとして、テレビドラマや映画を早送りで見ることも珍しくありません。実際、自分の子どもたちの話を聞いていると、「TikTokより長い動画を見るのは苦痛」という声も聞こえてきます。そんな中、12分のドラマというのは、短編小説よりも俳句や川柳などに近く、時代にマッチした切れ味のいい作品になるのではないかと。

-仲村さんの演じる店主は「料理の腕前は一流で、客の要望にはすべて応える。しかし勘違いが激しく、なぜか見当外れなアドバイスと名言を自信満々に語る」というユニークなキャラクターです。役づくりはどのように?

調理シーンについては、クランクイン前に指導を受けて練習しました。「勘違い」な点については当初、「勘違いしているふりをして、本当はお客さんのことを理解し、癒やしと生きる力を与え、背中を押している」と思っていたのですが、監督から「完全に勘違い」とお聞きしてから、「100%そう信じている」という態で演じるようにしました。例えるなら、サッカーの試合に1人だけハンドボールだと信じて出場し、でもゴールをバシバシ決め、「点取りまくりだよ!」と得意になっている。そんなイメージです。

-そんな店主を演じる仲村さんと、きたろうさんや高橋ひとみさん、柄本時生さんなど、毎回店を訪れるお客さんを演じる個性的なゲストとの掛け合いも見どころです。皆さんとのお芝居はいかがでしたか。

ゲストの皆さんからは、いろんな刺激をいただきました。実は、原作者の足立先生とお会いしたとき、「店主は原作よりもやや濃い目のキャラになったような気がします」とお伝えしたんです。

-そうでしたか。

足立先生は「原作では店主を際立たせるため、お客さんの表情を強調しないようにしている」とおっしゃっていたのですが、実写化する場合、登場人物を演じる俳優の生身のお芝居からは、いろんなものが生まれます。例えば、相手がどんなボリュームでせりふを言うかによって、僕のリアクションも変わってきます。もし、聞き取れないくらい小さな声だったら、僕は「えっ?」と身を乗り出すかもしれません。そういうことを一つずつ積み重ねていった結果、原作よりも濃い目のキャラになったんだろうなと。そういう意味では、ゲストの皆さんと一緒になって出来上がったキャラクターだと思っています。

仲村トオル(C)エンタメOVO

-店主の独特の存在感は、40年近い仲村さんのキャリアに裏打ちされた部分も大きい気がします。その点に関連して、これまで長く芸能界で活躍してこられた理由を、ご自身ではどのように分析しますか。

シンプルなことですが、一つ一つの仕事に対して「一生懸命に取り組む」ということはデビュー当時から心がけてきました。「これは楽勝だ」と思ったことは一度もありませんし、「これは得意かも?」と思った瞬間に、「その油断は危ない」と考える癖が身についてしまっています。それを繰り返しているうちに、40年経ってしまった気がします。

-長く続けるにあたっては、魅力を感じる部分もあったのでは?

デビュー作の『ビー・バップ・ハイスクール』(85)のとき、「映画をやっている人たちって、魅力的だな」と強く感じました。たぶん僕は、作り話を本当の物語にしようと本気で取り組んでいる人たちが好きなんでしょうね。僕自身、今も時々、役や作品について現場で熱く語ってしまい、ふと「作り話なのに、何をこんなに熱く語っているんだろう?」とわれに返ることがありますし(笑)。そういう意味では、周りの人たちに恵まれていたことも、僕がここまでやってこられた大きな要因です。僕が「故郷」と呼ぶ「あぶない刑事」シリーズ(86~)は、その象徴です。振り返ってみると、その「故郷」にそろっていた魅力的な方たちのおかげで、ここまで導いていただけたような気がします。

-店主は毎回、ユニークな名言を残しますが、仲村さんご自身が俳優を続ける中で大事にしてきた座右の銘はありますか。

「武士は食わねど高楊枝」は、この仕事を始めて間もない20代前半から、頭の片隅にずっとある言葉です。ありがたいことに、僕は非常に幸運なスタート(『ビー・バップ・ハイスクール』の主役公募オーディションに合格してデビュー)を切ることができました。でも、最初の頃は「いつか仕事がなくなる」と不安な時期もあったんです。そんなとき、ある方のアドバイスをきっかけに、たとえ仕事がなくても自分のポリシーやルールは曲げず、腹が減っていても減っていない顔をする、仕事がないのは休んでいるだけ、として生きていこうと思えるようになって。そんな考えに、「武士は食わねど高楊枝」という言葉がぴったりだったんです。

-ドラマをより楽しむヒントになりそうなお話です。それでは最後に、放送を楽しみにしている皆さんへのお言葉をお願いします。

劇中のナレーションで「この店に来た客は、みんな口をそろえてこう言うよ。『なんかよかった』ってね」とお客さんが語っていますが、ご覧になった皆さんにも、「料理はおいしかったし、あの親父、勘違いしてとんでもないことをしゃべっていたけど、なんか面白かったな」という一香軒に来たお客さんの気分を味わっていただける作品だと思います。僕自身、とても楽しく演じられましたし、忙しい方も無理なくご覧いただける「1話あたり12分」というタイムパフォーマンスのいい作品なので、ぜひ気軽に楽しんでください。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2024足立和平・白泉社「飯を喰らひて華と告ぐ」製作委員会

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