【漫画】人工衛星と地球を結ぶ鉄道が走る、ちょっと未来の話……構想9年のSNS漫画『トランクライン』がスゴい

ちょっとだけ未来の、とある人工島には、巨大な人工衛星と地球を結ぶ鉄道「トランクライン」が存在していた。そんな世界で息をする主人公の日常と葛藤を描いた漫画『トランクライン』が2024年6月にSNSで投稿された。

新しい技術がどんどんと開発されていくなか「トランクライン」の社員として働く主人公・センリは移り行く時代と世界に悲しさを感じていてーー。

本作は作者・ABZさん(@kelp_tea)の実体験や思いが表現された作品でありつつ、完成まで9年以上の歳月を費やした漫画なのだという。本作を創作したきっかけ、完成した際に感じた気持ちなど、話を聞いた。(あんどうまこと)

ーー創作のきっかけを教えてください。

ABZ:むかし駅の清掃員をやっていて、線路がまっすぐと伸びている光景を目にしながら「このまま宇宙までいけそうだな」と疲れた頭で思ったのです。そのときにこの思いを漫画として描いてみたいと思うようになりました。

ただ本作が完成したのは当時から9年ほど経った2024年の春でした。

ーー本作が完成するまでの経緯は?

ABZ:最初は鉄道で宇宙まで行く、夢のある話を描けたらいいなと思っていました。ただ描きはじめると本当に自分が描きたいことはなんだろうと悩むようになり、長い間、作品のテーマに悩んでしまったのです。

そんななか漫画制作のワークショップに参加した際、自分の中で表現したいことに気づくきっかけがあって。変化があまりにも早すぎる時代に取り残されてしまう、置いていかれてしまう悲しみーー。そんなテーマで作品を描きたいという思いに気づき、完成に至りました。特に物語の終盤、センリが「かわって/捨てて/忘れていかないと…/置き去りにしないと/前に進めないのかな…?」とこぼすシーンが印象に残っています。

ーーセンリさんの台詞のあとにつづく、キャロルさんの「それでも/見つけてくれる人がいるってだけで/救われるんだよ」は本作を象徴する台詞だと感じます。

ABZ:これはネームを描いていて自然に出てきた台詞でした。時代が変わり、新しいものが出てきて、古いものが壊されてしまうこと。その変化についていけない人が置いていかれてしまうことは、仕方のないことだと思います。

ただ過去のものを見つけてくれる、覚えてくれる人がいるーー。そんな希望を描き、センリのような人たちにとって、救いのあるお話にしたかったです。

ーーお話を伺うなか、漫画を完成させるためには、相応のカロリーが必要なのだと感じました。

ABZ:これまでも短編漫画を描いていましたが、改めて漫画を完成させるまでの道のりは大変なものだと感じました。描きたいものが描けず、自分の内側にあるものを外に出したいのに出てこない歯がゆさをずっと感じていて……。本作を完成させることができ、今はスッキリしています。

ーーなぜ長い期間がかかっても、大変さを感じても漫画を描こうと思える?

ABZ:自分でも不思議なのですが、自分の中でくすぶっていたものがあったのだと思います。自分の中で物事や社会に対して思っていることを、表現したい、外に出したい。自分にとって外に出すために適していた方法が漫画だったのではないかと。

ーー10年近くの時間をかけて完成した本作が完成した際に感じた気持ちは?

ABZ:全然だな、もっと良くできたな……と思いました。本作は2024年5月に開催されたコミティア(一次創作物の即売会)に出展した作品であり、作品を入稿するための締め切りもありました。急ぎ足で描いたこともあいまって、完成した際には「もっと絵を描きこめたな」と思ってしまいました。

もちろん達成感もありましたが、悔しいという気持ちの方が大きかったです。

ーー今後の活動について教えてください。

ABZ:もっと漫画を描いていきたいです。漫画を描けなくて苦しんでた期間が長かったので、描けなかった期間を挽回できるくらい、漫画を描いていきたいです。

(あんどうまこと)

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