冷たいビールがリスク要因に?【熱中症】には忙しいパパ・ママ世代も要注意!

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毎年、夏が近づくと、心配になるのが熱中症。本格的な暑さを迎える前に、熱中症リスクが高い場所や予防法について、再確認しておけると安心です。

国際認定山岳医・日本山岳ガイド協会認定登山ガイドで、救急医療の現場でも多くの熱中症患者に対応してきた三井愛氏に、詳しいお話を聞きました。

Q.熱中症の原因と症状について教えてください

私たちの身体には、暑さや運動によって体温が上昇しても、深部体温を37℃程に保つ体温調整機能があります。ところが、体内の熱の放出がうまくできずに身体が熱くなりすぎたり、多量の発汗や脱水で水分と塩分のバランスがくずれたりすると、この体温調節機能が正常に働かなくなって熱中症に陥ります。

つまり熱中症は、炎天下での運動時などに発症するだけでなく、エアコンをつけない室内など蒸し暑い場所で生活しているうちに、じわじわと高体温になることでも起こります。

脳を含む重要な臓器は37℃以下でいちばんうまく働きます。熱中症により体温がそれ以上高くなると、上手に機能しにくくなります。また、脱水が起こると筋肉や脳・内臓に十分に血液が行き渡らなくなり、筋肉がこむら返りを起こしたり、意識を失ったり、肝臓や腎臓の機能が低下したりします。

熱中症ではさまざまな全身症状が生じますが、軽症だとめまい・立ち眩み・手足のしびれ・筋肉痛やこむら返り・大量の発汗を認めます。中等症の症状は、頭痛・嘔吐・倦怠感などです。集中力や判断力の低下のような、ごく軽い意識障害が生じることもあります。重症では意識障害や痙攣が起こったり、まっすぐ歩けないという症状が出現したりします。

Q.どのような人が熱中症になりやすいのでしょうか

国の統計によると日本では、2023年度には91,467人もの方が熱中症で救急搬送されており、最も多いのが54.9%を占める高齢者(満65歳以上)です。その理由として、心臓の病気や糖尿病などの既往があり、熱中症のリスクファクターとなり得る薬を内服している方が多いことがあります。また、腎機能が悪く水分や塩分の調整がうまくできない、社会的に孤立しがちであるといったことも、高齢者が熱中症を起こしやすい理由です。

高齢者に次いで多いのが成人(満18歳以上満65歳未満)で、割合は33.8%。成人の熱中症の原因として多いのが、炎天下などの環境下で勤務をする必要がある、意欲が強くがんばりすぎる、忙しく十分な睡眠が取れていないなどです。この世代ではアルコール摂取もリスク因子となります。

もちろん、体力が弱く臓器機能が未発達の15歳未満のお子さんも、熱中症への注意が必要です。世代問わず、肥満も大敵です。

Q.熱中症を起こしやすい場所や行動にはどのようなものがありますか

どのくらい熱中症を起こしやすい環境であるかは、「暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)」によって判断できます。「暑さ指数」は、気温だけではなく湿度、 日射・輻射などを取り入れた、熱中症の危険度を示す指標で、テレビの天気予報などでも発表されています。

「暑さ指標」が28℃を超える日は熱中症の危険度が高く、熱中症予防のための運動指針(※1)では「激しい運動や持久走は避ける」「体力の低い人は運動しない」などが示されています。

また、適切な水分摂取ができていない人や、暑さに慣れていない人は熱中症になりやすいと言えるでしょう。

※1.参考サイト「日本スポーツ協会」

Q.熱中症を予防するためにできることはありますか

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熱中症は予防できる疾患です。自宅にいる場合は、暑さを我慢せずクーラーを使いましょう。

活動中は「体重(kg)×行動時間(h)×5 (ml)」以上の水分を摂取するようにします。体重50㎏の人が1時間活動する場合、「50kg×1時間×5ml」で250ml以上が目安となります。

ただし、水ばかりを飲むと、身体の塩分濃度が薄くなったと脳が勘違いして、口渇感(こうかつかん)を感じにくくなってしまいます。塩分を含んだ飲料をこまめに摂取するようにしましょう。また、意図的に休憩することも重要です。

Q.熱中症になってしまったらどのように対処したらいいですか

軽症のうちは頭痛や吐き気、ふらつきといった、はっきりとしない症状が出現します。熱中症リスクを伴う環境で活動をする際は、まず「体調不良は熱中症ではないか」と疑うことが大切です。

軽症例では現場での応急処置がまだ可能な段階で、涼しい場所に連れていって衣服を緩めます。そして頚部(首)・腋窩(脇の下)や鼠径部(足のつけ根の内側)を冷やし、水と塩分を摂取させましょう。

意識障害を呈する中等症以上では、すみやかに医療機関を受診する必要があります。熱中症は重症化すると、多臓器障害や播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)という全身に血栓のできる病気に進展し、最悪の場合死に至る可能性もあります。「いつもとは何か違う」と感じたら、それは軽度の意識障害かもしれません。迷わず救急車を呼びましょう。

教えてくれたのは・・・

三井 愛さん

Ai Mountaineering Clinic代表。普段は地域中核病院の救急医療を担う外科専門医。そのかたわら、患者様からの依頼を受けて健康に不安のある方、体力の弱い方の夢を叶える山登りをサポートする国際認定山岳医・日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(Monte Guide Union所属)としても活動。自分自身も限界に挑戦する現役のアルパインクライマーとして邁進中。救急医療の現場でもアウトドアの現場でも多くの熱中症患者に対応している。

「Ai Mountaineering Clinic」のホームページはこちら

取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部

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