私財を投じて保護猫活動する小児科医 現在お世話している猫50匹以上 23年で180匹超を保護

林かおる先生の自宅に保護され、のびのび暮らしている猫たち【写真提供:林かおる】

猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。そうした保護猫をお世話し、行き場を失っている猫の命を守るため、積極的に行動している人たちが少なくありません。コラムニスト・峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。今回は大阪府堺市の小児科医と保護猫についてのお話、後編です。

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医院と自宅で4棟続き 気づけば50匹以上の保護猫たちが

前回は堺(大阪)の“奇跡の猫”、五郎丸のことを紹介しました。小児科・林医院の林かおる先生が育てている猫です。医院と自宅など4棟続きの家には林先生夫妻とお姉さん、お母さんの4人が住んでいます。そこで50匹以上の猫をお世話しています。

林先生の家では、もともと祖母が猫を飼っていました。飼うといっても、かつて多くの家であったような、野良猫や地域猫にごはんをあげ、家と外を勝手に行き来させるような飼い方でした。

実家は開業医でした。林先生は高校を出て兵庫医科大学に進学し、ひとり住まいをするようになってからは一時的に猫との生活から離れます。その後、研修を経て、大阪市立大大学院に進学するのですが、父親が亡くなり、大学院を出て、23年前に改めて開業するために実家に戻ります。

たくさんの猫を個人で保護し、私財を投じている林先生【写真提供:林かおる】

その際、捨て猫を見つけ、連れて帰りました。実家にも飼っていた猫が何匹かいて、猫との生活の再開です。林先生の診療室は1階、猫を飼うのはその2階と3階、母親が住んでいる隣の母屋でした。その後、母屋の隣の2軒を買い取り、合計4棟に。気づけば、猫の数は50数匹になりました。土地は全部で200坪、部屋数22。現在、林先生夫妻、姉で猫の面倒を見ています。

「医師会の会合などが終わっての帰り道、捨てられた猫や体が弱っている猫を見つけて連れて帰ったり、姉が弱っている地域猫を見つけて連れて帰ったりしているうちに増えていきました。TNR活動をやって地域猫として返すこともあります。野良だった猫が多いから、家の中で暴れるのもいますよ」

4棟を猫が行き来できるよう庭にも、つなげている部分が【写真提供:林かおる】

「ずっと猫のために働いているようなものですね」

4棟は家と家を行き来でき、庭などでもつながっています。猫は小さな隙間からでも脱走するし、ちょっと目を離した隙に逃げるかもしれないので、いくつもある出入り口は閉め切って、各棟を行き来する出入り口も二重にガードして脱走を防いでいます。

林先生は今後の保護猫活動のために近くに土地も購入し、5階建てのビルが完成したばかりです。譲渡会などに充てる予定とのことです。

家の中を案内してもらいましたが、すぐに逃げてしまうか、隠れてしまう猫も多く、あまり写真を撮ることができません。

「50匹はほとんど成猫です。人を見たら逃げる猫(こ)が多く、人に懐くのは半分くらいかな。抱っこできるのはその半分、あとは触われるけど、隠れてしまう猫です。“奇跡の猫”の五郎丸も保護した猫の子どもです」

気ままなようで、ストレスを感じながら生きている猫も多いので、壁に穴を開け、ほかの部屋と行き来できるようにし、3次元の空中の施設やジャングルジムのような部屋を作り、自由に遊べるようにしています。

ジャングルジムのように上り下りできる場所も【写真:峯田淳】

「ジャングルジムは設計からやってもらいました。空中施設の費用、入り口を二重にする費用など、全部合わせると何百万円もかかっています」

また、ごはん代と病院の費用は毎月200万円かかるとのこと。

「開業して23年。その当時からいる猫もいます。猫は病気もしますから、病院代もバカになりません。腎臓や肝臓をサポートする特別なエサが必要な猫もいます。獣医さんで売っているようなフードは高いですからね。ずっと猫のために働いているようなものですね」

たくさんの猫たちが、ごはんを食べる様子【写真提供:林かおる】

お世話してきた猫の総数は180匹以上 「姉が毎週のように譲渡会に」

これまでお世話した猫の総数は180匹以上。保護したまま最後まで看取ったり、譲渡会などに連れて行き、里親を探したりした猫は130匹以上。

「姉が毎週のように譲渡会に行っています。譲渡に連れて行き、気に入った猫がいる人には、ここまで来てもらい、その人の住環境を見て、トライアルに出すこともあります。譲渡会のメンバーの方にも手伝っていただいて。ただ、成猫が多いので、なかなか里親が決まりにくいですね。『家で慣らしてみます』とか、『頑張ってやってみます』という方も多いのですが」

林先生が猫を飼い続けるのはどんな理由からでしょうか。林先生は猫派。犬よりも猫が好きだそうです。

「猫は自分勝手、ツンデレでしょ。私にとっては、そこが気楽でいいんです。猫は思いが強くても、ある程度触れ合ったら“もういいわ”という感じになるでしょ。好きなときに寄ってきて、自由に生きている。猫とのそんな関係が好きです」

熱い思いも語ってくれました。

「私は小児科医だから、命ある子どもは未熟児であっても必ず助けたいと思っています。命あるものは子どもでも猫でも同じ。五郎丸がそうでした。目の前で死んだりしたら耐えられない。小児科医だから、言葉をしゃべれない子どもを見ることも多いわけですが、しゃべれないのは動物も同じ。ものが言えず、SOSを出したら、助けてあげたくなります」

さまざまな思いを語ってくれた林先生【写真提供:林かおる】

「殺処分されることも、なんとかしないといけない」

話は子どもと動物の虐待にも及びました。

「堺市で子どもの虐待の委員をやって、24時間、虐待を監視するシステムを始めました。虐待は連鎖します。虐待をする人は小さい頃に虐待されたとか、親から十分な愛情を受けていないことが多い。そういう子が大人になると我が子を虐待するようになるわけですが、それって実は動物いじめから始まっているんです。弱い動物に対する愛情が欠けているところから、虐待は始まる。そういうことから動物を守りたいですね」

さらに、「捨てられた猫、野良猫が保護センターで殺処分されることも、なんとかしないといけない」とも。

早朝5時起床、猫の世話をしてから、午前診療は9時から12時、午後は医師会の仕事や学校の健診などをこなし、4時からは再び診療、7時終了。食事をして9時から11時くらいまで猫のお世話。林先生の一日は多忙です。

峯田 淳(みねた・あつし)
コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。

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