高級魚なのに回転寿司で100円…ミナミマグロ価格急落で漁船は年間8000万円減の赤字 本マグロとの差とは

左から天然冷凍ミナミマグロ大トロ、中トロ、赤身 ※画像は日本かつお・まぐろ漁業協同組合公式YouTubeチャンネル『@japantuna2479』より

余裕の30度超えの日が続き7月頭にして夏真っ盛りのいま、旬を迎えているのは“マグロの女王”との呼び名もあるミナミマグロだ。

インド洋で多く漁獲されることからインドマグロの名でも親しまれているミナミマグロ。“マグロの王様”である本マグロに次ぐ高級魚だが、回転寿司チェーン店でも提供するケースが増えるなど、消費者がお手頃価格で口にできる機会が増えている。そして、その背景には、卸価格の急落があるという。

「南半球の冷たい海を回遊した身はきめ細かな美しさで“赤いダイヤ”とも評されます。甘みのある濃厚な味わいが人気。本マグロのように肉感を売りにするのではなく滑らかな食感と口触りが人気ですね」(グルメ誌ライター)

ミナミマグロが使われたマグロ丼  撮影/編集部

ただし昨今の燃油の大幅な値上げにより、近年、ミナミマグロを最大の主力漁とする遠洋マグロはえ縄漁業は、コスト面での負担が重くのしかかるという。弊サイトの取材に応じてくれた日本かつお・まぐろ漁業協同組合組合長の香川謙二さんは「船を1隻出せば燃油だけで1億円から1億5000万円ほどもかかる」と話す。そのうえ人件費、えさ代、船の修繕費なども高騰しているという。

さらにそれに加えて、卸価格の下落が――。香川さんによると、10年前の2014年に1キロあたり2124円だったミナミマグロの卸価格は少しずつ下がり続け、コロナ禍の20年には1418円と10年間で過去最低をマーク。その後復調し、22年には2483円にまで価格が上がったものの、23年には1512円と再び急落したという。これは20年に次ぐ低価格で、前年比約4割も価格が下落した計算だ。

日本かつお・まぐろ漁業協同組合に所属する遠洋まぐろはえ縄船約140隻のうち約半数を占めるのが、ミナミマグロの漁獲船だ。香川さんによると「23年は、ほとんどのミナミマグロの操業船で年間7000万から8000万円程度の水揚げ額減少で、大半の船が赤字」とのこと。漁価状況の悪化が続けば漁船は航海に出られず、経営を継続できない。乗組員はもとより流通、造船関係者にも影響が出るという。

■本マグロがブランド化する裏で“苦戦”強いられるミナミマグロ

円安や燃料高の影響で市場に出回る野菜や肉類、漁獲類の物価は上がっているにもかかわらず、ミナミマグロの魚価が下がっているのはなぜなのか。前出の日本かつお・まぐろ漁業協同組合組合長の香川さんが、3つのポイントを指摘する。

「ひとつめは、卸価格が1キロあたり2483円と高価になった22年に、買い控えてしまった消費者の需要が回復していない可能性。2つめは、本マグロの供給量が増えブランド化する一方で、ミナミマグロの認知度がなかなか上がらないことです」(香川さん)

近大マグロの呼び名で知られるのは近畿大学で養殖化に成功した本マグロ。この成功が契機ともなり、本マグロの養殖が活発となり市場供給量が増加する裏で、ミナミマグロが苦戦を強いられている現状があるという。香川さんが続ける。

「国内で養殖される本マグロは、10年前に1万トンだったのが今や2万トン。海外から輸入される養殖本マグロも10年前は1万3000トンでしたが、今は2万5000トンにまで増えています。さらに大間の本マグロのように、ブランド化も進んできました。

年間流通量は本マグロが現在年間6万トンなのに対してミナミマグロは1万5千トンほどあって、極端に流通量が少ないわけではありません。それでも、ミナミマグロはスーパーでもなかなか置いてもらえない。やはり知名度が低いからというのが大きいでしょうね」(前同)

そして魚価が戻りづらい3点目の理由は、「冷凍庫の不足」だという。

「冷凍マグロは漁獲直後から流通段階まで、マイナス60度の冷凍庫で2年くらい鮮度を保ったまま保存できるというのがメリットです。ただ現在、マグロの搬入量が多くなっており、冷凍庫が不足している実態があります。行き場がなくなり、安く買われてしまうため、どうしても価格は戻らないんですよね」(同)

■「安さ」に飛びつく回転寿司の裏で生産者の本音は「厳しい」

市場において行き場をなくしたミナミマグロ。そんなミナミマグロに飛びついているのは、回転寿司チェーン店だ。100円寿司チェーン「はま寿司」では、7月2日から「みなみまぐろ大とろと大切り夏祭り」として、ミナミマグロの大トロを100円(税込110円)で販売中。はま寿司ではこれまでにもしばしばミナミマグロ大トロを100円で提供しており、その度に人気を博している。

その他、スシローやかっぱ寿司など、大手回転寿司チェーン店でも度々ミナミマグロをメニューに取り上げる。高級魚であるミナミマグロを回転寿司が手頃に提供できる理由には、やはり卸値の安さが関係するそうだ。

「価格面だけを見ると、生産者として非常に厳しい面があるのは否めませんし、(安い価格が)定着するのも困ります。ただ、まずは多くの人にミナミマグロを口にしてもらい、人気度、知名度が上がることが大切。それによって価格も戻ってくれたらなと思います」(前出の日本かつお・まぐろ漁業協同組合組合長の香川さん)

日本かつお・まぐろ漁業協同組合ではミナミマグロ認知度向上のため、YouTubeにてミナミマグロの魅力を伝える動画を公開中。7月中には天然マグロの本来の旨みをテーマにした動画の公開を予定しており、今後も継続的な発信を続けていくという。果たして、ミナミマグロの今後は――。

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