若田光一氏が語った「米アクシオムを選んだ理由」や「日本の有人宇宙活動に必要なこと」

宇宙航空研究開発機構(JAXA)から米Axiom Spaceに転職した若田光一氏は7月9日、アジア最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2024」に登壇。現在の業務や民間宇宙ステーション計画の概要、有人宇宙輸送で日本が取り組むべきことなどを語った。モデレーターは同じく元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏が担当した。

SPACETIDE 2024に登壇した若田光一氏。同じく元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏がモデレーターを務めた

若田氏といえば日本の宇宙飛行士におけるレジェンド的な存在だ。5回の宇宙飛行、累計504日の宇宙滞在は日本人最多かつ最長で、JAXAで理事長を務める山川宏氏は「我が国の有人飛行を牽引してきた」と評価する。

そんな若田氏の転職先が、米スタートアップのAxiom Space(アクシオム・スペース)だ。4月から同社の民間宇宙飛行士として、同時にアジア太平洋地域アジア太平洋地域の最高技術責任者(CTO)として活動している。

「業務は主に日本を拠点に民間宇宙飛行の顧客獲得や資金調達を担当している。また、米ヒューストンでは船外活動服を開発しており、例えばクルーが触るディスプレイにどういった表示がなされるべきかを決めている」(若田氏)

民間宇宙ステーションをどう構築?

Axiom Spaceでは、国際宇宙ステーション(ISS)の後継となる民間宇宙ステーションの構築にも取り組んでいる。若田氏によると、同社の宇宙ステーションは建設段階では既存のISSを活用する。2026年末以降に最初のモジュールをISSにドッキングし、その後もモジュールを追加。そして、2030年にISSが退役する段階でISSから分離独立し、即座に運用を開始する。

「Axiom SpaceはISSに独自モジュールをドッキングする権利を得た唯一の民間企業」と若田氏

また、Axiom SpaceはSpaceXのFalcon 9ロケットを用いて民間宇宙飛行ミッションをすでに3度成功させている。「弊社は民間ミッションを通じて宇宙活動を効率的に訓練しており、地上管制室とのコーディネーションなどの経験もすでに獲得している。2030年のISS退役と同時に、宇宙ステーションとしての能力を最大限発揮できる」と若田氏は胸を張る。

若田氏が「弊社」という言葉を使っていることが感慨深いと山崎氏

このほか、Axiom Spaceは船外活動服の開発も手掛けている。「Artemis IIIで月面に降り立つ宇宙服や、ISS向けの宇宙服を開発している。「弊社が宇宙服の所有者で、NASAはそれを借りて使うという形になる。顧客はNASAに限らず、民間飛行士の船外活動にも使える」と若田氏は説明する。

Axiom Space以外の選択肢は?

セッションでは、来場者からの多くの質問に若田氏が回答した。

──日本が民間の有人宇宙活動を進めるにあたって重要なことは?

若田氏:最も重要なのは、宇宙基地協力協定(IGA)のような国際的な法的枠組みや、日本の国土から安全に宇宙機を打ち上げて、安全に再突入させて着陸もしくは着水させる、そうした活動全体をカバーできる国内法も非常に重要になる。今は過渡期にあると認識していて、やはり法的整備が重要だと思っている。それから、LEO(地球低軌道)の活動にしても宇宙往還機にしても、スタートアップに対して門戸が開かれている時代になってきているが、そこで重要なのはいろいろな意見を持った企業がチャレンジできるような官民のパートナーシップが重要だと思っている。企業間のコラボレーションや官民のパートナーシップがあればイノベーションの速度が格段に上がってくる。

ーー民間に転職した経緯を教えてほしい。

若田氏:2024年4月に岸田首相がホワイトハウスにいらっしゃって、日本人初の月面着陸が約束された。これはエポックメイキングなイベントで興奮しているが、もう1つ大事なのはLEOにおける人類活動の持続的な発展だ。一番近い宇宙であるLEOにおける民間主導の活動に尽力するために、Axiom Spaceに転職した。

ーーAxiom Space以外の転職先は考えた?

若田氏:民間のLEO活動に関わりたいと思い、さまざまな民間企業を勉強したが、Axiom Spaceはすでにモジュールを開発して実際にモノを作っている。訓練やペイロードのインテグレーションも民間宇宙飛行ミッションで着実に進めている。LEOの民間活動でリーダーシップを取っているという意味でAxiom Spaceを選んだ。

ーーAxiom Spaceの民間宇宙ステーションはISSとどう違う?

若田氏:ISSと同じで短くて数週間、長くて1年間の滞在も可能。8人が常時滞在できる設計だ。ISSと大きく違うのはキューポラ(観察窓)の大きさ。Axiom Spaceのステーションはもっと大きい窓を備え、地球観測に関してはISS以上に視野を大きく観測できる。その意味では快適性は増すと思っている。

ーー人工重力装置はある?

若田氏:私の知る範囲で弊社にその計画はないが、今後のLEO活動においてバーチャルGを作る可能性は十分にあると思っている。

ーー宇宙に行く予定は?

若田氏:生涯現役で頑張りたい。いつ行くかはわからないがその日を目指して努力したい。今後、民間の宇宙旅行者が増えるとしても、初めて宇宙に行くにはベテランのガイドが必要。その意味で、今後も商業宇宙飛行士のニーズは一定量あると思っている。ただ、(SpaceXの)Dragon宇宙船は自動化が進んでおり、初心者でも安全に宇宙へ行って帰ってこれる。将来的には全員がルーキーでも宇宙に行ける時代がくると思っている。

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