湘南ベルマーレの“楽観視できない”劇的勝利。浦和戦で見せた隙とは

石井久継(左)畑大雅(右)写真:Getty Images

2024明治安田J1リーグ第22節の全10試合が、7月5日から7日にかけて各地で行われた。湘南ベルマーレは6日、敵地の浦和駒場スタジアムで浦和レッズと対戦。最終スコア3-2で勝利している。

一時は1-2とリードされたものの、後半終了間際の2得点で逆転勝利を収めた湘南。依然としてJ2リーグ降格圏内(18位から20位)の19位に沈んでいるが、同じく今節勝利の17位サガン鳥栖との勝ち点差4を維持し、J1リーグ残留争いに踏みとどまっている。

ここでは今節の浦和戦を振り返るとともに、湘南が前節の京都サンガ戦から改善したポイントや、J1残留に向け修正すべき点について論評する。


石井久継 写真:Getty Images

浦和vs湘南:試合展開

浦和の速攻を何度も浴びながら、湘南が先取点の奪取に成功する。前半32分、アウェイチームの速攻が一度不発に終わったものの、同クラブDF畑大雅が敵陣左サイドでボール奪取。その後田中聡、池田昌生、山田直輝の湘南MF陣がペナルティエリア近辺でパスを繋ぐと、田中が同エリア左隅から左足でシュートを放ち、ゴールを挙げた。

後半開始以降、湘南はハイプレスの手を緩め、[5-3-2]の隊形による撤退守備を軸に戦う。堅守速攻から追加点を挙げたいところだったが、逆に浦和に同点ゴールを奪われてしまった。

途中出場の湘南FW福田翔生が後半16分にハーフウェイライン付近でドリブル突破を試みたものの、これが浦和DF佐藤瑶大に阻まれる。加えて湘南FWルキアンが佐藤のファウルのアピールに気をとられ、こぼれ球に反応した浦和DFマリウス・ホイブラーテンにアプローチできず。湘南にとってこれが失点の遠因となった。

ホイブラーテンによるボール回収から浦和の遅攻が始まると、MF渡邊凌磨のラストパスに途中出場のFWチアゴ・サンタナが反応。ペナルティエリア左隅から湘南GKソン・ボムグンの股下を通過するシュートを放ち、浦和に同点ゴールをもたらした。

1-1のタイスコアになってからは両軍の守備隊形が間延びし、ボールが互いの陣地を行き来する慌ただしい試合展開に。迎えた後半29分、浦和MF渡邊がハーフウェイラインからのドリブルで湘南の陣地に侵入すると、またもT・サンタナへラストパスを送る。このパスを受けたT・サンタナが湘南最終ラインの背後を突き、GKソンとの1対1を制した。

形勢逆転で敗色濃厚となった湘南を救ったのは、後半に投入された石井久継と根本凌の両FWだった。浦和が自陣でパスを回した後半44分、ペナルティエリアで味方のバックパスを受けたGK西川周作に、根本がプレスをかける。西川から見て左側のパスコースを消し、得意の左足を使わせなかった根本のこの守備は秀逸で、これにより西川は右足でのロングキックを余儀なくされた。

西川のロングボールを畑が回収したことで湘南の速攻が始まると、福田のパスを受けた石井がペナルティアーク近辺で右足を振り抜く。翌日が19歳の誕生日だった石井は、この日が18歳ラストゲーム。今季開幕前に湘南トップチームに昇格した同選手による渾身のシュートが、Jリーグ屈指のGK西川の手をかすめた後にゴールネットに突き刺さった。

石井の同点ゴールが生まれてからも、湘南は攻撃の手を緩めず。守備の出足が鈍くなっていた浦和を自陣に釘付けにすると、ペナルティエリア手前で小気味よいパスワークを披露。迎えた後半アディショナルタイム(同47分)、福田とのパス交換から田中がラストパスを繰り出すと、これに反応したルキアンがペナルティエリア中央でシュートを放ち、決勝ゴールを挙げた。驚異的なリバウンドメンタリティーを発揮した湘南が、J1残留へ望みを繋ぐ勝ち点3を手にしている。


浦和レッズvs湘南ベルマーレ、先発メンバー

修正された前節の問題点

最終スコア0-1で敗れた前節の京都サンガ戦では前線からの守備(ハイプレス)の際、相手サイドバックに誰が寄せるのかが曖昧になっていた湘南。ゆえにこのポジションからの配球を許し、これがJ2降格圏内に沈むチーム同士の直接対決を落とす一因となったが、今回の浦和戦ではこの点が改善されていた。

この試合で特に効果的だったのが、長きにわたり湘南に在籍し、今季開幕前に浦和へ移籍したDF石原広教への守備だ。

基本布陣[4-2-3-1]の浦和に対し、湘南は[3-1-4-2]の隊形を基調とするハイプレスで応戦。タッチライン際から内側へ立ち位置を移し、自陣からのパス回しに加わろうとした右サイドバック石原に、湘南のインサイドハーフ山田が激しく寄せていた。

山田が浦和のセンターバックにプレスをかけた際は、湘南の左ウイングバック畑が石原を捕捉。このマークの受け渡しを円滑に行えたことが、湘南の攻勢に繋がっていた。ハイプレス時に相手サイドバックを誰が捕捉するのか。京都戦の反省を踏まえ、浦和戦に向けてこの点を整理した湘南の山口智監督の手腕は称えられるべきだろう。

畑大雅 写真:Getty Images

求められる守備のブラッシュアップ

湘南のハイプレスに部分的な改善が見られたものの、相手ボランチへの守備についてはブラッシュアップの必要性を感じた。浦和が自陣からパスを繋いだ前半15分の場面がこの最たる例で、ここでは湘南FWルキアンが浦和DFホイブラーテン(センターバック)に寄せたものの、ホイブラーテンの縦パスを受けようとした浦和MF安居海渡(ボランチ)がフリーになっている。安居に対する湘南FW鈴木章斗の寄せが遅れたため、ホイブラーテンからの縦パスが繋がってしまった。

その後安居から浦和MF伊藤敦樹、MFエカニット・パンヤへとパスが繋がり、最終的にはホームチームMF武田英寿が惜しいミドルシュートを放っている。湘南としてはハイプレスを掻い潜られ、浦和の速攻を浴びたワンシーンだった。

最終ラインへのプレスが旺盛な一方で、相手ボランチを誰が捕捉するのかが曖昧。これは湘南が今季序盤より改善できていない課題であり、この点を修正できなければ今後も失点がかさむだろう。

また、相手の隊形変化への順応・対応が鈍いのも、湘南が向き合うべき課題のひとつ。前半18分には、浦和の右サイドハーフ武田が自陣へ降り、パス回しに関与。攻め上がった右サイドバック石原と、浦和DF佐藤(センターバック)の間に武田が降りる形となっており、湘南はこれに対処しきれなかった。

ここでは自陣でボールを捌いた直後に攻め上がった武田への畑の守備が遅れたため、湘南が浦和の速攻を浴びてしまっている。右サイドでボールを受けた伊藤からFWブライアン・リンセンへのロングパスが繋がらなかったため事なきを得たが、湘南のハイプレス自体は掻い潜られていた。

湘南のハイプレス攻略のために浦和はあらゆる策を講じており、前半19分には伊藤が味方センターバック佐藤と右サイドバック石原の間へ降りている。佐藤から浦和MF渡邊(トップ下)への縦パスが繋がると、渡邊のパスを受けた石原が右サイドからクロスを上げ、最終的にはエカニットがミドルシュートを放った。

ここでも湘南の守備の段取りは曖昧になっており、伊藤に対し湘南の左ウイングバック畑が中途半端に寄せたため、石原が敵陣タッチライン際でフリーになってしまっている。ハイプレスか撤退守備か。この判断が湘南の選手間で統一されていないように見えたワンシーンだった。

今回の浦和戦でもハイプレスの設計が甘く、これゆえに相手の速攻を何度も浴びる形となった。京都戦での致命的な欠陥を改善できたとはいえ、J1残留に向けこれだけでは不十分。ゆえに今回の奇跡的な勝利で、湘南の今後を楽観視するのは難しい。連動性の低いハイプレスが原因で、ボールが自陣と敵陣を行き来するオープンな試合展開(乱打戦)になりがちな現状から脱却したいところだ。

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