ゼロイチに挑む福島の地方銀行 復興、人口減少…迫られる「脱」銀行

先日、衝撃の調査結果が発表された。有識者で作る「人口戦略会議」によると、全国の4割にあたる744もの自治体が「消滅可能性自治体」にあたるという(消滅可能性自治体:2050年までに、20歳から39歳の若い女性人口が50%以上減少すると推測される自治体)。特に東北は165自治体と最も多い。この状況をひときわ重く受け止めているのが地方銀行だ。福島県を地盤とする地方銀行「東邦銀行」もその一つ。地方銀行は地域と一心同体。地域の衰退は自行の衰退を意味するだけに事態は深刻だ。地域の衰退が懸念される中、東邦銀行は手をこまねいているわけではない。ここ数年、力を入れてきたのが創業支援、いわゆるスタートアップ支援だ。担保ありきの融資から変化、適度にリスクを取り、ファンドなども活用しながらスタートアップへの出資を始めた。こうしたスタートアップへの出資は、上場した際のリターン(上場益)が期待されるが、地域の企業を育てることで活路を見出す地方銀行の新たな姿ともいえる。最近では出資だけでなく社員を数年間派遣するケースまであるという。AIを活用した監視カメラシステムの「セキュア」など、上場を達成するケースも出始め、成果を上げている。

「セキュア」社 上場時のセレモニー(2021年)

さらに今年度、東邦銀行は、これまでのスタートアップ支援を進化させる形で、福島県とともに起業家を育てるプログラムを開始する。これまでは、取引先の事業に出資するスタートアップ支援だったが、今回はいわゆる「ゼロイチ」がテーマ。アイデアの創出からビジネスプラン作成まで支援するという。一般的な起業はもちろん、社内起業などに意欲のある人を支援。8月から全11回の講座を開く(ふくしまイノベーションプログラム2024)。野村総合研究所から講師を招いた講座で、通常は受講料がかかるが今回は無料。力の入れようがわかる。プログラムから良いアイデアが生まれれば、東邦銀行が支援をしていくという。東邦銀行は1万近い取引先があり、そのネットワークも活用できる。「成長企業が福島県内に生まれれば、人口減対策にもなる。復興のその先にある新しい福島を作ることもできる。」担当者は早くも意気込んでいる。変わる福島の地方銀行。情報管理の厳しさ故、これまで控えてきたウェブ動画もいよいよ始めた。行員自ら出演し今回のプログラムの参加者を募集している。

東邦銀行が始めたYouTube動画 行員も出演(右)

地方銀行の中には、大都市部での取引拡大や、地域を超えた経営統合などで活路を見出すところもある。一方で、東邦銀行は13年前の東日本大震災と福島第一原発の事故後に、現在のパーパス(使命・存在意義)「すべてを地域のために」を掲げた。あくまでも福島にこだわり続ける。福島はいまだ復興途上。人口減少と復興という二つの大きな課題を乗り越えなければ、地域にも東邦銀行にも未来はない。奇しくも福島県ではいま、被災地に先端産業を集積させて復興を進める「イノベーションコースト構想」が進んでいる。この流れに乗り東邦銀行も、スタートアップ支援にさらに力を入れている。被災地では大学による研究の集積の動きなどもあり、地域の未来に少しずつ光も見え始めている。被災地のこれからについて東邦銀行の担当者は「プラスしかない」と期待を込める。

東北大学が福島国際研究教育機構(福島県浪江町)と連携協定締結

迫られる「脱」銀行。スタートアップの支援で、地域の、そして銀行の未来を切り開くことはできるのか。福島の地方銀行では、金融サービスの枠を超えた新たな姿の模索が始まっている。

Chu!PRESS編集部

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